waiting for the changes

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24話:栄光の翼


「レッシュ」
北アメリカ大陸を抜けて、レッシュたちはアフリカの砂漠地帯に向かおうとしていた。大陸を後にして眼下に海が見える。眼下といっても高度をギリギリに落としてレイザーは飛んでいるため5~10メートルほどしか水面までの距離は無い。高く飛びすぎると、世界政府軍、反政府軍の対空センサーに引っかかってしまう。戦闘は出来るだけ避けたかった。海を見ながらレッシュは3年前の出来事思い出していた。窓の外を眺めるレッシュの側に制服姿の優美が近づいてくる。彼の過去を知っている数少ない人物だ。
「ここは・・・」
「ああ、アイツらと初めて会った場所、タカと別れた場所だ」
静かに言うレッシュに優美はそれ以上言葉を掛ける事が出来なかった。優美は黙ってレッシュの横に座る。廊下に直に座ることになったが優美はそれでもよかった。少しでも長くレッシュのそばに居たかったから。優美は壁を背にし、頭だけをレッシュの足にもたげ、目を閉じた。


「敵影なし、警戒を続けます」
「わかりました」
レイザーのコクピットではシェリーと友子と貴子が警戒しながら進路を取っていた。シェリーは操縦桿を握り、微妙な調整をしながら海面に波が立たないギリギリの高度を維持する。友子は全方位の警戒、パイロットたちの状況の把握を1人で行っている。貴子は射撃管制の席ではなく、キャプテンシートに座っている。左横に取り付けられた端末で友子が転送してくるデータを手際よく処理する。輸送艦と言えど、運用できるギリギリの人数だった。本当のところ換えの要員が欲しいがそんなことは言えない。彼女たちはそれぞれの仕事で精一杯だった。
「シェリー、もう少し速度上げられますか?」
「O.K!」
シェリーはレイザーのスロットルを開いて出力を少しだけ上げる。速度が上がれば微調整は難しいが、そこは彼女の腕の見せ所だ。レイザーが少しだけ上昇してスピードを上げた。


「カールトン君の機体の損傷は激しい。修理が追いついていないのだよ」
「ちっ・・・」
「翼、どうせ俺は海じゃ出れない。関係ないさ」
艦のキャプテンシートに座るブリッツェンが翼とヴィラとバラッドを見回す。舌打ちする翼にバラッドは両手を挙げて“お手上げ”のポーズをとった。翼はブリッツェンを睨むような目で見る。
「俺の機体は?」
「鷹山君のブラック・バードは大丈夫だ。ハイオルス君のシャイニングも問題無い」
それを聞いて翼は一応安心した。この状況で襲撃されたらたまったものではない。大西洋を渡るのはリスクが伴う。世界政府軍と反政府軍が征服権を賭けて争いが続いている。翼たちの乗る艦は通常の戦艦より一回り大きい戦艦だった。その分、装甲、武装は強力だがGの部隊に襲撃されて艦だけの能力で乗り切れるとは考えられない。翼たちのGの力が必要になる。
「鷹山君とハイオルス君はコクピットで待機。長くなるかも知れんが・・・我慢してくれ」
「了解ッ!」
「了解!」
ブリッツェンの命令に翼とヴィラは敬礼した。そして、ブリッジルームを後にする。パイロットルームの前でヴィラと翼たちは別れる。もちろんパイロットルームは男女別れている。レッシュたちの艦では男女兼用なのだが。
「翼」
「なんだ?」
パイロットスーツに着替える翼の後ろからバラッドが声を掛ける。前のチャックを上げて、気密プロテクトをしながら翼は振り返った。
「お前、大西洋(ここ)に来てから変だぞ?どうかしたのか?」
「・・・ちょっとな」
「俺には言えないことなのか?」
バラッドは腕組みをして翼を見つめる。翼は目を合わさずに軽く返しただけだった。ヘルメットを持ってパイロットルームから出ようとする翼の腕をバラッドが掴んだ。
「待てよ」
翼は振り返らずに小さな押しつぶしたような声で言った。
「ここは俺が終わった場所だ」
そういい残して、翼はバラッドの手を解いてパイロットルームを後にした。ドアが開いた先には笑顔のヴィラが待っていた。2人の雰囲気がいつもと違うことをヴィラは直ぐに感じ取り、笑顔が消えた。
「翼君?」
「何でもねぇよ、行くぞ」
バラッドは格納庫へ向かう2人の背中を見つめていた。そして、ヴィラの背中に願いをかけるように言う。その声は誰にも聞こえない。
「アイツを守ってやれ。お前しかそれはできないんだよ・・・」


レイザーの館内放送が響く。レッシュが少し動いたことで優美は目を覚ました。少しの間眠っていたようだ。「ありがとう」と言って差し伸べてきたレッシュの手を取って立ち上がる。優美が眠ってしまったことを知ってか、レッシュはその場所からしばらく動かなかったようだ。その小さな気遣いが優美には嬉しい。
「俺と優美と翔がパイロットルームに集合だって」
「うん」
「恐らく、機体で待機だろ。優美の新型の実力を試せるかな?」
「新型って言っても、たいしたこと無いですよ」
パイロットルームに向かいながら笑いかけてくる。優美は自機であるグロリアスをバージョンアップしていた。フライングアタッチメントがそのまま埋め込まれた飛行能力を有したGへと変更していた。基本的にはグロリアスだが完全に飛行することを前提に改造され、反応速度や機動力が格段に上昇している。アタッチメントによる装備変更は出来なくなったが、その分を補うぐらいの戦闘能力を有した機体だった。
「“ウィング・グロリアス”って、なんか単純ですね」
「そうだな。単純な分わかりやすいだろ?」
優美が新しくなった自分の機体の名前を笑って皮肉った。レッシュも同じように笑う。突然、2人の背後から声がした。2人が同時に振り返るとそこにはふくれっ面の真琴がいた。
「どーせ、私はネーミングセンスが無いしね」
「あはは・・・」
「次考えるときは、頼むぞ」
優美の失笑の横でレッシュが少しおどけた。真琴は「ふう」と息を吐いて、優美に資料を渡す。表紙には“ウィング・グロリアス”と書かれており、中身は重要な部分が抜粋されたとても見やすい資料だった。
「これ・・・真琴さんがまとめたの?」
「当たり前じゃん!」
「ありがとう」
エヘンと胸を張っていた真琴は、優美に笑顔で頭を下げられ、少し頬を赤らめて、何も言わずに2人の間をすり抜けて格納庫へと向かう。レッシュと優美は顔を見合わせて笑った。「照れてるな」「照れてるますね」と2人で笑った。その後姿を見送ってレッシュと優美はパイロットルームの扉を開いた。中には既に、翔と友子がいる。翔はパイロットスーツに着替えた状態だった。
「遅いぞ」
「お前が言うセリフか?」
レッシュが突っ込むと“職務怠慢”で左遷させられた翔は両肩を少し上げておどけてみせた。パイロットたちがそろったところで友子が説明を始めた。


友子がパイロットルームのモニターに開いたファイルの映像を出した。それは傭兵組織の上からの命令だった。
「ヴィレドル隊の諸君、作戦ご苦労。君たちの活躍はこちらにも届いている。ハワイ、シアトルと陥落し、世界政府軍は焦っていることだろう。反政府軍と呼ばれる者たちとの戦闘もあるようだが、我々は誰にも屈しない自由が理念だ。よって、世界政府軍同様、反政府軍も敵と見なす事が正式に決まった。そこでだ・・・」
傭兵組織上層部の男性は画像を提示した。それはレッシュ、優美の知っている顔だった。古い映像だが“彼”に変わりはない。
「反政府軍の英雄、“漆黒の鷹”の撃破だ。“鷹山 翼”これが彼の本名だ。彼は嘗て、我々側の人間だった。だが、彼は反政府軍に就き、敵となった。彼の存在は危険を及ぼすと思われる。・・・ヴィレドル君、君は“漆黒の鷹”の存在をよく知っているはずだ。彼の撃破は彼と接触し、渡り合えることの出来た君の他にいないと判断している・・・」
ここまで、映像が進むと友子はスイッチを切った。そして、レッシュの顔を見る。
「隊長、“漆黒の鷹”が我々の対象です。・・・どうしますか?」
レッシュからは直ぐに返事が返ってくる。その目に迷いは無かった。
「わかった。タカは俺が倒す。・・・多分、俺にしか無理だ」
優美はまだ完全に納得していない顔をしている。それにレッシュは気づき、優美に小さく聞いた。
「優美、これからタカと戦うことになるけど・・・大丈夫か?」
「・・・わからないです」
優美はうつむいてぎゅっと拳を握り締める。これからするだろう相手は、嘗て一緒に居て言葉を交わし、笑いあったことのある人だ。そして、レッシュの親友であり戦友でもある。そんな相手に自分は銃を向けることが出来るかが不安だった。彼女が向けなくても彼は彼女だということは知らない。優美が躊躇えばその先に待っているのは、死だ。
「無理に出なくてもいい。優美は・・・」
「大丈夫!・・・少しでも力になりたいから。相手が翼さんだとしても」
レッシュの言葉を遮って優美は顔を上げて言った。言葉は震えていたが、目が真っ直ぐレッシュを見ている。その目を見てレッシュは笑う。優美は大丈夫だ。2人のやり取りを見ていた翔がゆっくりと口を開いた。
「“漆黒の鷹”の実力はどうだ?前とは違うのか?」
「ああ、“ブラック・バード”と相まってかなりの強敵だ」
「“ブラック・バード”・・・?なんか聞いたことある名前だな」
翔は首を傾げた。昔に聞いたことがあった。いまや伝説となりつつあった、最強の戦闘機部隊。確かその名前が“ブラック・バード”だったような・・・。
「タカが乗っていた戦闘機の名前だ。あのGは“ブラック・バード”を改造したものだろう」
「じゃあ、やっぱり、あの伝説の“ブラック・バード”なのか?」
翔は腕組みをやめて腰掛けていた机から立ち上がる。レッシュは静かに頷いた。
「そうだ。俺も“そこ”に居た。あいつは、“ブラック・バード”最後の作戦で消息を絶っていたんだ」
優美は全部知っているのだろう。静かにレッシュの話を聴いている。
「レッシュも居たのか!?・・・すげぇな」
「感心してる場合じゃないぞ?・・・ブラック・バードは恐らく最強クラスのGになっている」
「まあ、アレだけの戦果を上げればな」
腕を組んで翔は頷く。
「そいつを相手にするんだ。勝てるかどうかはお前たち次第だな」
レッシュは優美、翔、友子と見渡す。みんなのサポートがないと彼を倒すのは難しい。友子が頷き彼らに作戦の開始を告げる。
「それでは準備をお願いします。単純に言えば彼をここで待ちます。先ほど、“漆黒の鷹”の戦艦が北アメリカから大西洋に入ったという情報があります。待ちつつ、アフリカに向かうという手はずです。よろしいですか?」
「O.K!」
「はい!」
翔は先に格納庫へ向かい、レッシュと優美はパイロットスーツに着替え始めた。


「EVE、セットアップ」
「了解。システムオールグリーン、最適化開始。プロテクト解除・・・“シルバー・アロー”に変更点が見られます。モニターに表示します」
「わかった、出してくれ」
EVEのモニターに次々と情報が提示され、メインモニターに灯が点る。映し出されたのは格納庫の中、スピルスの背中が見える。通信用の小さなモニターに同じくセッティングしている優美と翔の顔が映し出されていた。繋ぎっぱなしの通信に気づいて優美が笑顔で小さく手を振ってきた。レッシュも笑顔でそれに答える。ふと見た通信用モニターには手を振る優美が映っている。それをみてセッティングしていた翔は苦笑した。
「っと、反応よし。・・・オイ、何遊んでるんだよ」
「え?・・・あのっ」
「冗談だよ」
慌てる優美を見て翔は笑う。優美は妙なところでどこか抜けていると思う。それもまた彼女の魅力なのだろうか。翔はモニターの横に女性の写真を貼り付けた。翔の横で緊張してぎこちなく笑っているのは貴子だった。
「・・・セット完了。無事に帰ってくるよ」
翔はその写真に話しかける。答えが帰ってくるはずは無いが、その写真があると無いでは全然違う。小さな心の支えだ。
「優美」
「は、はい」
突然レッシュから翔に聞こえない回線での通信が入ってくる。セッティングしながらだったので、ちょっと優美はビックリした。
「優美・・・ごめんな」
「え?」
「ホントは辛いだろ?タカと戦うのは」
レッシュにはわかっていたようだ。優美は完全に心に決めたわけではなかった。だが、彼の言葉で迷いは無くなった。
「ありがとう。・・・でも、私は相手が誰でも、レッシュと居たいの」
「・・・頼りにしてるよ」
「うん・・・」
優美はゆっくりとうつむいて、気持ちを鎮めるように目を閉じた。これから戦うであろう相手は、今まで戦った相手より誰よりも強いはずだ。そして、辛い戦いになるだろう。


「未確認の艦影を確認!・・・反応は輸送機ですが、どうしますか?」
「よし、2人を出して様子を見てくれ」
ブリッツェンはオペレーターに顎をさすりながら指示を出した。輸送艦の方はまだこちらを把握してないようだ。当然といえば当然なのだが、念のためだ。世界政府軍の輸送艦なら撃墜といかないまでも追い返すことぐらいは出来る。食料や怪我人を運んでいては撃墜することは出来ない。反政府軍のルールでそう決められていた。
「鷹山機、ハイオルス機、発進スタンバイ」
「何だ!?敵か?」
翼からいつものような反応が返ってくる。オペレーターの青年は輸送艦偵察の旨を伝えた。渋々ながらも彼は了解してくれた。
「まあ、とりあえず出るか。ヴィラ!そっちはいけるか?」
「ええ、大丈夫よ!」
「それではハイオルス機カタパルトに移動してください」
ヴィラの黒いシャイニングがカタパルトにセットされる。ハッチが開き視界には青い海が飛び込んできた。
「シャイニング行くわよ!」
機体が一気に加速し、空と海しか見えない世界に飛び立っていった。続いてカタパルトに漆黒のGがセットされる。
「鷹山だ。ブラック・バード出るぜ」
同じように加速した機体が飛び出す。すぐさま戦闘機へと形を変え更に加速していった。


「レーダーに機影!機数2。・・・戦闘機とシャイニングです」
友子が接近を告げる。それを聞いた瞬間、レッシュは確信する。“漆黒の鷹”だと。“その時”は直ぐにやってきた。
「タカだ。間違いない。友子、ハッチを開けてくれ」
「分かりました。順次出撃してください」
友子が合図を出すと亜希が頷いてハッチを開いた。次に亜実が何かを見つけた。
「ねぇ、あれって何?戦艦?」
「え?」
亜実が指差したモニターに何かが映っていた。レーダーには接近する2機の機影しか映していない。だが、それはそこに居る。
「Gが居れば何処に母艦は居るはずです。きっと彼らの母艦でしょう」
貴子が冷静に判断を下した。直ぐに友子に指示を出す。
「翔さんに戦艦を牽制させてください」
「織地機、戦艦の牽制に向かってください」
「場所は?」
「今送ります」
亜実が見つけた映像を処理し、レーダーに重ねる。貴子はその作業をすぐさまやってのけた。その手際のよさに亜希は感心する。翔は真琴に通信をかけた。といっても外部スピーカーで叫んだといったほうが近い。
「拠点攻略装備を頼む」
「了解!右の2番の箱開けるわ!バズーカ持って」
スピルス右側に「2」と書かれた大型のボックスがスライドしてくる。自動で開いたその箱の中には、弾数を強化したバズーカが取り付けてあった。翔はスピルスの腰にマシンガンを取り付け、バズーカのマガジンを取り出す。そしてそれを肩のアタッチメントに取り付けた。そして、大型のバズーカをスピルスが構える。
「っしゃ、完了!・・・スピルス出るぜ!」
スピルスがハッチから海に降下する。すぐ下が海の為、海面を蹴るような形で機体が凄まじいスピードで加速して行った。波しぶきを上げ、高速飛行体勢を取った。
「隊長!・・・お気をつけて」
「わかってるよ、優美、先に出るぞ?」
「はい!」
「レッシュ、レッド・バード発進する」
レッシュが格納庫ギリギリまで機体を寄せる。そして、格納庫を蹴って海に躍り出た。レイザーが若干その反動で沈む。赤いGは戦闘機へと姿を変え、加速していく。優美が出ようとしたとき友子がそれを止めた。
「優美ちゃん」
「はい」
「隊長をお願いします」
「・・・はい!」
優美は小さく頷いてモニター越しの友子を見た。友子も頷いて小さく笑う。優美は青い世界を見た。“赤い鳥”が見える。以前のグロリアス・スーパーに比べ、ウィング・グロリアスは視界が広い。高速戦闘用にカメラも調整してある。以前の機体のデータを上書きしし、適応能力を高めてある。反応係数もグロリアスより上だ。
「優美、ウィング・グロリアス行きます!!」

真っ白の機体に純白の翼。
彼女の新しい力。
彼を護る力でありたいと彼女は願う。





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