SECOND-PHASE 戦場の中で


クルーエルとの戦闘から数時間が経過した現在。
軍のデータには載ってないZGMF-722・・・クルードに疑問を抱きつつも、カナトは己の愛機と決める。

しかし現在の状況では余りにも情報が少なく、必要最低限でも情報を得る為、クルードのコンピュータからデータの吸出しを行う事となった。
それから数刻後、クルードからのデータの吸出しが終わったと言う報告を受け、カナト達はMSデッキへ向かっていた。

##########################################

[プラズマフェーズ MSデッキ]

MSデッキには数人の工員がMSの補修やチェック等の作業を行っている中、カナト達の前に一人の少年が仁王立ちしていた。

その少年の名はシン・ヴォルフィード、彼こそガーウィン隊のMS・戦艦の技術・整備主任である。
年は15、正確や言動も少年そのもの。
だが彼らコーディネイターはその身体能力等から15歳以上で成人と認められている。
つまりは彼も一応は立派な成人だと言う事である、あくまで公式での話ではあるが。


「・・・じゃこれからZGMF-722、クルードからのデータ吸出しの結果を報告するよ」
「あぁ、始めてくれ」
「じゃ、まず初めにクルードの機体データから・・・あー形式番号ZGMF-722、全高・・・」
「その辺はどうでもいい、先に機体性能を聞かせろ」


咎める様にシルバの声が飛ぶ。
別に苛立っている訳ではない、言葉に棘があるのは彼が元々そういう喋り方だからだ。
それを分かってはいる筈だが、シンは我侭な子供の様にムスッと顔をしかめている。


「・・・ったく分かったよ、えーっと・・背部のウイングに大型ブースター、脚部に補助ブースターを取付けている所から、宇宙空間での高機動重視に開発された機体っぽい。
 だけどコンピュータによる推定だと、機動力があり過ぎてパイロットにかかるGが半端じゃなく強いから、
 相当手馴れてないとコイツに振り回されちまう所か・・・死んじまうかもな?」
「おいおい、死んじまうって・・・なんつー無茶苦茶な機体だよ」
「俺に言うな、コイツを作った奴に言えよ」


さっきの一言が引き金か、シンの口調はシルバに対して明らかに喧嘩腰になっている。
流石に子供相手に喧嘩を買うほどシルバも大人気ない訳ではない。
が、二人の睨み合いは飛び火しそうになるほど激しい・・・


「あの時はがむしゃらだったけど・・・今思えば確かに普通には扱えないじゃじゃ馬かもな・・・」


カナトは自ら体験したクルードの高過ぎる機動力に自分がついていくのが精一杯だったことを改めて痛感する。
高い機動力も扱えなければ、ハンドルもブレーキも無いF1マシンの様なものであり、
曲がりきれずにただ一直線に闇雲に突っ込み、単なる的になるだけだ。

アカデミーでも常に高い評価を得ていたカナトには今までに無い、初めての壁でもあった・・・

その雰囲気を知ってか知らずか、シンは淡々と報告を続けていく。


「んで次に武装についてだけど・・・シグーにも使われているMA-M4A重斬刀、15.78m光刃レーザーブレードの馬鹿でかい対艦刀「シュベルトラング」、
 他にも40mm口径のライフルタイプのビーム兵器が一つ装備されてる。
 でも試作段階の物みたいで不安定、その上今までの武器と違ってビーム兵器はバッテリー消費するから気を付けた方がいいよ」
「あ、あぁ・・・」
(・・クルードを完全に使いこなしてみせる、絶対にな・・・!)

強く握り締めた拳を見つめるカナト。
その姿からは誰もが感じ取れるほどにその重苦しい空気を纏っていた。

その空気を未だに読めないのかわざとなのか、シンは更に報告を進めていく。


「え~っと・・・?次はクルードのデータから算出できたZGMF-723 クルーエルの機体データだな・・・」
「「ッ!」」
「外見や形式番号からして、コイツはクルードとの兄弟機に当たるみたい、
だけど全身の装甲にレアメタルを使っていて分厚い重装甲・・・、
 その上、両肩の大型シールドにはアンチビームコーティングが施されてて、出力の低いビーム兵器は勿論、実弾でも簡単には傷一つ付かないって」
「ちっ・・・アイツにはあの時みてぇにジンの武装じゃ歯が立たねぇってことか」
「まぁ、そういうことっ」


苛立ちを露にするシルバに対しても、シンは簡単な言葉で片付ける。
挑発と受け取ったのか、シルバの表情からは青筋が二本ほど浮き出ていた。


「次に武装だけど、まずその両肩に装備されている大型シールド、
 コレの裏には95mm高エネルギーキャノン『ヨムルンガンド』があるからカウンター攻撃もありうる」
(ちっ・・ったく、お偉いさん方も厄介なもん、みすみすナチュラルにくれてやったな・・・)
「他にも腰に装備している重突撃機銃が2丁、バックパックに80mmレールガン2丁、右腕に内蔵型ビームサーベル・・・
 っと、武装面じゃ圧倒的に向こうの方が上だな、たぶん拠点防衛用に開発された重MSって考えた方が妥当かも」
「言ってくれるな、全く・・で、ジンの武装じゃあ歯が立たない。ならクルードだとどういう攻撃が有効なんだ?」
「こいつへの対抗策・・・ズバリ接近戦!だけど重斬刀じゃコイツへの効果は知ってるよな?シュベルトラングしか効果は期待出来ないとかもよ~?
 ウチの隊長は無茶するしな、吸出ししたデータから多めにスペア作っておくからな♪」
「あぁ頼んだぞ、おまえの腕前は期待しているからな」
「へへっ・・・照れるね。まっ、やるだけやるさ」


技術主任としてシンの目利きと腕前は正しく本物である。
それはコーディネイターとしての才能か、彼の出生からなのかは分からない。
だが、ガーウィン隊の"仲間"としてこれほど頼りになる者はそうはいないだろう。


「ところで隊長、この先私達はどう行動すれば良いのです?」


ギルバート艦長の問いがカナトに向かう。
他の隊員達も軽く息を呑みながら彼を見つめている。

部隊の指揮をするのはこの若き隊長、しかも先程の戦闘やクルードの扱いで些かの焦りがあるかも知れない。
今まで共に戦ってきた隊長を信じていない訳ではない。
だが、一部隊を預かる隊長として、カナトは幼すぎるのだ。

隊員の半分は彼よりも年上であり、その分だけ嫉妬や疑問視が少なくも無い。
だが、彼の実力が上回っていると言うのは事実でもある、彼がこの隊の体調と言うポストにいるのが何よりもの証拠だ。

隊員達は懸念しつつも、隊長であるカナトの指示を仰ぐしかないのだ。


「・・そうだな、ガーウィン隊は現状を維持、次の命令まで待機だ」
「・・・いいんですか隊長?あの機体・・・クルーエルを放って置いて・・・?」
「これは"最優先任務"、つまり任務中やらにコイツを発見次第そちらを優先し、破壊せよ、ってことだろ?
 別に今すぐコイツを堕とせって訳でも無いしな」

先程までのカナトの険しい表情と雰囲気で自分が知ってるカナトでは無くなっている・・・そう思っていたからであろうか、
カナトの微笑みでキアラは少し安心していた。


「皆も良いよな!?」
「「・・・はっ!」」


その場にいた皆がカナトに向かって敬礼する。
ガーウィン隊の結束力を形にした様に、全員の息が揃った敬礼だ。


「・・・それでこそオマエだよ、さっきまでの弱虫さんよりはな」
「何だシルバ、また俺に負けたいか?」
「ぬかせ、俺はてめぇに負けた覚えは一度もねぇよ!」


カナトの苦笑しながらの送り言葉にシルバはいつもの返し言葉を送る。
二人にとって、このやり取りこそいつもの・・・そして信頼の証であった。

##########################################

[プラズマフェーズ ブリッジ]

数時間が経過し、他のオペレーターと共にキアラは報告用の先程までの戦闘データの処理を行っていた。
その最中にコンソールから通信音が鳴り出し、キアラは直ぐさま回線を開く。


(これは・・・カナトは確かMSデッキに・・・)

##########################################

[プラズマフェーズ MSデッキ]

内通用の通信機から通信音が鳴る。
一人の工員が通信機へと駆け出し通信を繋げ、小さなモニターにキアラの姿が映し出される。

「・・・隊長、キアラからです、なんか用事の連絡みたいですよ」
「あぁ、わかった」

『隊長、イリヤ・テール指揮官からの新しい任務要請です』
「分かった、こっちの画面に繋げてくれ」
『了解しました』


モニターはキアラの姿から切り替わり、イリヤの顔が映し出される。
青いボブカットの髪、透き通るような白い肌、黙っていれば絶世の美女だろう。
そう、黙っていれば・・・


『また苦労した顔みたいね、カナト君』
「はいはい、貴方様の任務のおかげでね」
『そんな嫌そうな顔をしないで、任務を通達する私まで気分が悪くなるでしょ・・・』
「・・・って事は、また俺達は一苦労するって事でしょ」
『察しが良い事・・・そう、今度は連合の宇宙中継基地の破壊、よろしくね♪』

「また急な任務を・・・、単身この部隊だけで地球軍の中継基地を堕とせ、だなんて」
『仕方ないでしょ、宇宙でも向こうの物量の面は上、少しでも多くの宇宙基地を叩かないと厳しい、ってお偉いさんが五月蝿いの』
「僕には貴方の方が厳しいような気がしますけど・・・」
『あら、お世辞のつもりかしら?もうちょっと勉強するコトね』


カナトは顔をしかめる、イリヤの事はどうも苦手である。

イリヤが別に悪い人では無い事は十分に理解している。
しかし、どうもこの人の性格とその子供扱いにしているのがあまり好きではなかった。


「・・・で、早く話を進めましょうよ」
『つれないわね・・・でも確かにそうね、勿論貴方達でやってもらおうとは思わないから安心してね♪』

(ほんと嫌な言い方するな、この人は・・・)

『ミサギ隊との共同任務として下っているから6時間後に現地で合流、その場で基地を占拠あるいは殲滅をお願いね。そうそう、彼女達の部隊はもう既に行動に出ているから♪
 座標はそっちに転送しておくから、ある程度までの自由行動も構わないから。それじゃ・・・健闘を祈るわね』


モニターの前で敬礼するイリヤの姿を最後に、一方的に通信が切れる。
途端にカナトは一気に緊張の糸が解けたかの様に全身の力が緩み、うなだれる。
その表情はあまり良いものとは言えない、右手で額の冷や汗を拭い溜息を一つこぼす。


「・・・やっぱ、あの人だけは慣れねぇな・・・
 ・・っておい、何笑ってるんだよ」


カナトが視線を送るとシルバを含めたその場にいる殆ど行員達が口を押さえて笑いをこらえていた。


「いやいやいや、わりぃな・・・くくくっ・・」


カナトの様子にこみ上げてきた笑いを噴出し始めるシルバ。
カナトは不服そうに腕を組むが、自覚している点もあり黙ってその場をやり過ごした。


##########################################

[6時間後、L4コロニー宙域]

それぞれの自由時間も終わり、プラズマフェーズは既に停留していたローラシア級MS搭載艦『アブラフル』へと近付く。
互いの通信範囲が届くある程度の距離まで近付き、ブリッジへと通信を繋いだ。
Nジャマー散布前ではあるが、やはりコンソールに写る映像は多少ブレが生じている。
だが相手の姿をはっきりと映すには問題ない程度であった。


「お久しぶりです、ミサギさん」
『ほんと、貴方達の噂はよく聞いてるわよ』
「いえ、それほどでも無いですよ」


コンソールの画面越しにカナトと会話している女性は、今回ガーウィン隊と共に作戦を行うミサギ隊隊長、ミサギ。
緑服であり尚且つ女性ではあるが、実力主義であるコーディネイターの社会では女性の隊長などは然程珍しくも無い事だ。
ガーウィン隊との共同戦線も何度かあった為、お互いに顔も知っていた。


「・・・それで、どう動きます?」
『そうね・・・ナチュラルぐらいに正攻法で行っても構わないけど』
「・・・油断はしない方が良いですよ、数時間前に連合軍が雇った傭兵の襲撃を受けました。
 なんとか撃退はしましたが・・・連合のテリトリーであるココに補給の為に戻ったソイツと鉢合わせになる可能性もあります」
『カナト君が苦戦した相手ね・・・・・・分かったわ、こちらでも十分警戒させておくわ』
「えぇ、それで作戦の方ですが・・・僕とシルバの二人で敵を撹乱させておきます。
 その間にミサギ隊のMSと戦艦2隻による波状攻撃をお願いします」
「りょーかい、君達だったら・・・いえ、君達だからやってしまいそうな無茶な作戦ね」
「ははは・・・、それじゃあまた作戦終了後に・・・」


アブラフルとの通信が切れる。
それと同時にカナトが立ち上がり、艦橋にいる隊員達も一斉にカナトの方を向いて立ち上がった。


「作戦開始まではまだ少し時間があるな・・・よし、一部の工員は艦とMSの整備を、
 残りはローテーションを組みながら自由時間だ。皆万全な体勢を取れる様に!」
「「はっ!」」


一斉の礼を最後に隊員達はそれぞれのセクションへと移動を開始する。

ある者は艦橋に残り周辺の警戒に当たり、ある者はMSデッキで機体を整備し、ある者は自室で同室の仲間と戯れる。

皆が思い思いの行動を過ごしながらも、二隻の軍艦は静寂な宇宙空間を漂い続ける。
刻一刻と作戦開始までの時間を刻みながら。



戻る



© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: