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助産婦メモルの日常~Happy Birthな毎日~
18トリソミーとの出会い
18トリソミーとの出会い
『18トリソミー』という病気があります。先天性の染色体の異常です。
正常な染色体は、44個(1対が2個の同じ番号の染色体で22対)の常染色体と、
XとYで表される性染色体2個(通常男性はXY,女性はXX)の計46個で作られています。
『18トリソミー』は、本来1対2個の18番目の染色体が3個あります。
他に染色体異常として、よく知られている病気としては『ダウン症』があります。
『ダウン症』は、本来1対2個の21番目の染色体が3個あり、『21トリソミー』と言われます。
『ダウン症』は母親の年齢が高くなる程、発生率が高くなることは知られていますが、
すべての症例がそれにあてはまるわけでもなく、結局確定的な原因は不明です。
『18トリソミー』も同じです。
染色体異常は遺伝でもなく、確定的な原因もなく、
あらゆる偶然が重なった結果というのが、今の医療の見解です。
そんな『18トリソミー』という病気に出会ったのは、助産学生の頃でした。
まず『18トリソミー』という言葉に出会いました。
新生児学の授業で来ていた、NICUに勤務する小児科医の先生からその言葉は出てきました。
先生は自分自身、臍の緒が首に何重も巻き付いた状態で、アプガースコア2点という重症胎児仮死で出生したそうです。
今程、人工呼吸器やその他医療機器も発達していない時代ではありましたが、
医療のおかげで何の障害もなく、成長することができたそうです。
そんな自分自身の経験から小児科医を目指し、小さな命を助けようとNICUに勤務していました。
先生は授業のたびにこう言いました。
どれだけ小さな赤ちゃんでも、どれだけ赤ちゃんにとってしんどい状況であっても、
この世に生を受け、生まれてきたからには、必ず生きていける力を持っている。
その力が弱いこともある、足りないこともある、だから私はその手伝いをしてるだけ。
「治療」なんて程のものではない、「手伝い」なのだ。
・・・と。
ほんとに耳にタコができる程、授業のたびにそう言っていました。まさに熱弁・・・。
ある日の授業で、先生はいつものように熱弁をふるっていました。
ところが、いつも程の熱さはなく、最後にこう言った。
「まぁ『18トリソミー』とかなら別だけど・・・。」
メモルは、衝撃を受けました。
いつも「どんな赤ちゃんでも生きていける」と言っていた先生が、
「別」と言った『18トリソミー』という病気。
『18トリソミー』という病気について、何の知識もなかったメモルは早速教科書を開きました。
いろんな参考書をみました。
だけど、どの本にも同じことが書いてありました。
子宮内より著しい成長障害を示す。多くの場合、妊娠初期に流産に至る。
成長した場合も子宮内胎児死亡になることが多く、出生に至った場合もあらゆる奇形を伴い、重篤。予後は絶対不良。
生後2ヶ月以内に死亡に至るケースがほとんどである。
この時の気持ちは言葉にできません。
今なら、多少なりとも助産婦としての経験を積んできて、もう少し深いところまで考えることができると思います。
でも当時学生だったメモルには、『18トリソミー』の赤ちゃんは何のために生まれてくるのか、全くわかりませんでした。
少なくとも小児科の先生ですら、あきらめの言葉を発するほど。
『18トリソミー』は、「生きていける力」を持っていない赤ちゃんなのだと思いました。
その時、先生が勤務するNICUにちょうど『18トリソミー』の赤ちゃんがいたのです。
その赤ちゃんがいたから、きっと授業で『18トリソミー』という言葉が出てきたのでしょう。
そしてメモルはたまたま翌週からNICUの実習だったのです。
NICUの真ん中、一番目立つところにある保育器の中でかすかに動く小さな赤ちゃん。
その赤ちゃんが『18トリソミー』の赤ちゃんでした。
39週という妊娠満期での出生にも関わらず、出生時の体重は1500g台。
帝王切開で最小限のストレスで出生しましたが、出生時泣き声をあげませんでした。
その赤ちゃんの人工呼吸器やモニターはしょっちゅう「ピー」と警告音をあげていました。
赤ちゃんの呼吸が止まったり、心拍数が落ちたりしているのです。
そのたびにあの小児科の先生がすっ飛んできて、処置にあたります。
時に汗だくになりながら、処置をしていました。
『18トリソミー』を「別」と言った先生。
決して、あきらめで言った言葉ではないのだと思いました。
『18トリソミー』の赤ちゃんは「生きていける力」が弱すぎる、足りなすぎる。
だからいつも以上に「手伝い」をしなければいけない。
そんな思いで言ったのだと思いました。
赤ちゃんは保育器をこわごわとのぞくメモルを見てました。
メモルがじーっと見てると、赤ちゃんもじーっとメモルを見ていました。
挿管され、人工呼吸器を装着されていて、鼻からもチューブが入っていました。
小さな顔はテープでいっぱいでした。
だけど、メモルはその小さな瞳に、そして『18トリソミー』の赤ちゃんのシンボル、
小さなグーの手に「生きていける力」を感じました。
だけどその赤ちゃんには致命的な奇形がありました。
本来完全に分かれているはずの、食道と気管の一部が一緒になっているのです。
つまり吸った空気は肺と胃に同時に入ります。
人工呼吸器で送られる空気は胃にも入ってしまうため、お腹はポンポンにはってきてしまいます。
そのため鼻からチューブを入れて、空気を抜いているのです。
またミルクを飲んだなら、それも肺と胃に同時に入ってしまうのです。
肺は空気以外のものが入ると、炎症を起こしてしまいます。
手術で別々にすることも不可能ではないのですが、手術に耐えるにはそれなりの体力が必要です。
もともと体重が小さいのに、ミルクを飲むことができないため、体重を増やすことができないのです。
点滴で栄養を入れても、体重が増えるまでにまた違うところに障害が出てくると予測されていました。
つまり・・・、もうこのまま生きていくのは困難な状況にあったのです。
それはもう死を待つという状況と同じなのです。
それでも全力の治療は続けられていました。
きっとそれが両親の希望だったのだと思います。
生後7日目、赤ちゃんは亡くなりました。
先生の「手伝い」のもと、その赤ちゃんなりの「生きていける力」を最大限に発揮して、1週間、強く生きました。
『18トリソミー』の赤ちゃんは何のために生まれてくるのか、全く分からなかったメモルも
その赤ちゃんが生まれてきた意味を、1週間生きた意味を考えました。
メモルは赤ちゃんの両親に会うことはなかったけど、
両親にとってはその赤ちゃんが生まれてきてくれたこと、
1週間生きてくれたことは大きな意味のあったことなのだと思います。
それから、インターネットで多くの『18トリソミー』のお子さまを持つママさんに出会いました。
本には予後絶対不良と書いてあるけど、2才、3才・・・と元気に育ってるお子さまも多いのです。
そんなお子さまをメモルは全力で応援したいと思いました。
また、悲しい思いをしたママさんにも出会いました。
あの亡くなった赤ちゃんのように、一生懸命頑張ったけど亡くなってしまう子もいるのです。
そんなママさんにも全力で応援したいと思いました。
小さな身体で一生懸命頑張る命を、そしてそのママさんたちをぜひ一緒に応援してください。
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