FOURTH-PHASE 始まりの再会



虚空の宇宙空間に浮かぶ母なる惑星(ほし)、地球。
その地球へザフト軍の軍事用シャトル、それに連なる大型貨物用シャトルが大気圏突入の準備を着々と向けていく。

貨物用シャトルにはクルードとクリムゾン、
そのパイロットであるカナトとシルバの他、数人の工員が乗り込んでいた。

彼等の今回の任務は数日前に遡る・・・

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[プラズマフェーズ ブリーフィングルーム]

「カーペンタリアまで新型MSの護送をしろ、って・・・」


カナトの呆気に取られ間の抜けた声を出す姿に、モニター先のイリヤも不満そうな顔でカナトを見ていた。


『正確にはその新型の設計図だけど・・・何?任務に不満があるって言うの?』
「あ、いや、そういう訳では・・・」


イリヤの大人げのない膨れっ面にカナトは苦笑いを浮かべる。
物理的な補給は済ませてはいるが、前回の任務の疲労や士気の低下が未だ拭い切れていない等、不満がない訳ではない。

だが、イリヤが一旦機嫌を損ねると取り繕うのが面倒になる事はカナトも充分に理解しており、先ずはとにかく宥めようと意識を切り替える。


「お、俺達にだって休養は必要ですから・・・でも任務の通告の時にしかイリヤさんに会えないのは残念ですよ?」
『・・・そう?今までからしたらそうは思えないけどねぇ?』


流石にかまの掛け合いではイリヤの方が一枚も二枚も上手だった。


『まぁいいわ、貴方達には既に地上での任務があるから、それのついでだと思って』
「嫌が応でも、ですか・・・分かりましたよ、やればいいんですよね?」
『物分かりが良くて私も嬉しいわ♪哀しい事だけど、貴方も私もあくまでも一軍人に過ぎないんだから』

(要するに俺達は歯車みたいなもんで、上の命令にいらぬ詮索は無用・・・って事か)

「・・・えぇ、分かってますよ、それぐらい」
『そう?それじゃあ、頑張ってね♪』

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「・・・ま、仕方ないか・・・」
「は?カナト、お前いきなり何言ってんだ」
「あぁ、ちょっと考え事をしてただけだ」
「なら良いんだけどよ・・・ははぁーん?」


何かに感付いた様に突然にやけるシルバにカナトは言い知れぬ悪寒を覚えた。


「な、何だよ?気味悪い顔をして・・・」
「いやー、モテる男は辛いねー」
「・・・・はぁ?」

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[同時刻 シャトル内]

「・・くちゅ!」
「風邪ですか?」
「うぅん、多分誰かが噂・・・したのかな」
「よっぽど人気なんですね、キアラさんって」
「そんな事ないよ、ライル君だって注目の的だよ?」
「それってあんまり喜べない方向のような気が・・・」


シャトル内では他の隊員達と共にキアラとライルが隣合わせに席に着き、談笑していた。
現在も任務中とは言え、地球に降りるまでのほんの一時でも体を休めようとしているのだ。


「それにしても意外だね、ライル君みたいなのが軍人だなんて」
「僕は・・・キアラさんこそ軍人には見えないと思いますよ。どうしてザフトに入ろうと思ったんですか?」
「・・うん、最初は自分から入ろうだなんて思っても見なかったんだけどね・・・」


小さく呟きながら、キアラは窓の外に目を向けた。

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[4ヶ月前 L4宙域周辺]

血のヴァレンタイン、本格的な開戦から約10ヶ月。
プラント住民の一部は第二のプラントへの直接攻撃を恐れ、中心都市や中立コロニーへの移住を開始し始める者が現れていた頃。
その中に、キアラの家族もアプリリウスへの搭乗便に乗客していた。


「後少しでアプリリウスに到着、これで少しは安心出来るわね」
「あぁ、ザフトの新兵器とやらでナチュラルは核兵器が使えないらしいからな」
「・・アーサーったら、暴れないかな・・・」
「あら、アーサーは利口な犬よ?キアラが心配しなくても大人しくしてるわよ」
「そうだけど・・・こんなに人がいっぱいいるし、カナトみたいに一度熱くなったら止まってくれないよ・・・」
「あの向かい家の息子さんか、昔から彼と妹のリィルちゃんと一緒に遊びに来ていたな」
「う、うん・・・」
「ユニウスセブンにおられたご両親が亡くなられて、可哀相に・・・」
「カナト君、リィルちゃんを残してザフトに志願して、今も無事ならいいんだけど」

(カナトったら・・・今頃どうしてるかな・・・)

「・・・キアラおねえさん?」
「えっ?」


窓の外を見ていたキアラは不意に呼び掛けられ、通路側へと振り向く。
其処に立っていたのは、紫色の髪で金色の瞳を持つ見覚えのある少女だった。


「・・リィルちゃん!?リィルちゃんもこのシャトルに乗ってたの!?」
「はい、兄さんから移住先の住所とチケットが送られて来たんですよ」
「そうなんだ、カナトが・・・」
「でもまさかシャトルの席までお姉さんと隣なんて、なんだか運命みたいですね」
「運命、かぁ・・・」

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時を同じくして、連合軍の艦隊から出撃していた哨戒部隊がシャトルの航路に近付いていた。


『隊長、この先はプラントの領海内ですが・・・』
『構わん、宇宙人共が勝手に決めた事だ・・・全く、忌ま忌ましい奴等め』
『・・隊長』
『今度は何だ?』
『グリーンベータにプラントへ向かうシャトルが、航路から推測するとアプリリウス周辺のプラントに向かっているようです』
『宇宙人共のシャトルか・・・そうだ、プラントの要人がそのシャトルに乗っているやも知れん、
 “外交手段″として確保するとしよう、小隊各機!そのシャトルに襲撃をかける!』
『『・・了解!』』

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[シャトル 操縦席]

自動操縦に任せた機長は息をつこうと先程キャリーアテンダントが、手元のスペースに置いたコーヒーに手を伸ばした所で、
ふと目を通したセンサーに何らかの熱源が近付いて来る事に気が付く。

始めは偶然付近の航路を通っている同業か、ジャンク屋の素人だと思っていた。
しかし、接触を防ぐ為に行うコールはなく、熱源は明らかに人為的な航路と速度で、既にモニターで確認可能な距離にまで接近していた。


「これは・・・連合軍のメビウス!?」


機長は困惑しながらも再度の通信要請をかける。
しかし依然としてメビウス部隊からの反応は返って来ない。


「こちらはPSL、前方の連合の部隊、直ちに本船への接近を停止せよ・・・!
 くそッ、何故こちらの通信に応答しようとしない!?」

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「あれはナチュラルのモビルアーマーじゃないのか!?」


窓際に座っていた一人の乗客が叫んだ声に、機内はざわめき始める。
外に見えるメビウスはシャトルを囲む様に周回し、徐々に距離を詰めていく。


『我々は地球軍所属第17機動連隊だ、貴艦は我が軍の領域に無許可に侵入しており、我々は貴艦を拘束する職務と権限がある』


無論プラント間を航空しているシャトルが連合の領域に侵入している筈がない。
寧ろ彼等連合軍の部隊こそが領域に侵入しているのだ。
だが彼等の虚言に乗客達はどよめき、客員が収めようとする中で、様々な声が飛び交っていた。


「冗談じゃない!俺達は戦争に巻き込まれるのが嫌で乗って来たっていうのに!?」
「お願いだから家に帰して頂戴よ!」


キアラは自分の席で小刻みに震わせた両手を祈る様に握り締めており、見かねたリィルの手がキアラの手の上から優しく握られた。


「大丈夫ですよ、きっと助かります、兄さんがいるから・・・!」
「・・カナトが・・・」
「はい、兄さんはいつでも私達を助けてくれましたから!」


リィルは何の屈託もない真っ直ぐで優しい笑顔を向ける。
その笑顔と言葉にキアラは何かを思い出したかの様に荷物をあさり始め、一台の携帯を取り出した。


(お願い・・・届いて・・・!)

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「これは国家間問題になる明らかな条約違反だ・・・何を考えているんだ彼等は!?」
「しかし機長、このままでは我々は・・・」
「・・くっ、ぬぅ・・・ッ」


『・・分かった、これより当機は貴方達の言う通りにしよう・・・』
「利口な判断だな、先ずは乗客リストを・・!?」


隊長の言葉に割り込む様に突如警報が鳴り響く。
それは敵機の接近を知らせるエネミーコール。
確認してみれば、二機のジンとその後方に母艦と思われる一隻のローラシア級がこちらへと向かって来ていた。


「何!?こんな所に何故ザフトが・・!?」


接近して来た二機のジンは通常とは違い、それぞれ純白と真紅の一色に染め上げていた。
それはエース機の称号。
二機のジンはそれぞれメビウスに重突撃機銃の銃口を向けた。


「漸くプラントに帰還するってのに隊長命令でこんな宙域に来てみれば、連合が海賊に成り下がってるとはなァ・・・!」
『くそ・・だがな、こちらにはシャトルの人質がいるんだぞ!?」
「この宙域はプラント側だ、この状況と推進剤の残量からして離脱はほぼ不可能、仮にも捜索に来た自分の艦に帰還出来ても、
 海賊ならともかく、連合の軍人が民間のシャトルを人質に取ったとすれば極刑は免れないな?」
「ぬゥッ・・・ぜ、全機攻撃開始ッ!なんとしても此処を離脱せねば・・・!」


隊長の命令と共に全機のメビウスがシャトルから離れ、散開して二機のジンへ突撃していく。


「交渉決裂ってやつか・・メビウスが離れている隙に俺がシャトルを護衛する、
 ランドールは援護を、お前は好きなように暴れてやれ!!」
「そういう指示なら大歓迎だぜッ!!」

「FからJは紅い方を、残りは私と白い方を墜とすぞ!!
 こうなれば証拠ごと隠滅だ・・・シャトルごと撃墜してしまえ!」


三機のメビウスが逆三角形型のフォーメーションを組んで純白のジンに襲い掛かる。

レールガンの雨の中をかい潜り、スラスターで急激な加速の中で純白のジンは逆手に構えた重斬刀で接近する一機を斬り捨て、
通り過ぎた二機目は上半身を捻らせ、右手に構えた重突撃機銃から放たれる弾丸の雨に撃ち墜とす。

後続の一機はシャトルの方へと急激に方向転換をかけるが、純白のジンは既に追続状態に入っており、
メビウスのパイロットの眼前にはその白く輝く巨体が映し出されていた。


「ひ、ひぃ・・ッ!?」
「シャトルをやらせはしない・・・ッ!」


メビウスに並行しながら純白のジンは重斬刀を袈裟斬りに叩き付け、その刃は三機目を真っ二つに両断した。


「何なんだあのジンは!?マニューバでメビウスに匹敵しているなど・・有り得ん!!」

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「あの紅いのと真っ白なMS・・・二つの星みたいに輝いてて、凄い綺麗・・・」
「・・うん・・・」


それは彼女達だけではない。
純白と真紅のジンの戦闘にシャトルの乗客の誰もが唯、その姿に見惚れていただけであった。

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「お前で最後だ・・・!」
「う、うわあぁぁぁぁ!!?」


最後に残ったメビウスも真上を取られ成す術もなく、純白のジンの零距離射撃に光球と化した。


「最後は結局隊長か・・・くそッ」
「もうじき奴等の本隊が此処一帯周辺に来る筈だ、シャトルを収容してこの場を離脱するぞ」
「・・了解、わーったよ」


隊長機と思われる純白のジンのパイロットからの通信がシャトルへと繋げられる。
戦いの一部始終を見届けた乗客達からは次々と安堵の声が漏れ出していた。


「聞こえますか?只今から我々の部隊が貴方達の身柄を保護します、艦に収容しますので乗員は指示に従ってシャトルを動かして下さい。
 ・・・安心してください、皆さんはもう安全です」


機内全てに聞かされた声は先程まで戦っていたとは思えない程、本当に乗客の無事を喜んでいる安堵に満ちた青年の声であった。
その青年の声にキアラ達は驚きを隠せなかった。


「この声・・・やっぱり偶然じゃなかったんだ・・・!」

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[ランドール艦内]

隊員達の指示で乗客達は次々とシャトルから艦内へ乗り込んでいく。
キアラ達も列の中に流れていたが、キアラは先程の事確かめに列から抜けて駆け出して行った。


「ちょっ、お嬢さん!」
「キ、キアラ!?」


隊員や母の制止も聞かず、キアラは唯宛もなくがむしゃらに艦内を走り出す。
そうする内に、前方に見える部屋から出て来た一人の赤服を身に纏った青年の姿にキアラは一気に駆け寄った。
青年もキアラの姿に気付き、唖然と固まっていた。


「キ、キアラ・・・」
「はぁ、はぁ・・やっぱりカナト、だったんだ・・・・・これ・・・」
「衛星回線仕様の携帯・・・やっぱり俺の携帯にコールをかけたのは・・・」
「幼なじみが・・誕生日プレゼントに作ってくれたん、だから・・・繋がるかどうかは半信半疑だったけど、ね」
「それは、あの時はまだ一つしか作れなかったからで・・・」
「でも連絡ぐらいしてくれてもいいじゃないのよ!」
「リ、リィルには出す様にはしてはいたんだけどな・・・」
「もぉ、私達皆心配してたんだからね・・・」
「・・・悪ぃ、ごめん」


お詫びの記しにカナトはキアラの頭をそっと撫で始める。
その昔と変わらないその姿にキアラの瞳には涙が溢れ出しそうになっていた。


「お、おい、キアラ・・・!?」
「わ、私、あの時とっても怖くて・・・助けてくれて、ありがとう、ね・・・っ」
「あ、あぁ・・・」


そうしていると、先程の隊員が走って来た。
カナトの姿に気付いて隊員は慌てて敬礼を構える。


「勝手な行動は困りますよお嬢さん、場合によれば軍事機密を不当に目撃した事になります」
「あっ、えっと、すみません・・・・」
「あーあんまり気にしないで、俺の知り合いでな」
「隊長の?それは失礼しました、ですが・・・」
「まぁ、そうだよな・・・」

「・・・私、此処に入隊したいんですが!」
「「・・・はぁ!?」」


キアラの発言にカナトはもとい、隊員も言葉を失ってしまう。


「み、民間人がそう簡単に軍人になろうだなんて・・・」
「でもザフトは皆志願した人なんですよね!?」
「そ、それはそうですが・・・」

「・・・はぁ、野戦任官って事で手続きしておくよ」
「えっ!?で、ですが隊長!?」
「この件は俺が何とかするから気にしない・・・な?小父さん達・・こいつの両親にはお前から伝えておいてくれないかな?」
「・・・分かりましたよ、全く・・・」
「カナト・・・」
「キアラが強情なのは昔から知ってるよ・・・さて、面倒な手続きは後にして・・・キアラはコンソール関係に強かったよな?
 それじゃあMSパイロット専属のオペレーター辺りでも・・・っと、その前にこの艦と皆を紹介するか」
「う、うん・・・あっ、はいっ!」

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「・・って訳なんだけど・・・やっぱりつまらなかった?」


一通りの話を終えたキアラが振り向くと必死に笑うのを堪えているライルの姿があった。


「えっ、何?どこかおかしかった!?」
「い、いえ、そういう訳じゃ・・・キアラさんって本当に隊長の事が好きなんだなーって」


ライルが今何気なく言った一言にキアラは一瞬硬直したかと思えば、突然顔面が爆発したように真っ赤になった。


「え!?な、何でそんな事になるの!?カ、カナトになんか・・・ぜんっぜん違うんだからね!」
「えっ、そ、そうなんですか?僕はてっきり・・・」
「そ、そう!私とカナトはただの幼なじみで何でもないんだからね!?」


キアラの大声に他の隊員達までくすくすと笑い始めている。
既にカナトとキアラの関係は当の本人達以外は全員承知している事だった。

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[貨物用シャトル]

「・・・!?隊長!!」


操縦桿を握る隊員の声にカナトとシルバが操縦席へ飛び寄る。


「一体どうした?」
「連合の部隊に発見されたらしく、現在こちらへ向かって来ています!」
「月の哨戒部隊か?しかし情報と違う・・・時間編成が変更されたのか?」
「今そんな事考えてる場合かよ!シャトルを墜とされる前にさっさと出撃るぞ!!」
「あぁ、そうだったな・・・ッ!!」



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