第九十一段
【本文】
むかし、月日の行くをさへ嘆く男、弥生のつごもりがたに、
をしめども 春のかぎりの 今日の日の 夕暮にさへ なりにけるかな
【注】
〇弥生のつごもり=陰暦三月三十日。三月尽(サンゲッシンとよむこと、『日本歌謡集成』の月報収載の山田俊雄氏の論考に引く江戸時代の和漢朗詠集版本による)。
〇をしむ=残念に思う。心残りに思う。
〇かぎり=一番最後。
【訳】
むかし、月日が流れるのをさえ嘆く男が、春三月の月末ごろに、
過ぎ去るのを残念に思うけれども、春の一番最終日にあたる今日の夕暮にまでなってしまったなあ。