第百十九段
【本文】
むかし、女の、あだなる男の形見とて置きたるものどもを見て、
形見こそ 今はあたなれ これなくは 忘るる時も あらましものを
【注】
〇あだなり=誠意がない。誠実さに欠ける。
〇形見=過去のこと、また別れた人や死んだ人を思い出す手がかりとなるもの。
〇あた=恨みの種。『平家物語』巻二・大納言死去「形見こそ今はあたなれ」。
〇あらまし=あるだろうに。あればいいのに。ラ変動詞「あり」の未然形に、反実仮想の助動詞「まし」がついたもの。
〇ものを=~のになあ。不満の気持ちを含んだ詠嘆を表わす終助詞。形式名詞「もの」に、間投助詞「を」がついてできたもの。
【訳】むかし、女が、誠意がない男が記念にといって置いていった品々を見て、次のような歌を作った。