迷跡読書日記
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1 梅崎春生の「ボロ家の春秋」の流れは次のとおり。(1)"僕"(貧乏画家)はひょんなことから意気投合した不破の家の間借り人となる(間代は月五百円、権利金は四万円)。(2)留守番が来ることを言い置き、不破は夫人と旅行に出発する。(3)野呂(小学校教師)が家財を抱えて引っ越してくる。留守番かと思いきや、不破の家を十四万円で買い、手付金四万円を払ったと言う。(4)陳さん(中華料理店主)が警察とやってくる。不破への十八万円の貸金の取立てに来たという。不破は詐欺師で失踪したらしい。(5)“僕“と野呂は被害者顔合わせということで、陳さんの店でご馳走になる。酔っていい気分になり、陳さんの差し出した書類に読みもしないで捺印署名する。(6)陳さんの使いが家賃(二人合わせて月額四千円)の取り立てに来訪。先に捺印署名した書類は二人が陳さんから家を借りる借家契約書だったのだ。二人は抗議しようとするが、使いの者は少林寺拳法の使い手で怖いので、言われるがまま金を払う。(以下略)※家の登記名義は不破にある。2 読んでいて不可解だったのは、不破の家の所有権がどういうわけで陳さんに移転したのかということ。その点についての説明は、使いの者の次の言葉しか出てこない。「この家、陳大人が押えた。早く家賃払うよろし」可能性としては、家屋を借金の担保として陳さんが不破に融資したということである。話の流れからすると抵当権の可能性は乏しい。とすると、売買の一方の予約の合意(予約完結権は陳さんが有する)があったと考えると辻褄は合う。不破から貸金の返済がなかったので、陳さんが予約完結権を行使した結果、家屋の所有権は不破から陳さんに移転したわけである。仮にそうであったとすれば、「野呂←不破→陳さん」の二重譲渡関係となり、先に登記を得た者が優先することとなる。結局、野呂とすれば、少林寺拳法の怖さはそれとして、あくまで自分も買主であることを主張して陳さんの家賃要求を突っぱねればよかったという結論になる。なお、“僕“としては、家の所有者が確定するまでは、家賃を供託するのが安全であろう。3 本作、直木賞受賞作であり、それなりに話題になった作品と思われる。当時、法律的な見地から、あれこれ分析がなされたのではないだろうか。機会があったら調べてみたい。
2023.01.29
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