「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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見たまま、感じたまま、思ったまま
自虐の詩
このマンガが好きだ!
自虐の詩 業田良家 著
さて、第1回目は「自虐の詩」である。他にも好きなマンガは沢山ある。長編では「漂流教室」「カムイ伝」「子連れ狼」「あしたのジョー」。短編では「鳥獣草魚」「コキーユ」。
しかし、自虐の詩である。このマンガは4コマのマンガである。4コマはギャグが多い。この作品も当初はギャグであった。しかし、この作品を読んだ自分は最後に泣いた。泣ける4コマは珍しいのではないだろうか。
それに他の作品は、おそらく色々とりあげられる機会も多いだろう。そう考えて、この作品を1回目に選んだ。
これはもう10数年前に週刊宝石で連載されていた。ポストや現代と、アサヒ芸能や週刊大衆の間に位置するような雑誌である。多くの読者にはあまり目に触れてないのではないだろうか。
場末に生きる男女がいる。男(葉山イサオ)は一匹狼の遊び人、喧嘩もすればばくちもやる、女も作る。女(森田幸江)は、不幸な生い立ちを背負って生きてきて、やっと見つけたのがこの男。男がしたいほうだいをして、女の前で、「でぇ~!」っと食卓をひっくり返す。毎回そういうストーリーなのだ。
やりきれない、悲惨である。あまり真面目に読まず、パラパラとページをめくっていた。(このあたり、「ダメ親父」と言う作品と感じが似ている。よく考えればダメ親父もこの作品と同じように後半で展開が180度変わったよなあ)
ところが、ある時期から作品の雰囲気が変わってくる(3巻の終わり頃から)。幸江さんの不幸な少女時代が語られてる。
お母さんに捨てられ、母の顔を知らず、遊び人の父を内職をして食べさせながら学校へ行く。辛い貧乏生活。同じような境遇の熊本さんとの友情。しかしとうとう犯罪を犯した父を捨て、東京へ出ていく。しかし、そこでもシャブに浸り、立ちんぼになって身を落としていた。そこで出会った男が、やっぱり遊び人のイサオ(東京へ出てきてからの話は殆ど省略されているが)。
終盤、幸江さんが妊娠したあたりから、更に物語りは真摯な内容になっていく。1回の連載は4コマを4本だが、それをフルに使って物語は展開していく。圧巻は、臨月になった幸江が、コタツでうとうとして夢を見ている、その内容を書いた「怖い夢を見た」である。
幸江はお母さんの首を絞める。「なんで私を捨てたのよ!」と叫びながら母を引きずって川の中に顔をつける。その母の絵には顔がない。彼女は母の顔を知らないのである。苦しみにゆがむ母親。ふと見ると、母親の腹も臨月である。その母の股が割れ、そこから出てくるのは赤ん坊の幸江。
幸江ははっと目を覚ます。その瞬間彼女は生まれた時の記憶をとりもどしたのだ。次の1本では、母親には優しい顔が描かれている。幸江の名前を呼びながらオッパイを吸わせている。幸江はその記憶を取り戻した。彼女はそれによって母親を許した。そして自分も母親になることが判ったのである。この場面には「この町に住む全ての人がお母ちゃんから生まれた」というモノローグが付く。
ここから後の数回の連載分は殆どモノローグで描かれる。
次の号の作品は全部モノローグで書かれる、母への手紙である。
幸江の手紙を全文引用しよう。
前略 おかあちゃん。
この世には幸も不幸もないのかも知れません。
何かを得ると、必ず何か失う物がある。
何かを捨てると、必ず何か得るものがある。
たったひとつのかけがいのないもの、
大切な物を失った時はどうでしょう?
私たちは泣き叫んだり立ちすくんだり・・
でもそれが幸や不幸ではかれるものでしょうか?
かけがいのない物を失うことは、
かけがいのない物を真に、そして永遠に手に入れること!
私は幼い頃、あなたの愛を失いました。
私は死にものぐるいで求めました、求め続けました。
私は愛されたかった。
でもそれがこんなところで、
自分の心の中で見つけるなんて。
ずっと握りしめていた手のひらを開くとそこにあった。
そんな感じで。
おかあちゃん、これからは何が起きても怖くありません。
勇気がわいています。
この人生を二度と幸や不幸ではかりません。
なんと言うことでしょう。
人生には意味があるだけです。
ただ人生の厳粛な意味を噛みしめていけばいい。
勇気がわいてきます。
おかあちゃん、いつか会いたい。
そしておかあちゃん、
いつもあなたをお慕い申しております。
追伸、私にももうすぐ赤ちゃんが生まれます。
そうやって住所の無い手紙をポストに入れるのだ。
最終話、故郷での唯一の友達、熊本さんから再会の電話がかかってくる。
彼女も結婚して幸福になっていた。
幸江は臨月のお腹を抱えて、東京駅まで会いに行く。
故郷を逃げるように出ていった時、川の橋の下に住んでいた熊本さんが餞別にくれ、しかし使う事が出来ずとっておいた100円札という大金を持って。大きなお腹を抱え階段を上り、二人が再会した場面で物語は終わる。
最後のモノローグはこうである。
幸や不幸はもういい。
どちらにも等しく価値がある。
人生には明らかに意味がある。
ストレートである。小細工がない。
このページを読んだ人は古本屋でこの作品を探して欲しい。
全5巻は見つかる可能性は低いだろう。
4巻と5巻だけでも見つけて欲しい。
貴方はきっと泣くだろう。
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