趣味の漢詩と日本文学

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December 28, 2007
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カテゴリ: 漢詩・漢文
潁川留別司倉李萬 劉長卿
故人早負干將器、誰言未展平生意。
想君疇昔高歩時、肯料如今折腰事。
且知投刃皆若虚、日揮案牘常有餘。
槐暗公庭趨小吏、荷香陂水膾鱸魚。
客裏相逢款話深、如何岐路剩霑襟。
白雲西上催歸念、潁水東流是別心。
落日征驂隨去塵、含情揮手背城■(「門」のなかに「煙」のみぎ。イン)。
已恨良時空此別、不堪秋草更愁人。

【訓読文】
潁川にて司倉の李万に留別す。
故人早に負く干将の器、誰か言ひし未だ平生の意を展べざると。
想ふ君の疇昔高歩の時、肯(あに)料らんや如今腰を折る事を。
且に投刃を知らんとすれば皆虚のごとく、日に案牘を揮へば常に余り有り。
槐暗くして公庭に小吏趨り、荷香ばしくして陂水鱸魚を膾(なます)にす。
客裏相逢ひて款話深く、如何(いかん)せん岐路剩つさへ襟を霑すを。
白雲西上帰念を催し、潁水東流是れ別心。
落日征驂去塵に随ひ、情を含み手を揮ひて城■(「門」のなかに「煙」のみぎ。イン)に背(そむ)く。
已に恨む良時空しく此に別れ、秋草に堪えず更に人を愁へしむ。
【注】天宝の初め、東遊の途中で潁川にさしかかった時の作。

○留別 。
○司倉李万 李万は潁川郡の司倉参軍をつとめた。
○干将器 宝剣。春秋時代に干将・莫邪という刀鍛冶の夫妻がおり、鋭利無類の二つの剣を造り、刀も干将・莫邪と呼ばれる。ここでは才能ゆたかな賢人をたとえる。
○誰言 いったい誰が予想したであろうか。反語表現。
ひし未だ平生の意を展べざると。

○高歩 俗世間を遠く超越する。
○肯料 どうして予想しようか。反語表現。
○如今 いま。
○折腰 ペコペコする。。『晋書』《陶潜伝》「潜、彭沢の令に任ぜられ、歳の終はりに郡督郵をして至らしむ、県の吏、潜に束帯して之に見えんことを請ふ。乃ち嘆じて曰く、『我豈能く五斗米の為に腰を折りて郷里の小児に向かはんや』と。即日官を辞す」。
○且A 今にもAしようとする。
○投刃 刀を放る。孫綽《天台山賦》「刃を投げて皆虚なり、牛を目して全たきこと無し」。
○案牘 公文書。
○槐 エンジュ。
○公門 郡の役所。
○小吏 木っ端役人。
○趨 小走りする。
○膾 肉や魚を細切りにしてなますに調理する。
○鱸魚 呉の松江に産する魚の名。『晋書』《張翰伝》「張翰、字は季鷹、呉郡呉の人なり。……斉王冏辟して大司馬東曹掾と為す。……因つて秋風の起こるを見、乃ち呉中の菰菜・蓴羮・鱸魚の膾を思ひて曰く、『人生志に適せんことを得るを貴ぶ、何ぞ能く宦に数千里に羈がれて以て名爵を要せんや』と。遂に駕を命じて帰る。
○款話 うちとけた談話。
○如何 どうすればよいか。反語表現。
○岐路 分かれ道。
○剩 おまけに。
○霑襟 涙を流して着物の襟をぬらす。
○白雲西上催帰念 白い雲を見て洛陽に帰りたいと思う。『荘子』《天地》「彼の白雲に乗り、帝郷に至らん」。
○潁水 潁水西南して襄城県の界より長社県に流入す。
○征驂 旅人の乗る馬車。「驂」は、三頭立て、または四頭立ての馬車の両端の馬。
○城■(イン) 城門。
○良時 よい時節。
○空 ただただ。
【訳】
潁川で司倉の李万に別れる際に詠んだ詩。
君は早くに有能な才にそむいて地方官、未だ中央高官の望み遂げずとは誰が想像しったであろ。
君も昔は超俗の高き心を持ちたるに、今腰折りて上役に頭をさげる身分とは。
刃を投げんと欲すればスイと虚空を斬るごとく、日々に文書をめくりつつ仕事こなすに余裕あり。
槐植えたるお役所の庭に小走り小役人、ハチスの花の香ぐわしき川べり鱸魚を膾にす。
客間の楽しき語らいにあっという間に時は過ぎ、涙に濡れるわがころも、この別れをばいかにせん。
空に浮かべる白雲は西に帰るをせきたてて、潁水東に流れさり離ればなれの心かな。
沈む夕陽は乗る馬車の蹴立てるホコリ赤く染め、名残惜しさに手を振りて町に背を向けあとにする。
楽しき時は過ぎ去りて避けて通れぬこの別れ、秋の草まで枯れかけてさびしさ添うるこの夕べ。





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Last updated  December 29, 2007 04:39:38 PM
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