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東京国際映画祭のオープニング作品にもなった「十一人の賊軍」を観てきました。個人的にこういう血沸き肉躍る、そして血も首も飛ぶチャンバラ、大好物です。今回はそれに加えて大砲とか爆弾とかも加わって、とにかく大興奮。たまらんです。10人の賊たちは、妻を暴行した新発田藩士を殺害した政(山田孝之)の他、放火や一家心中、密航、檀家の娘を手籠めにしたとか、筋金入りの辻斬りとか、もう何が何だかのメンツです。根っからの悪党っぽい奴もいるし、そうでもない奴もいるんですが、これがだんだん憎めなくなってくる。それぞれに持つ背景が短い時間の中でうっすらと匂わされたりするので、やっぱり賊軍に肩入れしたくなります。官軍との戦闘シーンは手に汗握る大迫力。音量もすさまじく、ちょっと驚くほどデカいので(笑)、観に行く方は心づもりを。そして、バタバタと人が斬られたり、爆発して肉片になったりします。でも私、こういう戦闘シーンこそ本気が感じられて大好きです。去年見た「首」もこれに近い感じ。仕掛けて、やられて、また仕掛けて…の流れで、やっぱり、「これ賊軍イケるんじゃない!?」と思わされてしまうと、もう作り手の術中にはまってますよね。でも、やっぱり、賊軍は賊軍なんです。砦を守り切ったたら無罪放免にしてやるなんて約束、権謀術数を弄する世界に生きる武士が守ると思いますか?そんなわけない。だから、ラストは想像通りの「そして誰もいなくなった」の空しさが…。賊軍に肩入れして観てしまうからこそ、新発田藩家老の溝口内匠(阿部サダヲ)の冷酷なやり方には腸が煮えくり返ります(苦笑)。ほら、まんまと乗せられてる。ただ、考えてみれば、彼も「藩のため」という大義に生きているからこその行動なんですよね。政は政で、庶民なりの「妻のため」に生きている。賊軍の指揮を執ることになった鷲尾兵士郎(仲野太賀)も、彼なりに「藩のため」に行動している。だからこそ、最期があまりにも悲しい…。ところで、賊軍は当初10人ですが。なんで「十一人の賊軍」なのかって、それは兵士郎の最後のセリフで「うわあああ…」となりますよ。あの瞬間はぞわぞわと、鳥肌が立つような感覚がありました。しかしそれにしても、仲野太賀さんの佇まいが「ザ・侍!」という風格で、素晴らしかったと思います。でも、私がいちばん萌えたのは「爺っつあん」です。最初の戦闘シーンから、「こいつ、ただの爺さんじゃない」という雰囲気アリアリだったんですが、最後の戦いっぷりが惚れ惚れするほど勇ましく、カッコ良かった。そこで明かされるのが、元・長州藩槍術師範だったという過去!そりゃカッコいいって…!爺っつあんを演じた本山力さんという方は、東映剣会に所属されているそうで。殺陣のプロですよね。ひとりだけ格が違う感じがしました。ずっとハラハラドキドキしっぱなしの映画ですが、最後に残る苦さを噛み締めつつ、エンドロールを見終えたのでした。面白かった!あ、玉木宏さんは目の保養でした。何をしても素敵。あと、ナダルはすぐわかりましたよ。緊迫してるんだけど、なんだか笑っちゃいました。
2024.11.12
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M・ナイト・シャマラン監督の「トラップ」を観てきました。予告がすごく気になっていて、友人には「口コミは微妙だよ」と釘を刺されはしたものの、やっぱり観なきゃ何も感想なんて言えないと思いまして。それにジョシュ・ハートネットが見たかった。娘・ライリーを連れて超人気アーティストのレディ・レイヴンのライブにやって来た消防士のクーパー(ジョシュ・ハートネット)。娘が喜んでいるのを嬉しく思う彼ですが、なんだか会場の様子が変。やたらといる警察官にそこら中にある監視カメラ。なんでこんなに…と思うクーパーですが、それはすべて、今日この場所に現れるという情報があった「ブッチャー」と呼ばれる連続殺人犯を捕らえるためだった…!3万人の観衆の中からただ1人を見つけることはできるのか!?で、簡単に言えばその「ブッチャー」はクーパーなんです。当然、そんな風には、当初は見えません。イジメで辛い思いをしている娘を気遣う優しいお父さん。しかもイケメン(当然)。なんですが、会場の異様な警備を察知した瞬間に、その目が殺人犯のものに変わります(実は「獲物」をひとり、隠れ家に拘束中。スマホで様子を監視してる)。何とか娘の目をごまかして逃げ道を探ろうと、いろんな手を使うんですが、それが実に鮮やかで巧妙!まさに息をするように嘘をつく男なんです。でも、こういう人、いるんですよね。息するように嘘をつくから、嘘をついてる自覚すらない人が。私の人生にもいました。そんなことを思い出してちょっと嫌な気分にもなりましたが、それはまあ置いておいて。さて、クーパーのやり口ですが、物販のスタッフに自分の好印象を刻んでおいてからのスタッフパス窃盗、そしてうまいこと警官から無線を盗み(あり得ないけどこれが上手く盗むんです)、警察の動きは彼に筒抜け。その後はレディ・レイヴンの楽屋に招待され(これもクーパーの嘘のおかげ)、そのまま会場脱出!と思いきや、今度はレディ・レイヴンとのヒリヒリするやり取りが…!レディ・レイヴンとの対決あたりから、心臓がドキドキしっぱなしでした。展開も目まぐるしく変わっていくので、「え!」「え!?」「ええーっ!!」の連続です。しかもラストは…こいつ、野に放たれちゃう感じですか?怖い、怖すぎる…!!レディ・レイヴンはM・ナイト・シャマランの娘であるサレカ・ナイト・シャマランが演じています。可愛い。劇中歌の作曲もパフォーマンスもすべて彼女によるもの。すごいですね。もうひとりの娘さんは「ウォッチャーズ」の監督してたはず。才能恵まれすぎ一家ですね。あと個人的にいちばんの見どころとして推したいのは、ラスト近くでなぜかシャツを脱いで上半身裸になるジョシュ・ハートネットです。目の保養です。カッコいいです。なぜあそこで脱がせたのかはよくわかりませんが、あれで星1個分くらい増しです。
2024.11.10
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公開からもう1ヶ月近く経ってしまいましたが、ようやく「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」を観てきました。口コミをさっと見るに、評判は微妙のようでしたが…私にも、微妙でした。苦笑観終わっての感想が、「レディ・ガガは歌が上手いなあ」で終わってしまった…。いや、あの、予告編見てたら、ジョーカーがもっとはっちゃけると思っていたんです。あのひたすら笑ってるシーンとか、気持ち悪かったし。歌が多いって言うのは聞いていたので、驚きはしませんでしたが、それでもいかんせん、歌が多い。多すぎる。レディ・ガガいるからそうなのかもしれないけど、そんなに歌いらないです。でも、あの、誤解を恐れずに言えば、リー(レディ・ガガ)って必要でした…?あと、最後の爆破って…わかってますよ、わかってますけど…ナンデスカ?ジョーカーの内面を描くにしても、リーの頭のネジ飛んでる感じを描くにしても、ちょっと中途半端だったように私には思えました。多くを語らず察するのがクレバーな理解の仕方というところなのかもしれないけれど、何のためにリーが出てきたのか、いまだに私には理解できません。で、これ、続くんでしょうか。ベイビーに受け継がれるんでしょうか?エンディングで流れてる、ホアキンが歌ってる曲が一番良かったです。あれ、前情報なしでタワレコとかで試聴機入ってたら、買うと思う。
2024.11.05
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Oasisの伝説のライヴ「LIVE AT KNEBWORTH1」の初日の方をフルライヴで公開するということで、再結成で熱も高まっているところのテンションのままに観に行ってきました。20万人って、やっぱりすごい人の量(笑)。後ろの人たち、音ちゃんと聞こえているんでしょうか。映像とはいえ、久しぶりに観るOasis。やっぱりリアムは兄ちゃんのギターが横にあってこそ。兄ちゃんの曲はリアムが歌ってこそ。というのをしみじみ感じました。1996年ということで、彼らの快進撃をそのままライヴにぶち込んだ感じの、誰にも止められない勢いのパフォーマンスは圧巻です。そしてセトリが最高です…!(下記参照)Acquieseceとか兄弟デュエットが懐かしい…そしてなぜかWhateverで涙ぐむ。Cast No Shadowの前に、盟友リチャード・アシュクロフト(私の神)に「頑張れ」とメッセージを送る兄、優しい…涙そして、そんなリチャード(神)が今回のOasis再結成ツアーでサポートをつとめるというんですから、ああもう、観に行ける人たちが羨ましすぎますよ…Wonderwallの始まる直前に、盛り上がる観客に「そういう曲じゃねえ」とツッコミを入れるとこがツボってしまい、しばらくニヤニヤ笑っていました。それからのノエル兄独り舞台のMasterplan~Don’t Look Back In Anger…たまりませんよ。最近のドンルクよりもさらっとこなすところも新鮮でした。ラスト2曲Champagne SupernovaとI Am The Warlusはジョン・スクワイアが登場です。ジョン…(ここでまた涙ぐむ)。ちょっとシャツがはだけていてお胸が見えそうなのがセクシーすぎて、涙が引っ込みました。でも、ジョンが入った途端にギターがバリバリにカッコ良くなるのはさすがだなあと。それにしても…若い!リアムもノエル兄も可愛いと思ってしまうのは、やはり私が年を重ねたからでしょうか。リアクションとかいちいち可愛い。自分が座ってた椅子をちゃんとお片付けする兄がめっちゃ可愛い。お客さんが10人いたかどうかというところだったので、私は好き勝手に頭を振ったりリズムを取ったりにやけたり、口パクで歌いながら観ていました。でも、前列の男の人の頭もめっちゃ動いていたので、親近感ましまし。だよね、身体が勝手に動いちゃうよね。こんなのを観てしまうと、再結成ライヴにぜひとも行きたくなります。日本は噂どおりなら来年の10月なのでしょうか。リアムとノエルはもちろん決定ですが、他のメンバーはどうなるのかなあ。ボーンヘッド?アンディ?ゲム?アラン・ホワイト?1.The Swamp Song2.Columbia3.Acquiesce4.Supersonic5.Hello6.Some Might Say7.Roll With It8.Slide Away9.Morning Glory10.Round Are Way (Incl. Up In The Sky)11.Cigarettes & Alcohol12.Whatever (Incl. Octopus’s Garden)13.Cast No Shadow14.Wonderwall15.The Masterplan16.Don’t Look Back In Anger17.My Big Mouth18.It’s Gettin’ Better (Man!!)19.Live Forever20.Champagne Supernova (With John Squire)21.I Am The Walrus (With John Squire)
2024.10.22
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巷で話題の「侍タイムスリッパー」を観てきました。ふだんなら10人いるかいないかのスクリーンが、この日はほぼ満席。メディアに取り上げられた影響力はすごいですね。私は主演の山口馬木也さんの顔が好きという不純な動機で観に行ったのですが…確か、この方を見たのは昼ドラだったはず。妙に「顔が好き…」と思ったことを覚えています。時は幕末。会津藩藩士・高坂新左衛門は、同輩と共に長州藩士・山形彦九郎を暗殺しようと闇夜で待ち伏せするのですが…斬り合いの最中、轟く雷鳴が!目覚めた高坂は、なんと現代の京都、しかも時代劇撮影所にタイムスリップしてしまったのでした。……っていう導入は「ありがちじゃない?」って思うのですが、それでも笑っちゃうんですよ。高坂が時代劇の撮影に乱入しちゃったり、時代のギャップにいちいちうろたえまくったりするところが。妙に順応が早すぎじゃない?と思っても、それが気にならないストーリーの展開の面白さ。いちいち笑いが挟まるのですが(高坂がお師匠に殺陣の指導をしてもらうところ、爆笑)、これはやっぱり関西的なノリ?でも、それがいいんです。ふっと場の空気を緩めてくれるところが、ね。で、高坂は武士の経験(笑)を生かして、撮影所の斬られ役としてデビューするんですが、やはりそこは演技が真に迫るものがあって、徐々に頭角を現していきます。そんなところで、名優・風見恭一郎が10年ぶりに時代劇にカムバックの報せが。しかも風見は敵役として高坂を直々に指名してきたのです。え、なんで!?この理由を書いちゃうとまさにネタバレになってしまうんですが、「そういうことかー!」と腑に落ちまくる。高坂と風見、二人にしかわからない思いがぶつかり合い、真剣を使って本気の試合として挑む最後のシーンは、これまでの軽妙な展開からは一転、見ているこちらも緊張してドキドキしまくりて、思わず息を止めて見入ってしまいました。ずっとバッグをぎゅっと抱えてました。苦笑山口さんと風見役の冨家ノリマサさんの殺陣の迫力は、久しぶりに時代劇で胸躍りました。暴れん坊将軍(映画本編での扱いに笑った)大好きだった私は、上様の殺陣を最初に観た小学生のときみたいに興奮しましたよ。ちょっとほろっときたのは、高坂がケーキを食べて「こんな美味い菓子をみんなが食べられるようになるとは、日本(ひのもと)は良い国になったのですな…」と泣くところ。それと、戊辰戦争後の会津藩の人々がどのような運命をたどったのか知り、静かに慟哭するところ。こういうシーンを挟みながら、ラストへとつなげていくわけですから、あの決闘は固唾をのんで見守ることになるんです。最後もちょっと笑いがあり、そして…お前もかー!!というところで終わります。侍が現代にタイムスリップなんてありそうなシナリオじゃない?と思った方。その思いを軽く飛び越えてくる面白さがあります。見ないのはもったいないです。本当に、これは面白かった!観に行けて良かったです。山口さん、やっぱりカッコいい…
2024.10.14
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マブリーことマ・ドンソク主演の犯罪都市シリーズ最新作「犯罪都市 PUNISHMENT」を観てきました。今年前半に観た「犯罪都市 NO WAY OUT」の次作です。こんなに早くマブリーの新作を観られるなんて感激…!Suedeのソウル公演に行ったとき、ホテルでずっとこの映画の宣伝が流れてて、言葉はわからなかったんですがやっぱり笑えるしすごく楽しみにしていたんです。今回のマ・ソクトが相対するのは、ITを駆使したオンラインカジノ&薬物ビジネスで荒稼ぎをする悪党です。とはいっても、組織のトップはわりとあっさり退場なので、それに取って代わった元・国際傭兵のペク・チャンギが相手です。チャンギ、やばい人です。息するみたいに人を殺します。使うのはナイフ一本。なのに無敵。怖い。でもめっちゃ良い身体してます…目の保養です…相変わらずのコミカルな掛け合いで笑わせてくれる(IT用語には弱い)マブリーと、引き続き登場のイスがいい味出してます。チームの皆さんも健在で楽しいです。とどのつまりはマブリーの鉄拳ですべての片がつくわけですが、今回、チャンギをボッコボコにするマブリーがカッコいい。というのも、最初の犠牲者の母親が「息子を殺した奴を罰してください」という遺書を残して自殺してしまっていて、マブリーはその約束を守るために鉄拳を振るったんですね。素敵。熱い。マブリーは絶対にやられないという安心感が根底にあるので、もうスカッと爽快です。観終わってこんなに気持ちいいのも久しぶり。ありがとうマブリー!
2024.10.01
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グレン・パウエル主演の「ヒットマン」を観てきました。韓国行きの飛行機の中で、一般公開よりも先に配信されていたんですが、なんせ行き先がソウルなのでとてもじゃないけどラストまで観るのが不可能。というわけでこの時は我慢したんです。大学で哲学を教えているゲイリーは、猫を愛するおひとり様エンジョイの「ちょっと冴えない」男。でも小銭を稼ぐために地元警察に協力していて、なんと裏の顔は「殺し屋」!殺し屋とはいっても、実際に殺してません。殺し屋の役を演じ、依頼者から明らかな殺人の意図を引き出したところで警察に引き渡す役なんです。見た目は冴えないし、何より顔立ちが人の印象に残らないという点で完璧なゲイリーは、様々な殺し屋に扮して次々と依頼者逮捕に貢献するのですが、夫に虐げられているマディソンという美女に出会ったことで彼の運命はとんでもない方向へ…。グレン・パウエルが演じるゲイリーの冴えなさは超一級品です。グレン・パウエルなのに超ダサい。髪型も変だし服も変。顔はグレン・パウエルなのに。でも、マディソンの依頼を受ける時の殺し屋「ロン」はまるで別人。超カッコいいし超セクシー。グレン・パウエルです。身体もめっちゃいい。何してもセクシーがダダ洩れ。俳優さんてほんとすごいんですね。こんなに変わっちゃうんですね。何が違うの?と友人と議論しましたが、つまりグレン・パウエルだからカッコいいってことだよね、と結論じゃない結論に至りました。でも、ラストは…そうなるの!?それでいいの!?まあ、そういうのもアリかもしれないけど…というところで、やや不完全燃焼というか、モヤモヤというか。友人の感想も同じでした。てか、猫は?猫は天寿を全うしたと思っていいんですよね?グレン・パウエルが演じる殺し屋の数はもっといまして、赤毛でかなり気持ち悪いサイコ野郎とか、南部のガラの悪さ全開な奴とか、ぱっと見超エリートビジネスマンとか、見るからに怪しい黒づくめの男とか、出てくるたびに笑っちゃうくらいハマっていました。
2024.09.17
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今日はNTLiveで「Nye(ナイ~国民保健サービスの父)」を観てきました。イギリスの国民保健サービス「NHS」の設立に貢献した保健大臣・アナイリン・ベヴァンこと「ナイ」が主人公です。演じたのはマイケル・シーン。グッド・オーメンズのアジラフェルとかステージドの面白いおじさんだってことしか知らなかった私は、当然ですが、ずいぶん違う印象を受けました。声の出し方からすでに違うんですね…!手術を受けた後(たぶんガンなのかな?)、意識が朦朧とする中、ナイは幼少時からNHS設立までの自分の記憶を夢に見続けます。吃音がひどくて先生に折檻を受けたり、組合活動に奔走するせいで病気の父をかえりみることもせず、妹になじられたり。その後議員になるも、だいぶユニークなキャラクタのせい(あまりにも左なのです)で孤立したり。挙句の果てにはチャーチルにまでケンカを売る始末。NHSの構想も当初はまったく受け入れられず、また孤立しそうになりますが、起死回生の一手「妥協(compromise!!)」によって、大逆転でNHS設立が成功したのでした。しかし、夢から覚めた彼が見たのは、枕元で最期のお別れを告げて涙する親友と妻の姿。もうすでに彼の魂は肉体から抜け出る直前で、彼らに何の言葉も返すことはできません。そんな中、彼が最後に亡き父の手を取り、「ぼくはみんなを救えたかな?」と問いかけて終幕します。ここがね、不覚にも涙ぐみました。そんな予定はまったくなかったんですが、ここからカーテンコールまでずっとウルウルしたままでした。あの子犬みたいな目で言われたら泣くでしょう!ちょいちょい挟んでくる、くすりと笑えるジョークが場を和ませてくれますが、テーマは至って重いです。NHSがない時代、貧困層はろくな医療も受けられずに死んでいくだけ。それはナイの父もそうでした。そんなのはおかしい、という一念で立ち上がったナイの意思の強さ、というかとんでもない頑固さには感嘆の一言です。しかもそのエキセントリックなキャラを貫く。本当に信念を曲げない人です。妥協なんてものを一切しなかった彼が、最後の最後でついに「妥協」をしたおかげでNHSは船出することができたわけですが、ある意味、チャーチルとさんざん罵り合ったのは無駄ではなかったのかも。この舞台の上では。「compromise!」の連呼がものすごく印象的でした。嫌でもこの単語は覚える。笑
2024.09.10
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アンドリュー・スコットがローレンス・オリヴィエ賞を受賞した「プレゼント・ラフター」をNTLiveで観てきました。2019年の作品ですが、再上映ということでこれは逃せん!ということで。3時間という長尺ながら、全然飽きなかったです。というのも、登場人物たちのマシンガンのような会話劇が面白過ぎるから。主演のアンドリュー・スコットがもちろんお目当てでした。チャーミングが大爆発していました。アフリカツアーを目前に控えた人気俳優のギャリーを中心に、元妻・リズや彼の躍進を支えてきたメンバー(+その夫)、秘書、お手伝いさんたちや行きずりの関係を持った若手女優とか彼のファン(?)のイカれた駆け出し劇作家などなど…みんながそれぞれに強烈な個性を発揮して、すさまじい化学反応で生み出される笑いがたまりませんでした。終始ニヤニヤしつつ、時に声を上げて笑っちゃいましたよ。アンドリュー演じるギャリーは、名誉欲とか虚栄心とかの塊な癖に誰も結局信じられなくて、誰に対しても演技してしまう。それがだんだんと暴かれていき、ラストに大爆発してしまいます。それにしてもこの人の「ニヤリ」と笑う顔の気持ち悪さ(いい意味です)が最高です。静と動の対比もすごいし、素面になった瞬間のすさまじい孤独感を目線や背中だけで語るってすごい。「ぼく、迷子なんだよ」とぽつりと呟くところの眼差しも、静かなのに強烈な印象。どこに行っても人気俳優として見られてしまい、本当の自分なんて誰も見てくれないし、自分でも本当の自分がなんなのかわからなくなりかけている。そんな皮肉も随所に散りばめられていて、これがスターの悲哀か…と。個人的には、無理やり押しかけてくる劇作家もどきのローランドがめちゃくちゃ面白かった!最初はギャリーを批判しているくせに、ギャリーが逆ギレした途端に恍惚とした表情になってしまって、それでこそあなたです!みたいな感じでもはやストーカーと化す(笑)。あと、設定がバイセクシャルになってる人が多くて、誰が誰と関係があるの!?と一瞬混乱しました。面白かったですけどね。ギャリーとジョーの妙に濃厚なキスシーンとか。あと、下心のある相手の家に押し掛けるためにやたらと「鍵を忘れた」っていうセリフが出てきて、これが常套句なのか!と納得してずっと笑ってました。ますますアンドリューが好きになってしまった次第です。
2024.07.24
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公開前からずっと、これは観てみたいと思っていたのが「フィリップ」です。原作となった小説は、母国ポーランドでは長らく発禁処分となっていたとか。この日なぜか観客は私ひとりでした…なぜだ!ユダヤ人であるフィリップは、ナチスによって両親や兄弟、婚約者を一度に惨殺されてしまいます。ここまで体感1分。あっという間に彼がどん底に突き落とされます。その後彼はフランス人と偽り、なんとフランクフルトのホテルで働き始めました。なぜ彼がそんなことをしているのかというと…その美貌と肉体をもって、ナチス将校の妻たちを次々と誘惑し、寝取るため。そして寝取った後は、「お前の夫は戦場で死ぬ」とか、「その老いた身体を抱いてくれるやつなどもういない」とか、呪いのような言葉を吐いて彼女たちを捨て去ります。愛など微塵もないセックスシーンが強烈です。当時のドイツは、ドイツ人女性は外国人と交わることを禁じられていたそうです。そのため、フィリップとの関係を公に口にできない彼女たちは、黙り込むしかないわけです。そうやって、間接的に復讐を果たそうとしているのが、彼なのです。あまりにも孤独。そんな中で彼はリザというドイツ人女性と出会います。彼女は今までに出会った女性とは違い、純粋で、真っ直ぐで、彼の凍り付いた心を溶かしていくのですが……。フィリップを演じたエリック・クルム・ジュニアの狂気は、圧巻でした。激情を解放するかのように、夜中にホテルのホールで走り回ったり転げまわったり、まるで前衛芸術のように踊る彼の姿は、言葉こそなくても、こちらに強く訴えかけてくるものがありました。特に、親友を無残にもナチスに殺された後のシーンは、彼の慟哭が痛すぎて、直視できないほどでした。その前にも、同僚を目の前で絞首刑にされていて、彼だけは目を閉じることなくそれを見ているんです。もちろん、家族と婚約者が次々と射殺されていく様子も見ているわけですから、彼の精神が崩壊しない方が無理という話です。ぱっと見はそこまで美男子に見えないんですが、内側から匂い立つ何かが、彼を凄まじい美しさに仕立て上げています。おそらくそれは彼の背負う孤独や狂気なのでしょうが、くらくらするほど美しい。ナチスに殴られて、顔に傷を負ってからの方が、さらに美しいのです。結局、彼はリザとの愛を選ぶ直前で親友の死に直面し、復讐の鬼と化してしまいます。ナチス関係者のパーティーで、ダンスに興じる彼らを、密かに手に入れた拳銃でまるでスナイパーのごとく射殺していくときのあの横顔!そしてそこから身を翻し、人波に紛れてパリ行きの列車に乗り込む彼の背中が漂わせる孤独と言ったら…その後、彼はどうなったのでしょうか。リザが彼に「あなたには幸せになって欲しい」みたいな感じのことを言うシーンがあるのですが、彼は幸せになれたのでしょうか。心を引き裂かれた彼がどこに行きついたのか、その魂が平穏を迎えられることを願ってやみません。
2024.06.30
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「マッドマックス:フュリオサ」は、2時間半の長尺をまったく感じさせず、超弩級のアクションと、フュリオサがなぜああいうキャラクターになったのかをストーリーに詰め込んでいました。お腹いっぱいになるけれど、前作とのつながりを発見して理解するごとに、どんどん面白くなっていきましたね。なぜフュリオサが義手なのか。どうして彼女が警護隊長になれたのか。彼女が生まれた緑の地とは、なんだったのか。アニャ・テイラー・ジョイの細さが、もうおばちゃん目線で「大丈夫なの!?そんなにか細いのに…涙」みたいな感じで見てしまいましたが。多くの悲劇を目を見開いたまま見てきた彼女だから持つ、強さと絶望と果てしない怒りと憎しみが、少ないセリフと仕草にあふれています。しかしそれにしても、アクションがカッコいい。スナイパーっぷり(ママ譲り)を発揮するシーンとか、「いけ!やれ!」と拳を握りしめるくらいには、興奮しました。ディメンタスがクリス・ヘムズワースなので、なんか勝手にいい人になるんじゃないかと思ってしまう(笑)。でもいい人じゃなかったです。そしてその最期は……ああ、そういうやり方もあるんですか!とね。そしてジャック(トム・バーク)…いい男すぎる!そしていい男の宿命は…(涙)…でした。怒りのデス・ロードを観た人はみんな観に行くとは思いますが、ぜひ、観て!と宣伝して歩きたい。
2024.06.18
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アカデミーの国際長編映画賞やカンヌのグランプリ、英国アカデミーも取ってる「関心領域」を観てきました。アウシュヴィッツ収容所の隣、壁を隔てたすぐ向こう側にあるのは、所長であったルドルフ・フェルディナント・ヘス(副総統のヘスとは違う)の家。そこには妻や子供たちが幸せそうな生活を送っているのですが、彼らは全くと言っていいほど、壁の向こうに関心を払いません。美しく整えられた庭や豪勢な食事、幸せな家族…それらの営みが行われている向こうで、実に「自然に」、煙が上がり、収容者の悲鳴が聞こえ、あの列車が到着する。この対比が、ホラー映画以上に恐ろしい。身の毛がよだつとはこういうことを言うのでしょう。声を出さずに「マジか…」と思わずつぶやいてしまうくらいでした。そして、この映画のキモは「音」だと思います。冒頭から、低音で「ブーン…」って聞こえるんですよ。それが、幸せそうな家族の生活の中でも時折響くし、ラストでもしっかり聞こえる。これが怖い。それに加えて、エンドロールの音楽。警報のような音かと思いきや、聞いているうちに、悲鳴に聞こえてくるんです。それが最後まで続くんです。本当にしんどい。怖い。オッペンハイマーを観たときもけっこうズーンときましたが、関心領域はその比ではありません。後味はたぶん最悪の部類なんですが、考えさせられるところは多いし、なぜかもう一度くらい観てみたくなります。なんでだろう。あの気味悪さの意味を、もう一度考えてみたい。
2024.06.04
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イギリスのNational Theatreが厳選した舞台を世界の映画館で観られるようにしてくれるという、涙モノの企画がNTLiveなんですが、いかんせん公開期間が短いのです…。それで前回のデイヴィッド・テナントを見逃しました。しかし今回は、アンドリュー・スコットの一人芝居!チェーホフの「ワーニャ伯父さん」をやるというのですが、いったいどんな舞台になっているんだろう…とワクワクしながら前のめりでチケットを取り、今日観てきました。登場人物の名前が英語名なので一瞬戸惑いましたが、原作を知っていたのでそこまで混乱することもなく、内容に入り込んで行けたのが良かったです。それにしても、アンドリュー・スコットの演技がまさに七色(実際には八役?やってます)。服は同じだし見た目はアンドリューなんですが(当然)、声や仕草、表情であんなに変わるものなんですか!?女子を演じるアンドリューがめちゃくちゃチャーミングだし可愛い…。ソニアのときは赤いチェックのスカーフを持つんですが、それをいじくる手つきが女子です。目もうるうるしちゃって、恋する乙女です。本当に。ラストでアイヴァンを励ましながら「生きていかなくちゃ」と語るシーンは圧巻としか言いようがありません。ここは本当に引き込まれるし、なんだか、身につまされる思いがしました。そうなんです、どんなに辛くても、報われなくても、生きている以上は生きていかなきゃいけないし、それで死んだら、どれほど大変だったか、神様にわかってもらいたいですよね…。いや、私はそこまで一生懸命生きてないし、大変だったと言えるほど大変な人生を生きているわけでもないので、ソニアやアイヴァンみたいにはなれないけど…上手く言えませんが、しんどくても生きていかなきゃいかんなあと思った次第なのです。そしてマイケル(原作だとアーストロフ)のときの声がめっちゃ低くてソフトでセクシー…。ヘレナに迫るときの声や、ひとりで演じるキスシーンとか、ドキドキしてしまいました。かと思えば、エキセントリックなアイヴァン(原作だとワーニャ)の激しい感情のアップダウンをジェットコースターみたいに演じ分けていて、全然一人芝居だと思えなかったです。あと歌も上手い。7月にはマーク・ゲイティスの「The Motive and The Cue」、8月にはマイケル・シーンの「Nye」が予定されています。どっちも観たい…!!!
2024.05.28
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トニー・レオンとワン・イーボー主演の中国ものスパイ・ノワール「無名」を観てきました。フライヤー見たときからもう楽しみで楽しみで。中国留学時には本当にインファナル・アフェアにお世話になりましたよ。留学生界隈でやたら流行って、ホントみんなで見て感想を言い合ったのが懐かしいです。その頃に比べればトニーも年取りましたが、このニヤけ具合がやっぱり変わらなくて好き。舞台は第二次大戦下の中国で、共産党・国民党・日本軍の三つ巴状態の上海です。汪兆銘政権の裏側で暗躍する工作員のフー(トニー)と部下のイエ(ワン・イーボー)は、毎日緊迫したスパイ戦を繰り広げる日々。そんな中で誰が味方で誰が敵なのか、静かで白熱した心理戦が繰り広げられていきますが…。えーと、犬がちょっと可哀そうなのでそこがいきなりしんどい。まあ、それは置いといて。あんまり書くとしっかりネタばれになるのですが、静かなのにヒリヒリする心理戦がメインな感じです。会食してても、ちょっとした会話をするにしても、みんな腹の探り合い。ウラのウラのウラのウラくらいをかく感じです。その上、時間がけっこう飛ぶので、よく観てないとわからなくなります。え、そのシーンはこの話だったの?!という驚きの連続は、ラスト20分くらいに立て続けに起きます。ワン・イーボー演じるイエの表情がすごくいいです。下を向いて、顔を挙げた瞬間に別人の冷酷さをまとうところ、ぞくぞくしました。いい顔してますよ。綺麗だし。そしてトニー!もう60過ぎてあのアクション!!スタントなしだそうですよ。本編の最後にメイキング映像をつけてくれていますが、こうやってやるんだ~と興味深く観ました。ワン・イーボーがまるで生徒(笑)やはり、彼のあのニヤリとした表情がいいんですよ。それであっさりと相手を手にかける。笑っているのに途方もなく怖い、そんなところがたまりません。しかし、結局二人とも〇〇なんだから、あんなにバトルしなくても良かったんじゃ…とは思うのですが、それもまた必要だったのかな?目を逸らすために?そして、あの時代の上海の雰囲気が伝わってきます。ねっとりと濃厚な暗闇と、そこに蝶のように飛び交う華麗な人々。まさに魔都。ヨーロッパとオリエンタルの融合が美しく、ため息が出ます。日中戦争とか絡むので、日本人は基本悪い人です。なんかつたない日本語とかも聞こえてきますが、それは仕方ない。意外とワン・イーボーがちゃんと日本語喋りますよ。劇中の言葉は、基本日本人キャストは日本語です。他は中国語ですが、普通語?以外に上海語とか広東語も混じっているのかな?普通語だったら響きで聞き分けられるんですが、そうでないものもあったので。
2024.05.19
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ゴールデンウィークで時間がたっぷりあるし、いま劇場で観たい映画が特にないので(本当はトニー・レオンが出てる「無名」観たすぎるけどこっちでまだ公開してない)、プライム祭りを勝手に開催することにしました。友達に「意外と良かったから観て!」と言われていた、アマゾンオリジナルの「ロードハウス/孤独の街」を観てみました。これはリメイクなんだそうですね。かつてUFCのファイターとして名を馳せるも、ある試合がきっかけでその舞台から去ったエルウッド・ダルトンが、フロリダキーズにあるロードハウスという店のオーナーに声を掛けられ、そこの用心棒となるところからストーリーが始まります。ストーリー自体はそんなにヒネりもなく、まあそうなるだろうなという展開で進行していきます。ロードハウスをどうにかしてモノにしたい地元のマフィアのボス、それに雇われて嫌がらせをしに来るチンピラ、そしてそれを追い払うのがダルトンの役目。ただ、よそ者であるダルトンは、彼らに目をつけられ、命を狙われることに…というところでしょうか。主演がジェイク・ギレンホール。こないだブロークバック・マウンテンを見返したところだったせいで、可愛い印象の方が強くなっていたんですが…すごい!筋肉!そしてアクションもホントに痛そうだしキレッキレだし、見とれてしまいました。元UFCファイターという役なので、筋肉が本当にプロレスラーのもの。他のスポーツ選手とはワケが違う、ド迫力の筋肉です。6パックとかじゃなくてあれは何パックなの?ダルトンのキャラクターも魅力的です。ふだんはにこやかなんですが(ボコボコにした相手を車で病院に連れてってあげちゃう)、本当にキレると何をしでかすかわからない。そのせいでUFCの舞台から去る羽目になっているんですが、自分でそれをわかっているから、自分を怒らせないようにしているんですよね。でも…そんな彼が最後にはブチ切れます。敵役の方たちも、本物のUFCファイターだったりするようです。サイコっぷりが振り切っててもはや笑えるノックス役は、コナー・マクレガー。私はUFCにはまったく疎いので、調べてみたら、けっこうキャラが立ってる方なのですね。この人の破天荒さをエスカレートさせたら、ホントにノックスになりそう。登場シーンは全裸だし、最後は死んだと思ってたら死んでないし、笑かせてもらいました。また全裸で街へ出てっちゃうのか…そんなに期待しないで観たんですが、想像以上に面白かったです。ジェイク・ギレンホールの筋肉だけで2時間もちますよ。
2024.05.04
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「陰陽師0」を観てきました。安倍晴明=コスプレ山﨑賢人=最強。ちょっとだけあるアクションもさすがです。今回は感情を殺した冷静沈着な役でしたが、そんな佇まいも素敵でしたよ。でも、たまにはコスプレじゃないドラマも観たいなと思いました。しかしそれより何より、源博雅=染谷将太がちょっとおバカな役どころで本当に可愛い。可愛いとしか言いようがない。冠に花ついてるのが愛らしすぎる。話の筋はだいたい読めるような展開ですが、映像がカラフルでキレイでした。しかし、女性たちの衣装は艶やかではありますが、あれだとちょっと花魁風味じゃないかなあ?品の良さが皆無だったのが残念。
2024.04.28
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昨日、一昨日とTamas Wellsのライヴを観に東京に滞在していたのですが、昼間の時間を利用して、「異人たち」を観てきました。ドラマ「シャーロック」シリーズの永遠のヴィラン・モリアーティ役のアンドリュー・スコットが主演だし、「アフターサン」のポール・メスカルが相手役だといったら、観に行かない手はないじゃないですか。そんな、多少不純な動機+山田太一原作の大ファンの友人の後押しがあって行ったわけですが、想像以上に私は泣きました。鼻を何度もかむくらいには泣きました、本当に。幼いころに両親を亡くし、孤独だけを道連れに生きてきたゲイの脚本家・アダム(アンドリュー・スコット)。彼の暮らすマンションには、影のある青年・ハリー(ポール・メスカル)が住んでいて、ある日突然声をかけられるのですが…。また、執筆に行き詰ったアダムは、かつて両親と暮らした家を訪れてみるのですが、なぜかそこには、亡くなった時と同じ姿の両親が暮らしていたのでした。この時点でふつうの物語でないことは明らかなのですが、アダムの両親は、自分より年上の姿になった息子を喜んで迎え入れます。ただ、幼いころから自分のセクシュアリティを自覚しつつも隠してきたアダムの現在を知り、昔のままの価値観の2人は、時に心無い言葉を投げかけてしまうのです。そんなときのアダムの表情がまた、切なく語るんです。そして、「済まなかった」と語る父とそれに抱き着いて泣くアダム。クリスマスツリーの飾りつけをしながら、Pet Shop Boysの「Always on My Mind」の歌詞を呟く母。この歌詞がそのまんま母から息子への謝罪と愛にあふれていて、私はここで涙で前が見えなくなりました。両親の家を何度も訪れ、一緒に暮らせなかった時間を埋めていくにつれ、謎に満ちた青年・ハリーともだんだんと心を通わせていくアダム。最初はなんか変な奴が来たとすげなくあしらった彼ですが、ハリーの佇まいに秘められた影と、そのやさしさに触れていくうちに、ついに受け入れる時が来るのです。なんかね、このラヴシーンが気持ち悪いとか言ってるレビュー見たんですけど。そういうこと書けちゃう人が気持ち悪い。ちょっとゲスい会話も、愛しさがあふれるタッチも、なんだか微笑ましく見守ってしまいました。けど、ふつうにドラッグ決めちゃうとこがやはりイギリスなのですかね?でもここでドラッグがガン決まりになっちゃうアダムの表情を目だけで演じるアンドリュー・スコット。すごい。素敵。好き。けれど、死者であるはずの両親との幸せな時間は、いつまでも続きません。唐突に訪れた別れの日、3人で思い出のショッピングモールへ行き、最後の会話が交わされます。もうここは涙なしには見られません。両親の愛の深さ、子供のように「別れるのは嫌だ」と泣くアダム、もう我慢できずに鼻をすすりまくりました。そして…自宅に戻ったアダムは、ハリーの部屋を訪れます。しかし、そこにあったのは…。これは言えない!言いたくない!ラストシーンは本当に印象的です。ベッドに横たわり、背中からハリーを抱きしめるアダム。ハリーが「何かレコードをかけて」というと、流れるのがFrankie Goes To Hollywoodの「The Power of Love」。最初のシーンでもアダムがかけていたのもこれでした。このバンドというと、やはりセクシュアリティではアダムに通じます。アダムはこの曲をよすがに生きているのかななんて最初は思いましたけれど、ハリーが初めてアダムを訪ねたときに「ヴァンパイアがいるんだよ」と言ったんですが、歌詞を読んで、ここでつながるのか!と納得。「ぼくがきみを守る」とアダムが言って眠りにつくラストは、いろいろ示唆に富んでいて、想像力をかき立てられる終わり方でした。もしかすると、アダムも…。現実と彼岸と、どちらなのか区別もつかない不思議な世界の行き来で構成されていますが、そこがミソだと思います。解釈は人それぞれ。愛の形も人それぞれに違う。孤独に生きていたって、心のどっかにひとかけらくらいはある。忘れているだけで、もしくは忘れようとしているだけで。恋人同士としての愛、親子としての愛、いろんな愛を気づかせてくれる一本でした。そして、親を大事にしなきゃなと改めて強く思わされた一本です。今でも、アダムと両親のシーンを思い出すだけで鼻の奥がつーんとします。それにしても、アンドリュー・スコットがチャーミングすぎる。少年時代に戻って、子供みたいな柄の赤いパジャマを着ているシーンは、唯一、のけぞりそうになりました。
2024.04.22
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フライヤーが映画館に置いてあったときからずっと公開を楽しみにしていた「貴公子」、たっぷり楽しめました。韓国とフィリピンの血を引く青年マルコは、病気の母親を抱え、賭けボクサーとして日銭を稼ぐ日々を送っていましたが、ある日、韓国から父の使いだという弁護士が訪れ、韓国へと行くことになるのですが。そこで、飛行機で出会った謎のイケメン「貴公子」に、いきなり「きみの人生最後の友達」と言われ、そこからなぜかしつこく追い回される羽目になり、マルコはこれでもかというほど痛い目に遭います。そこに絡んでくるのが、マルコの兄だという財団の跡継ぎ(のはずだった)ハン。気に入らない奴は全部ライフルぶっ放して始末する悪党です。貧乏人は存在価値なんてないと思ってる感じの、イヤな奴です。でもシャワー浴びた後のバスローブ姿はセクシー。あと、ハンと対立する後妻側の女弁護士も実にカッコよく、目の保養です。とにかくこの映画の醍醐味は、キム・ソンホ演じる「貴公子(名前がない)」。ゾクゾクっとするほど不気味です。きれいなお顔なだけに、やることなすこと怖い。前半からマルコのストーカー全開で、ヌッと出てくるなり、目だけ笑ってない笑顔。これが怖すぎる。かと思えば、コーラはストローで飲んでたりしてお茶目なところもあるし、走る姿がやたら姿勢よくて笑っちゃうんですが、基本、殺し屋なので怖いです。サイレンサー付きの銃でどんどん人を殺します。猛スピードでマルコを乗せた車と並走して、ニヤっと笑いかけた瞬間にまだ銃をぶっ放す。敵なのか味方なのかわからないまま、どんどんストーリーが進みます。ラストを飾るアクションシーンは壮絶かつクール。ライフルやピストルやらを360度から突き付けられてるのに、そこから挽回してしまうのが、さすが貴公子曰く「プロ」。血まみれになっているところさえもクール。でも、足に銃弾がかすっただけで大騒ぎするところはちょっとお茶目です。結局、貴公子はマルコの味方なのか敵なのか。ラストで明かされた貴公子の目的と結末は、観ているこちらでもちょっと読めていたのですが、この少々予定調和的なところも私は好きです。貴公子がずっと咳をしたり血のようなものを吐いたりしてたので、「病気?」と思ってたし、「これが最後だよ」といってマルコに会いに来たりしてたから…ほろ苦く終わるのかと思ったら!最後の最後がいちばんどんでん返しでした。完全無欠の美男・貴公子とか、捨てられたワンコみたいにほっとけないマルコに萌えたい人には超オススメ。
2024.04.13
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アカデミー賞を多くの部門で獲得した話題作「オッペンハイマー」、やっと見てきました。最初は単にキリアン・マーフィーが見たいというミーハーな思いもありましたが、やはり、扱うテーマがテーマなだけに、これは慎重にいかないとなと覚悟を決めるのにちょっと時間がかかりまして。確かにキリアン・マーフィー(と彼の青い瞳!)すごく素敵で、知的で、でも女性には弱くて(笑)、策略にはちょっと疎くて…オッペンハイマーを魅力的に演じていたと思います。でもなんであんなにすぐ女に手を出すの。笑もちろんそういうことだけではなくて、オッペンハイマーの苦悩、憤り、悲しみを眼差しで語る彼の演技が、素晴らしかったです。周りを固める俳優陣も豪華!ちょっとしか出てこないですが、ケネス・ブラナーがやっぱり素敵。ジョシュ・ハートネットも胸板厚くてカッコ良かったです。原爆の父と呼ばれるオッペンハイマーがいかにして原爆をつくり出すに至ったかを描いているわけですが…みんなで楽しそうに量子力学の話とかしているうちは微笑ましく見られるのですが、やはり、原子爆弾の開発のためにロスアラモスの研究所を作るあたりから、だんだんと不穏な雰囲気になります。アイマックスとかで見たわけではないのですが、冒頭の「核」を思わせる轟音で、すでに、物理的にではなく、心の底から震えていました。怖くなりました。そして核実験に成功するシーンは、直視するのもつらかったです。閃光、爆発、轟音、そしてあの特徴的な雲。うまくは言えないけれど、心臓をぎゅっとつかまれる、気持ち悪い感覚がありました。そして鼓動が跳ね上がり、胸が苦しくなりました。あれは怖気立つという表現が正しいのでしょうか?オッペンハイマーは、核実験の成功後、喜ぶみんなの中で少し違う顔をしていますが(でも、ざまみろとかドイツにも落とせばよかったとか別のシーンで言ってます)、彼以外の人々はみんな歓声をあげています。あれが当時のアメリカなのでしょう。複雑でした。広島と長崎の様子は、多くは語られません。私は、映像とかで語られなくて良かったと思います。そんなシーンがなくても十分辛く、心が震え出すくらいなのですから、描写があったら絶対見ていられなかったと思います。原爆をつくり出した当初は、これで戦争が抑止できると信じていたオッペンハイマーですが、実際はその反対で、核の開発競争が始まることに危機感を抱き、罪悪感に苛まれます。そのこともあって、彼はその後水爆の開発には反対するようになりますし、彼を良く思わないストロース(ロバート・ダウニー・Jr/アカデミー授賞式でホントがっかりした)に陥れられてしまうのですが。そこがこの映画の核だったかもしれませんが、原子爆弾のチャプターでダメージが大きかった私は、少々上の空で見てしまったかもしれません。それに、過去と現在、未来が入り乱れて展開するので、瞬時に理解するのが大変です。もうちょっとよく予習していけばよかったなと反省しました。個人的には、後味は決して良くないです。私は、原爆や戦争に関して決して意識が高い方ではありませんが、今回この映画を見て味わったあの気持ち悪い感覚で、やはり自分は日本人の感情が大きいんだなと思いました。フラットに見ろと言われても、そんなに意識高く見られませんでした。ただ、それでも、見るべきものだったと思います。あらためて、いろいろと考えるべきだと思わされたという点においては。
2024.04.06
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「瞳をとじて」を観てきました。なんと、監督ビクトル・エリセにとっては31年ぶりの新作ということで。映画の撮影のさなか、主演俳優フリオが失踪。その監督をしており、フリオの親友でもあったミゲルは、22年後、失踪者を追うテレビ番組に出演しますが、そこから物語がゆっくりと進みだします。ゆっくりと流れていく時間の中で、ミゲルの過去、フリオの過去、それを取り巻く人たちの物語が、セリフで多く語られることはあまりないのですが、眼差しや仕草、断片的な言葉たちで紡がれていきます。それを冗長と受け取る人もいるようですが、この時の流れをゆったりと楽しめなければ、この映画を見る意味はないと私は思いました。ミゲルとフリオ、スペインの政情が不安定な中、築かれてきたはずの友情は、フリオの失踪によって断たれてしまいます。彼らの友情がどんなものであったのか、観客は映像とセリフから想像するしかないのですが、ミゲルの眼差しが多くを伝えてくれているように思いました。それを咀嚼しながらスクリーンを見つめ続ける間、いろいろなことを考え、映画を見ながら思索にふけるという興味深い時間を持つことができたと思います。なかなかない体験でした。フリオではないかという人物が見つかった、というところから、ゆるやかな物語の展開が、少しだけそのスピードを上げます。とはいっても、大河の流れの強弱みたいなもので、急展開!というわけではありませんが。ただ、そのわずかな緩急でさえも、心地良い。ラストシーンは、フリオが失踪したせいで未完となった映画「別れのまなざし」の上映です。記憶を失ったフリオがスクリーンを見つめ、スクリーンの中のフリオの眼差しがこちらにまで何かを訴えかけてくるようなワンシーンでした。最後、フリオの記憶が戻ったかどうかは描かれません。ただ、私には、記憶喪失で澱んでいた彼の眼差しが、最後の瞬間だけ、はっきりと正気に戻ったように見えました。ミゲルの飼っているワンコが可愛いです。船に乗って、ミゲルの帽子をかぶっているところが悶絶するほどキュートでした。ハラハラドキドキスペクタクルな映画もいいけれど、こういう、自分の時間を噛み締めながら楽しめる映画は、私の心にとっては何よりの栄養です。
2024.03.31
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最後30分くらい、心臓が波打つくらいドキドキしっぱなしで、これほどの高揚感を味わったのは久しぶりでした。先日ちょうどアマプラでPart1を見ていたので、そのテンションで突入した「デューン 砂の惑星 Part2」。私はSFにほとんど興味がない方なのですが、Part1の不思議な世界観にかなり引き込まれ、Part2も俄然見たくなったわけです。一作目は本当に導入という感じでしたが、今回は大きな展開で終始エキサイティング。一族をほぼ皆殺しにされたポール・アトレイデスが、砂漠の民フレメンを率いて、仇であるハルコンネン家、ひいては皇帝シャッダム4世に挑みます。砂の惑星なので相変わらず砂だらけなのですが、この砂の世界がなんとも幻想的で、それだけで引き込まれます。画面に紗がかかったような雰囲気で、常に静寂がつきまとっているのですが、時に技術が現代を超えたものであったり、古めかしいのに機能的であったりと、これはやはりSFならではの設定なのでしょうが、私にはとても新鮮でした。とにかく、ティモシー・シャラメが妖艶で力強くて、その存在感はすさまじい。「君の名前で僕を呼んで」の子がこんなになるんですか!?一作目ではまだまだ若木のようだった彼が、フレメンの信用を得て一気に統率者となり変容していくさまが、不気味でもあり胸が痛くもあり。フレメンに仲間意識を持ちながらも、自分の目的のために、彼らが求める救世主リサーン・アル=ガイブへの崇拝心を利用し、ポールはてっぺんに立つわけですが、時折見せる、暗い苦悩を秘めた眼差しにくらくらします。とはいえ、「I am Paul Muad’dib Atreides, Duke of Arrakis!」と彼が叫び、フレメンの民が咆哮を挙げる瞬間は、何かすごく大変なことになりそうだと思うと同時に、血が湧き立つような感覚も覚えてしまいました。チャニの複雑そうな表情が挿入されるので、余計に、ね…。でも、このシーンからシャッダム4世を屈服させるところまで、終始私の心臓はバクバクでした。この興奮はなんだ、いったいどこから湧き上がってくるんだと自分でも戸惑うほど。そして、大領家との全面戦争を示唆するところで終幕なのですが…もう、次どうなるの!早く見たい!砂虫を乗りこなすシーンの迫力も目が釘付け。砂虫を畏れながらも、時にそれを移動手段として使いこなすフレメンのたくましさは、頼もしい。ハルコンネンに戦いを挑む際、砂の中からみんながいっせいに飛び出すシーンは鳥肌が立ちます。スティルガー頼もしすぎて大好きです。リサーン・アル=ガイブとか、クウィサッツ・ハデラックとか、不思議な固有名詞ばかりなのですが、それがすっと頭に入り、物語を楽しめるのは、やはり監督の手腕なんでしょうかね。宗教と政治、戦争が絡み合う世界は、現代への警鐘でしょうか。核弾頭が92発って、それは…使うの?という不安も続きますし、イスラムとキリスト教世界を思わせるような雰囲気も、危うくて、恐怖めいたものを感じますし…でも、見たくなるんですよね。これがどういう帰結を迎えるのか、本当に楽しみです。個人的に、ガーニイが生きてたのが嬉しすぎてたまりませんでした。「老いぼれ」とポールが呼んだ瞬間、ちょっと涙ぐみましたよ。だってみんな死んじゃったと思ってたので…それと、オースティン・バトラーが原型をとどめてなくてびっくりしました。あの頭、メイクで作ったらしいですが、それもすごい。でも彼があんなんで本当にすごい(笑)。伯父上とのキスシーンまで(しかもアドリブらしい)あって、ものすごいインパクトでした。
2024.03.20
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犬だらけという情報だけでもう見に行きたかった「DOGMAN」。でも、万が一ワンコが死んでしまうなんてことになったら絶対見られないので(そのせいでジョン・ウィックの一作目見られてないし、キングスマン2の最初は飛ばします)、どうかなあと思っていましたが、いろいろ調べたら「犬は無事」という情報が出てきたため、見に行きました。煽り文句が「規格外のダーク・ヒーロー」とあったので、どんな感じかなと思っていましたが…ダーク・ヒーローというより、これは悲劇のダークヒロインでしょう!検問で止められたトラックの運転席には、女装した男。荷台には数十匹のワンコたち。警察署に連れていかれた彼は、精神科医に自分の生い立ちを話し出すのですが…という導入です。主人公の「DOGMAN」ダグの生い立ちが本当に壮絶で、スクリーンから目を背けたくなるほどでした。父と兄に虐待され、母は逃げ、犬小屋に放り込まれて過ごした少年時代。唯一の心のよりどころは、犬たちでした。そうなんです、犬は絶対に裏切らないです。とにかく家族と認めたひとを愛してくれるのです。それは犬を飼ってきた経験から、痛いほどよくわかります。だからこそ、犬たちとダグの結びつきの強さに思わず涙が出ました。そしてこのワンコたちがみな頭が良すぎる。良すぎてあまりにも出来すぎな感がありますが、健気で勇敢で愛情深い彼らにウルウルしますよ。ダグの部屋へと続く廊下で門番のように鎮座するドーベルマンの子、目だけで演技してます。すごい。ダグは幼少期の不幸な事故により、車椅子生活です。なので、ダーク・ヒーローみたいなアクションはないし、アクションしてるところも、必要に迫られて必死でやってるだけなので、カッコよさもありません。そんなことよりも、彼が地べたを這いずるかのように生きる様の方を見て欲しい。どこに行ってもハンディキャップのせいで就職を断られ、最後に行きついたドラァグクイーンのバーでついに自分の場所を見つける。幼いころに味わった、演技によってまったく違う人間になれることの喜びを、彼はここで得るのです。エディット・ピアフを歌うシーンは吹き替えなのでしょうが(これはちょっと残念だけど仕方ないか…)、ダグの表情に浮かぶ恍惚感が、嬉しくも切ない。その直後に彼に訪れるカタストロフィが想像できるだけに、辛かったです。最後は救われたと信じたい。ダグを演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズですが、ふだんのフォトを見ているとすごくスタイリッシュでクールな佇まい。だけれど、この作品では、ドラァグ・クイーンの退廃的な雰囲気を醸し出し、不健康にたるんだ身体や、緩んだ顎までリアルです。すごいですね、俳優さんて。
2024.03.17
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映画館のフライヤーを見て、ちょっと気になっていた「ゴールド・ボーイ」。偶然、殺人の様子をカメラでとらえてしまった中学生3人が、それぞれの抱える問題が「お金」で解決できるんじゃない?と考えて、殺人犯を脅迫するというストーリー。岡田将生さん演じる殺人犯・東昇の鬼畜っぷりが素敵でした。白々しく泣き叫んだり、中学生3人に強請られて醜く唇を歪めたり、いろんな表情がたまりません。きれいな顔立ちだからこそ映える、人間の最底辺の感情表現がゾッとするくらい気持ち悪くて良かったです。血まみれシーンも凄味があって素敵。あと、スタイリングがクールだな~と思いましたが、あれはたぶんヨージヤマモトなのかな?クレジットにも出ていたので。ヨージをカッコよく着こなす男は最高です。中学生3人のうち、主人公格の朝陽が、東を上回るサイコっぷりをラストに発揮します。映画前半の彼を見ているうちに、彼は「いい子」だと思いこまされてしまうんですよね。でもそれが違うことがわかるのが、怒涛のラストへとつながる惨劇のシーン。「そして誰もいなくなった」の状態で、映画冒頭の東が義両親を殺めておきながら、白々しく叫んだ「助けてください!」のセリフを、東と同じ状況で朝陽が言うとは。ここからの朝陽は別人です。というかこれが素だったんですが…母を殺めることもほぼ何とも思ってないところが(結局殺してはいませんが)、昨今起きがちな少年犯罪の香りに通じているように感じられ、ちょっとぞくっとしました。予告編とか見てたら、青春モノっぽく終わるのかなと思ってたので、まったく異なる展開に終始ドキドキしっぱなしでした…が、何かが物足りなく感じたのも事実。ちょっと人物描写が表面的かなと思ったりもしました。展開は予想外ですが、行きつく先は「あ、やっぱそうか」という感じだったので。でもこれ、続編予定あるんですか?ラストに「2?」って出てきたんですけど。見るかどうかは…わかりません。
2024.03.12
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ずーーーーーーっと楽しみにしていた、マシュー・ヴォーン監督の最新作「アーガイル」を見てきました。「キングスマン」シリーズが好きすぎて胸が痛いほどの私ですが…今回も楽しかった!です。小説家エリーが書いたスパイ小説が、いつの間にか現実を予言してしまうような展開になり、エリーは謎の組織に命を狙われ…というところでヘンテコスパイ・エイダンが登場。最初のアクションシーンは列車の中なんですが、これがまたカッコいい!キングスマンでのパブや教会での戦闘を思わせるようなキレッキレのアクションに、序盤なのに目を奪われっぱなしでした。そこからの展開ももう…いったい誰の言ってることが本当で、嘘で、誰が味方で、敵なのか。はたまたエリー自身も悪だったのか!?というところまで混乱しちゃいますが、最後はちゃんと収まるところに収まって大団円。都合良すぎないかい?という展開もちょこちょこありますが、そこはいいんです。やっぱり最後はハッピーに終わってほしいですから。最初は全然冴えないエリーが、後半は別人。むしろエイダンより強い。強すぎ。オイルの上でのスケーティングアクションとか(ちょっと笑いましたけど)、カラフルなガスの中でダンスを踊るように敵をバッタバッタと倒しまくる二人のコンビネーションとかも見ごたえばっちりです。長いアクションシーンはキングスマンの時から大好きな展開で、もうワクワクしながら見入ってしまいました。私はヘンリー・カヴィルが演じるアーガイルがメインを張ると思っていたのですが、そうでもなかったところが意外でもあり、面白いなと思ったところでした。角刈りが変なのがまた良い。けど、ラストでちょっと違う姿で登場したので、ここで「え!?」となります。で…エンドロールが始まった後しばらくすると出てくるシーンで、思わず口を押さえてしまいました。え、だって若いアーガイル(超イケメン)が!?バーの名前がキングスマン!?つまり、アーガイルとキングスマンの世界は同じってことですか!!!驚きすぎて、語彙力をなくして「もうやばーい!」と叫びながら運転して帰ってきました。でも、てことは…元CIA副長官アルフィーを演じてたのがサミュエル・L・ジャクソンなんですよね。キングスマンと同じ世界なら、彼は…キングスマンの敵役・ヴァレンタインになっちゃうのでしょうか???私が当初から楽しみにしていた要素のひとつが猫さまなのですが、猫のアルフィーがキュートすぎて、出てきた瞬間からにやけました。可愛い。そしてアーガイル柄の猫リュック欲しい。あまりにもアルフィーが可愛いので、すぐに家に飛んで帰ってウチの猫さまを存分に愛でました。見ている間も、見た後も、興奮が冷めやらぬ作品でした。キングスマンまた見よう。
2024.03.05
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映画好きの友人に激推しされて知った、マブリーことマ・ドンソクですが、今回は「犯罪都市 NO WAY OUT」を見てきました。ホントに楽しみにしてたのでワクワクでしたよ。相変わらず破天荒な感じのマブリー(役名はマ・ソクト)が、腕っぷしにモノを言わせて敵を一掃するお話です。つまりはそういうことです。麻薬捜査の過程で、汚職刑事と日本のヤクザと三つ巴になるんですが、車にはねられようがボコボコに殴られようが、彼は死にません。金庫も力づくで破壊します。グロいシーンも多いんですが、マブリーが出てくると全然気にならない(笑)。コミカルなシーンもちょくちょく挿入されているので、思わず笑っちゃいました。そして今回は日本のヤクザの親玉が國村隼さん。あまりにも似合いすぎて素敵。ちょっとしか出てこないんですが、また敵となって立ちはだかりそうな予感が。そのヤクザの親玉に派遣される殺し屋が青木崇高さん演じるリキ。このリキが狂っててカッコいい!日本刀で容赦なく殺し回るのがハマってました。汚職刑事のチュ・ソンチョル(イ・ジュニョク)は、クールで知的なのにやり方が圧倒的に汚いところが良かったです。私は韓国エンタメまったく知りませんが、とても素敵…こういうラスボス大好きです。とはいえ、リキもチュ・ソンチョルもマブリーにぶっ飛ばされるわけですが。早くも、次が見たい映画No.1です。
2024.03.02
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今日公開となった「落下の解剖学」を見てきました。パルムドール受賞、今年度のアカデミーには5部門ノミネートと、賞レースを大いににぎわせている一作ということもあり、期待に胸を膨らませながら、雪の中、映画館へと向かいました。雪深い山荘で、ある男が謎の転落死を遂げるところから、物語は急展開します。唯一、事件発生時に山荘にいたと思われるのは、男の妻であり売れっ子小説家のサンドラ。愛犬スヌープと散歩に出るところだったのが、目の見えない息子・ダニエル。サンドラが殺したのか?それとも事故なのか?…というところで、展開される法廷モノでもあります。最初は妻寄りで見ていましたが、途中で新たな事実が判明すると、夫の苦悩もすごく理解できるような気がしました。というか、サンドラ、それはエグい…!この人物相関図って、日本の家庭でよく問題になるやつじゃないかなと思ったりもしましたよ。日本だったら、夫が仕事で家庭を顧みず、妻は子供の世話と家事で手一杯で、自分の時間を持つことも許されない。この作品の場合はその逆バージョン。いろいろ考えさせられる部分が大きかったです。最初に事件が起きて、裁判でその光景を振り返っていき、それを補う形で事実が挿入されていくと、真実はそういうことだったのか…としかし、この映画はワンコのスヌープが本当に演技派。最初、CGとかで合成したのかと思っちゃいました。そしたら、この子パルム・ドッグ賞をもらっているんですね。納得です。そして、息子・ダニエルも魅力的。演じているのはミロ・ド・マシャールくんというのですね。裁判で明かされていく両親の事実に、心を引き裂かれそうになりながらも、現実としっかり対峙していこうとする姿は感動的でもありました。個人的にいちばん気になるのが、サンドラの旧知の弁護士・ヴァンサン。演じているスワン・アルローが!素敵!素敵以外のなにものでもないです。かつてサンドラに恋をしていた彼が、時折見せる切ない眼差しと、法廷でのキリっとした姿とのギャップにやられてしまいました。でも、ホントにサンドラひどいです。その、真に迫るひどさがまた、いいのかもしれません。
2024.02.23
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原作コミックスを読んだこともない私ですが、実写版「ゴールデンカムイ」を見てきました。「俺は不死身の杉元だ!!!」これしか予備知識なかったのですが、とても面白かったです。なんといってもキャラが立っててみんな魅力的。杉元の殺戮マシーンな強さやアシリパの凛とした佇まい。鶴見中尉のキモさ(笑)。山崎賢人くんはいろいろ演じているけど、いいですね~。体重増やして臨んだそうで、登場したとき一瞬だれだかわかりませんでした。陰陽師も見に行きたいです。最近は沈黙の艦隊のおかげで玉木宏さんづいていますが、鶴見中尉のイッちゃってる感がすごく滲み出ていて(脳から滲む変な水も…)、もう好き好き!となってしまいました。なんといっても、新選組大好きな私としては、舘ひろしさんの土方副長が見られたのが感激でした。あんなに年取っててもカッコいいってどうなの。和泉守兼定を手に入れたシーン、鳥肌ものでしたよ。「いくつになっても 男子は刀を振り回すのが好きだろう」って!好きです!あなたが!!北海道の自然の雄大さや、アイヌの文化も知ることができて、興味深い面もたくさんありました。ちょっとコミカルなシーンも息抜きできて良かったと思います。アクションシーンはスピード感も迫力も十分で、見ごたえありました。もちろん続編ありますよね?
2024.02.13
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「禁断の」とか、「美しい」とか、「残酷な」とか…そんな言葉はどうしてもこういうジャンルの映画にはついて回ります。確かにそうなんです。たいていの場合、舞台となった時代では同性愛が違法であったり、忌み嫌われているからこその「禁断」なのでしょう。今回見てきた「ファイアバード」は、「禁断で」、「美しく」、とても悲しい物語でありながら、主人公2人の気持ちが、時に人間らしく非常に利己的にすら感じられたのが印象的でした。ソ連時代のエストニアで、もうすぐ除隊となる二等兵セルゲイと、新しく赴任してきたエリート将校のロマン。2人の切なすぎる物語です。当時は同性愛が露見すれば監獄行き。それでも惹かれ合う2人の心は止められません。とはいえ、軍で生きていくロマンは、セルゲイとのことは隠さなければならない秘密。だからこそ、ロマンは思いっきり利己的です。バレそうになればセルゲイを突き放し、セルゲイの友人であるルイーザと結婚してしまいます。セルゲイはセルゲイで、自分の気持ちに正直すぎて、ロマンと結局よりを戻します。親友ルイーザがどんなに傷つくかわかっているのに…。結局、ロマンとの関係をほぼさらしたも同然な置き手紙を残していくところとか(もちろんルイーザにも見られちゃうとわかっているはず)、「そこ違うでしょ!ロマンにだけわかるように置いてけばいいでしょセルゲイ!」と突っ込みたくなりました。けれど、2人の恋愛模様は本当に美しくて切ない。セルゲイが密かに視線でロマンを追うシーン、ロマンが死の淵から生還して、生きていることを確かめるかのようにセルゲイと抱き合うシーンが印象的でした。そして、2人が楽しそうに過ごす休暇のシーンは、ハッピーエンドは絶望的だとわかっているからこその切なさがありました。あまりにも突然の別れ、ロマンが遺した写真、かつて彼からセルゲイにあげた戦闘機のフィギュア…後半は心に痛いほど響くシーンの連続で、胸がキリキリ。セルゲイがかつてロマンと見たバレエ「火の鳥(ファイアバード)」と見てはらはらと落涙するラストシーンは、切なさの集大成です。ウルっとしますエンドロールの後に、一瞬だけ不穏なシーンが挿入されています。あれは絶対あいつが一枚噛んでるでしょ!主演のトム・プライヤーとオレグ・ザゴロドニーはひたすら美しく凛々しくカッコよく、ため息ものです。トムの筋肉がすごい(笑)。私は、演劇学校時代のロン毛よりは二等兵時代の短髪が好きですねー。
2024.02.11
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今日は「ジャンヌ・デュ・バリー」を見てきました。ジョニー・デップがルイ15世を演じている映画です。それだけで見たくなります。監督はマイウェン。この人がジャンヌ・デュ・バリーも演じています。デュ・バリー夫人と言えば、低い身分から王の公妾にまでのし上がった女性。美貌と知性を兼ね備えていた…というくらいが私の認識ではありましたが(マリー・アントワネットになかなか声かけてもらえなかったっていうのはすごく印象にありました)、この作品だと印象がちょっと違ったかもしれません。マイウェンは実際にすごく美人というわけではないけれど、ジャンヌを演じる奔放な雰囲気にとても引き寄せられました。本物のデュ・バリー夫人がこんな感じだったのかというと、そうではないようにも思えますが…あの時代にここまでの型破りが許されたのかな?と思うところもあります。けれど、創作の中の人物としては魅力的だと思います。とはいえ、ちょっと「伝統をものともせず、ルールを飛び越える自由な女の姿」を強調しすぎかなあとも思いました。一方、ジョニデのルイ15世は気品と威厳に満ち溢れていて素敵でした。おしろい塗ってても口紅塗っててもなんだか素敵。そしてフランス語を喋るところも素敵。そんなに感情を出す人物ではないのですが、ちょっとしたしぐさや視線で「語る」ところがぐっときました。でも、いちばん気に入ったのはラ・ボルド。ずっとジャンヌと王に付き添い、見守り続ける姿が本当に誠実でカッコ良かったです。王太子のルイ(のちの16世)のスタイルが異常に良すぎて、終始気になりまくりましたが、この俳優さんはマイウェンの実の息子さんだとか!俳優というより本業はテニスプレイヤーだそうで。ジャンヌの最期はあえて描かれていません。ルイ15世の死後のことはほぼ端折ってありますが、この作品で描くことではなかったのかな、と。個人的には最後にサンソンとか出てきたら面白かったのに…と思うけれど、そうなっちゃうとまた別の作品ができちゃいそうですね。やっぱり見どころはヴェルサイユ宮殿とか衣装かな。鏡の間や、そこにずらりと並んだ貴族たちの絢爛豪華な衣装には見とれてしまいました。宮殿の庭も本当に美しいし、これこそ眼福でございました。
2024.02.04
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「レザボア・ドッグス」のデジタルリマスター版が公開されました。冒頭の「Little Green Bag」が流れ出す瞬間がたまりません。スタイリッシュの極み。そしてマドンナのライク・ア・ヴァージンについてのけっこう下品な会話。それがまたいい。黒スーツはメンズを5割増しでカッコよく見せますね。オレンジ役のティム・ロスにひたすら萌えました。可愛い。可愛すぎる。何あれ。ピンクのスティーヴ・ブシェミも面倒くさい野郎でチャーミングだし、唯一人情味がダダ洩れしちゃうホワイトのハーヴェイ・カイテルも素敵。オレンジとの絡みなんて最高。この人がいなかったらこの作品も表に出なかったんですよね。ブロンドのマイケル・マドセンの、冷静でいるようで狂気も同居してる目がカッコ良すぎ。あっという間の100分。その中に詰め込まれた、下品なのにクールな会話劇と、ガランとした倉庫だけがほぼメインの舞台というシンプルさに驚きました。ホントに皆さんクールすぎ。何度でも見たい。何度でも言いたい。ティム・ロス可愛すぎる。
2024.01.09
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昨日「蟻の王」を見てきたのですが、おとといにはついに「首」を見てきました。公開してすぐ行こうと思ってはいたのですが、家人の入院あり、私の喘息もどきありで映画館に行くことすらできずにいたのです。公開数もずいぶん減ってきたので、今見ないとラストになりそうだということで、仕事納めしたその日の午後に映画館へすっ飛んでいきました。すっぱんすっぱんと首が飛び、血しぶきがあがり、あっさりと人が死にます。戦国時代と北野武の世界観、意外と合っちゃうかもなと思いました。加瀬亮さんの演じる信長が良かった!最初なに言ってるか全然わからないくらいの訛りでしたが、イっちゃってる信長、素敵でした。そしてエンケン!荒木村重が可愛く見えてきます。目をキラキラウルウルさせて「俺はお館様ひとすじです!」とか、西島光秀に「お前らいつからなんだ!?」とか…私はまさかエンケン村重と西島光秀がそういう関係で描かれると思ってなかったので、びっくりすると同時に思わず見入ってしまいました。北野秀吉とか小林家康とかがどう見ても信長より年上なんですが、それでも「ま、いっか」と思えてしまうのはなぜなのでしょう。勝村政信さんの斎藤利三めっちゃカッコよかったけど、そこで死ぬんじゃないと思う…と思いつつ、やっぱり「ま、いっか」と思えちゃう。なぜなのか。信長の最期ってそうじゃないだろと思いつつ、「これならアリかも」と思っちゃう。なんで?私は大河の「どうする家康」がどうにもこうにも受け入れられない派ですが、「首」は断然オッケー。なぜなのか。やっぱり、戦国時代の容赦ないエグさが描かれているからなのかもしれません。常に死を意識して生きる武将の、張り詰めた緊張感と、それによって少しずつ狂気に侵食されていっているかのような人物像が、私にはすごくはまりました。それに、お金かかっても合戦シーンはホンモノがいい。馬がたくさん!弓矢も鉄砲も火を噴くぞ!みんな泥まみれで戦って首をかっ切ってる!今回のはすごく良かったです。中村獅童さんの茂助は、ひたすらアホで汚くて狂ってて良かったです。貧しい農民だったはずなのに、ひとつの「首」に運命を狂わされ、別の「首」で命を奪われる。「首」の持つ魔力が描かれているなと思いました。興行的にイマイチとか書かれていたりもしますが、戦国モノ大好きな私には、とても面白く見ることがてきてよかったです。
2023.12.30
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この1年は、以前に比べてだいぶ映画館に足を運ぶ回数が増えました。プライベートの自由時間が確保されたことがいちばんの理由なのでしょうが、周りの友人に触発されたことも一因です。年に100本以上見る友人に比べれば、全然たいしたことはありませんが…今日見てきたのは、イタリア映画の「蟻の王」という作品です。SuedeとManicsのライヴの時に、有楽町で見ようと思っていましたが…グッズ売り場に並ぶ方を選んだ私は、見る機会を逃してしまっていました。ところが今回、地元でひっそりと上映されているのを知り、これは行かねば!と出かけたのです。なんと観客は私ひとり!でしたが、ゆったりと見られました。そして、思う存分涙してきました。1960年代のイタリアで、同性愛は「一般の」人々の間では、忌むべきものだったようです。そんな中、蟻の研究者にして劇作家のアルドは、ひとりの若者に出会います。エットレという名の彼と言葉を交わした瞬間、2人の恋は始まりました。しかし、時代はそんな彼らの愛を許しません。エットレの家族は、無理やり彼を連れ戻し、矯正するための電気ショック療法にかけてしまうのです。そしてアルドは教唆罪で逮捕されてしまいました。アルドとエットレ、2人の間に芽生える感情が愛に変わるさまを、2人の俳優が細やかに演じています。アルド役のルイジ・ロ・カーショの知的な雰囲気には文句なく引き込まれますが、それ以上に素晴らしいと感じたのは、レオナルド・マルテーゼ演じるエットレ!ルックスも繊細な美青年なのですが、アルドと出会ったばかりのころの無垢さ、恋を覚えたときの眼差し、電気ショックで精神に変調を来しながらもアルドへの思いを告げるあの法廷シーンはもう、圧巻でした。私はここで泣きました。精神を壊され、以前のような抜けるような聡明さを失いながらも、瞳の奥からあふれ出るアルドへの思いに、涙腺崩壊でした。最初はイヤイヤながらも法廷取材にやってきた記者エルニオが、だんだんとこの裁判にのめり込んでいく様子や、アルドと築いた信頼関係もいい味出してます。アルドが無罪になって、エルニオの記事が大きく取り上げられて…なんて結末があれば、と思ったりもしますが、当然ながら、これは事実ベースの物語。現実は厳しいものでした。アルドとエットレのラストシーンには、わずかの光と大きな悲しみが見え隠れします。本当に重いテーマでした。見ているのが辛くなる瞬間もありました。けれど、見てよかったと思える映画でした。
2023.12.29
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