waiting for the changes

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25話:揺れる思い


「・・・レッシュか」
「え!?・・・じゃあ、アイツがニーバルを!!」
翼の言葉を聞いてヴィラはそのGを睨みつける。輸送艦から3機のGが現れた。灰色の1機はとんでもなく速い。真っ直ぐにこっちに突っ込んでくる。
「・・・速いわ!!」
「行くぞ!!」
翼たちが機体を加速させようとした瞬間だった。灰色のGは少しだけ機体をずらした。直後、強烈な光の流動が迫る。エネルギー兵器だ。
「避けろ!!」
翼の声に反応してヴィラと翼は機体を離した。その間を光が駆け抜けた。そして、灰色の機体が2機の合間を凄まじいスピードですり抜けていく。
「ヤバい!!艦が!」
「こっちもヤバいわよ!」
赤い戦闘機から強力なビームの光が連続発射される。翼たちはこの機を相手にするしか他にはないようだ。


「優美!・・・俺がタカを」
「はい!シャイニングは任せてください!」
レッド・バードは真っ直ぐブラック・バード向かう。エネルギー弾を回避しながらリニアライフルで応戦してくる。前とは少し形状が違う。武装も強化されているようだ。
「レッシュか!」
「タカ!ここで戦うことになるとはな!」
赤と黒の戦闘機がほぼ同時に変形し人型へと姿を変えた。高速のまま2機はすれ違った。翼は直感で感じ取る。レッシュの動きが違う。この前のようにはいかない、と。優美もヴィラのシャイニングに一気に詰め寄る。ウィングはライフルを放ちながら、シャイニングとウィングも高速ですれ違う。そのライフルもまたエネルギー兵器だった。
「新型!?・・・速いわ」
優美は真新しい機体を躍らせるように回転させた。機体はブレることなく、綺麗な弧を描いて黒いシャイニングの背後を取った。シャイニングのコクピットに赤い光が灯る。ロックされた。
「嘘っ?何なの!?」
「そこっ!」
優美はトリガーを引く。と同時に白い翼を持った機体も引き金を引いた。ヴィラは思い切って機体を急速降下させた。シャイニングの頭部をエネルギー弾が掠める。ヴィラのコクピットの凄まじいGが掛かった。ヴィラは歯を食いしばってそれに耐える。シャイニングは基本的に地上などで活動する機体だ。完全に空中仕様と思われる白い機体とは分が悪い。相手が、切り返しが上なら、直線的な動きで勝負するしかない。だが、全てにおいて白いGはシャイニングより上だった。
「振り切れない!!」
白いGから放たれるエネルギー弾を必死で回避しながらシャイニングは水しぶきを上げて、水面スレスレを飛ぶ。水柱を裂いて白いGがすぐ背後に迫った。打つ手が無い。接近戦が得意な機体で近寄れないのは致命的だ。それに、シャイニングは背中のフライング・アタッチメントが飛んでいる形だが、白い翼のGはフライング・アタッチメントそのものが埋め込まれ、“飛ぶための機体”に仕上げられているようだ。このままでは、ヴィラの背中に冷や汗が流れる。機体もそうだが、白い翼のGはかなり腕のたつパイロットが乗っているようだ。ロック警告の警告音が早まる。その時だった。凄まじい爆発と水しぶきがあがる。それに遮られて白い翼のGとシャイニングが引き離された。それはブラック・バードから放たれたミサイルだった。
「翼君!」
「余裕だな、タカ!!」
「くそっ!・・・レッシュ!」
「レッシュ!」
2機の赤と黒の戦闘機が空で絡み合う。翼はヴィラのピンチに優美のウィング・グロリアスに対してミサイルを放った。直撃しなかったものの、結果、ヴィラを助けたことになった。だが、一瞬でも攻撃対象をレッド・バードのレッシュを外したことが致命的な結果を招く。相手は“エデン・チルドレン”だ。戦闘機形態のレッド・バードの“シルバー・アロー”がブラック・バードを捉えた。
「タカァァ!!!」
「がぁっ!!」
翼は機体をとっさに人型に変形させた。変形のスピードとレッド・バードとの距離、直撃のタイミングが全て重なった。“シルバー・アロー”から放たれた光はブラック・バードのリニアライフルを捉えた。ギリギリで回避したが、長いライフルまでは取り回しが利かなかった。反動で吹き飛ばされる。そこに追い討ちを掛ける様にミサイルとエネルギー弾が降り注ぐ。降下しながら、翼はブラック・バードをもう一度戦闘機に変形させそれらを海面まで引き付けた。ミサイルは海面に当たって水柱を上げ、エネルギー弾の高熱が一瞬、海の姿を変化させた。
「・・・さすがだな、タカ!」
「レッシュ!!・・・強ぇ」
翼の脳裏にはこの前のことがよぎる。同じ赤い機体。“無限”と呼ばれたそれは凄まじい戦闘能力を誇る機体だった。翼が、全く手が出なかったのは初めてのことだった。そして、今、赤い戦闘機が背後に迫る。その時と同じような感覚を翼は覚えた。ロック警告が鳴りっ放しだ。赤い光がコクピットを染める。
「レッシュ!!」
翼はギリッと歯をかみ締めた。レッド・バードのコクピットの中、レッシュは冷静にブラック・バードの後姿を見ていた。EVEから流れ込む情報に反応し、最適の道を取っている形だ。
「タカ・・・俺は死ぬわけには行かない」
レッシュの小さな呟きを聞いたのはEVEだけだった。


「G接近!!・・・スピードが!」
「スピードがどうした?」
「信じられないスピードで接近してきます・・・データ照合・・・ありません」
オペレーターが驚愕の声を上げる。レーダーで追うのがやっとのスピード。Gでは考えられない速さだった。ブリッツェンがブリッジメンバーに指示を出した。
「迎撃システム起動。艦を対G戦闘レベルへと移行せよ!」
「了解!!」
見えた。薄い灰色の戦艦が見える。かなり大きい。世界政府軍でよく見かける型で“ロッド・シリーズ”のどれかだろう。大きさから“ギア・ロッド”と呼ばれる最上級艦だろう。ちなみにレッシュたちの輸送艦は“レイ・シリーズ”で“レイター”と“レイザー”以外は戦艦だ。翔はその姿を見て舌打ちする。
「ギア・ロッドか・・・厄介だな」
一つ疑問に思うことがあった。なぜ、世界政府軍の戦艦がここに居るのか。レッシュの話では“漆黒の鷹”は反政府軍のパイロットのはずだ。そんなことを考えているとミサイルとリニア実弾がスピルスを掠めた。
「・・・とりあえず、コイツを黙らせるのが先だな」
翔のスピルスからバズーカが放たれ、向かって左側のリニア弾発射装置に直撃した。


白い翼のGを引き離すと、ヴィラはレッド・バードに迫った。翼が“引っ張って”いるため、行動はある程度予想はつく。そこに、ヴィラはシャイニングを突撃させた。EVEがダイレクトにレッシュに情報を送る。
「上です!!」
「来たか!」
「行けえぇ!!」
その行動を予想していたかの様にぐるりと向きを換え、レッシュは人型へと変形させた。海面と平行になって、空を見上げる。“シルバー・アロー”の射線上にヴィラのシャイニングを捉えた。ヴィラの背中が凍りつく。シャイニングの左手のバスターナックルが光っていた。重力とスラスターによる加速。通常より遥かに早スピードで動くことが出来た。だが、その反面、反撃の体勢を取られてしまえば、終わりだ。その判断を一瞬にしてレッド・バードは行った。それにこの滑らかな動き。色と相まってヴィラにもこの前の“無限”の影がよぎる。
「そんな!」
「ヴィラ!!くそっ!」
翼が切り返して、ミサイルを放った。レッド・バードがそれを回避するためにもう一度戦闘機に変形した。加速した機体の後ろで水柱が上がる。ヴィラのシャイニングが水面スレスレで方向を換え、また上昇を始めた。その時、ロック警告と同時に翼の機体に衝撃が走る。機体情報を示すモニターには左肩に損傷が見られる。翼は機体を人型に変形させ、その方向に向き直った。太陽で白い翼が輝く。そのGもまた、レッド・バードと同じようにエネルギー兵器を連射してくる。だが、威力は通常ライフルより若干高いぐらいでとどまっているようだ。赤いGの威力から比べると、非常に小さい。翼が2本のブレードを展開し、白い翼のGを迎撃する。
「コイツ!!」
「優美!!」
「何!?」
翼は懐かしい名前を聞いた。嘗て、友と一緒に居た少女の名前。その少女はちょっと泣き虫で可愛らしい感じで、Gパイロットを目指している子だった。白い翼のGも銃を腰に構え、ブレードを抜いた。シールドとブレードでブラック・バードと対峙する。光が流動し、光が飛び散る。
「・・・そうか。お前は優美か」
「え・・・」
突如開いた通信に優美は固まった。
抑えているつもりだった。
ブラック・バードは敵、そう自分に言い聞かせていた。
だが、その声を聞いた瞬間、全てが崩れる。
それ以上踏み込めない。
手が震え、少しだけ、ジワリと視界が歪む。
心優しい彼女には自分は討てない。
翼は確信した。翼は目を閉じ、一呼吸置いて目を開く。


翼は前から優美に聞きたいことがあった。レッシュと優美の3人で、食堂で食事しながら優美の顔を見る。
「なあ、優美」
「あ、はい?」
優美はから揚げを口に持っていこうとしてポロリと落とした。赤くなって慌てる優美を見てレッシュと翼で2人して笑った。
「笑わないでくださいよ!翼さんがいきなり話しかけるからですよ!」
「んだよ!?俺のせいかよ!」
ちょっと膨れる優美に翼が言い返した。小さく笑いながら優美は翼の問いかけをもう一度聞きなおした。
「聞きたいことって何ですか?」
翼は真面目な顔で真っ直ぐ優美を見た。その態度に優美も姿勢を正す。
「何で優美は、傭兵に・・・Gパイロットになろうと思ってんだ?」
「え・・・?」
優美は今まで答えて来たように「親の夢なんです」と答えた。だが、翼から返ってきた言葉は今まで言われたことがない言葉だった。
「優し過ぎんだよ、優美は」
「え?」
「例えば親しいヤツが敵になったとき、優美はそいつを討てるのか?」
翼の問いかけに優美は返答に困った。考えたことも無かった。もしそんな状況に遭遇したとき、私は引き金を引けるのだろうか。そう考えると膝の上の手が震える。
「優しいのは悪いこととは言わねぇよ。だがな、それも命取りになるってことを覚えといた方がいいぜ。・・・時には非情になることも傭兵になれば必要となるからな」
優美は完全に黙ってしまった。2人のやり取りが一頻りすると、レッシュが口を開いた。
「じゃあ、そういう傭兵になればいいだろ?」
「はぁ?」
翼はその言葉の意味が直ぐには分からなかった。レッシュは続ける。
「優しい傭兵でいいだろ?・・・“弱きを助け強きを挫きながら相手は殺さない”てな」
語呂の悪すぎる言葉に翼は苦笑いを浮かべた。
「なんだそりゃ?・・・まあ、お前らしいな。でも・・・そんなの聞いたこともねぇ傭兵だぞ?」
「聞いたことあるわけ無いだろ?・・・これから優美がなるんだからな。な、優美?」
「先輩・・・」
優美に笑顔が戻る。翼はレッシュと笑う優美の顔を見た。心優しい彼女はこんな場所に居るべきではないと翼は思うことがあった。だが、彼女はどこか他の人とは違う雰囲気を持っている。今まで翼が心を許した数少ない人物だった。
そして、翼が言った状況が現実となる。
優美はやはり討てなかった。
彼女の優しさにつけこんだと翼の心の中で締め付けられるような動きがあったが、ここは戦場だ。
時には非情になることも必要となる。


「悪ぃけど・・・ここまでだ!」
「あぁ・・・」
ブラック・バードがウィング・グロリアスのブレードを弾きあげた。そして、ブレードが白い機体のコクピットを貫こうとした瞬間だった。刹那、その右腕が吹き飛ぶ。吹き飛んだのは一瞬で翼にもよく分からなかった。白い翼のGを貫いたはずの腕がそこには無く、対象の白い翼を持ったGは目の前で滞空している。そして、右横にはいつの間にか赤いGが居た。そして、ブレードを振り払い、“峰”で海面に叩きつける。
「優美!!」
レッシュの声に現実に引き戻された優美は水しぶきの中に居た。優美は目を見開く。今までブラック・バードが居た場所には、赤いGが居る。それを見て優美は安堵で小さく笑った。
「レッシュ・・・」
レッシュは自分でも信じられなかった。今までの感覚とは違う。一瞬だが全てがスローモーションに見えた。次の翼の動き、そして、後ろのシャイニングの動きも手に取るように分かる。G指先まで自らの意思が伝わるようだった。EVEのデータが流れ込むのではなく、今までそこにあったかのような感覚に変わった。教えられた情報ではない。知っていた情報のように感じた。一瞬の出来事だったが、レッシュにはこれが、初めて自分の力に気づいたころの感覚に似ていると感じた。
「今のは・・・」


ヴィラはその全てを見ていた。あの白い翼のGも相当だが、問題はあの赤いGの方だ。白い翼のGの動きが一瞬鈍り、ブレードをブラック・バードが弾きあげた瞬間、赤いGが急加速した。その姿は戦闘機でもない、人型でもない姿だった。スラスターを全て開き、機体の限界を超えるスピードでブラック・バードに迫った。一瞬にしてブレードを背中から引き抜き、更に回転攻撃からブラック・バードを弾き飛ばす。人間臭い動きを遥かに超えた、Gをも超越した動きだった。化け物と言う表現が一番あっている。
「な・・・なんなの?アイツ・・・」
これからあんなやつを相手にしなければならないのか。そしてあいつを自分は憎んでいる。自分の実力では彼に勝つ可能性は無い。ヴィラは生まれて初めて戦場から逃げ出したいと言う気持ちに駆られた。


「くそっ・・・何だあの動きは」
海面が揺らめき光る。機体をチェックすると若干のダメージがあるが、問題は無い。まだ戦える。優美が乗るGが危機になった瞬間、レッシュの動きが劇的に変わった。確かに今まででもレッシュは強い。だが、あの動きは強いと言う次元を超えている。まさに、あの“無限”のレベルだった。一瞬だとは言え、彼に秘められた戦闘能力に恐怖すら覚えた。
「やっぱ、レッシュを消さなねぇといけねぇのか・・・」
あの力は危険だ。そう、反政府組織の幹部は言う。確かに翼はそう思う。だが、それが世界を滅ぼすほどの力なのか。レッシュが発揮した力は純粋に“誰かを護りたい力”だった。翼には分かる。完全に破壊する気なら、ブレードの“峰”で弾き飛ばすはずは無い。逆に嘗ての友に平気で銃を向ける自分の方が危険な存在なのではないのか。翼には分からなくなってきた。だが、今の翼には余裕が無い。目の前に立ちはだかるモノは、全て敵だ。それらを排除する。今の翼の存在理由だった。
「レッシュ!!」
海中から飛び上がったブラック・バードが硬直する。翼の目に映ったのは無数の白いGたちだった。そして、3機のGはそれらと戦っている。
「お前ら!!!」
翼はブレードを輝かせ、その中へと飛び込んでいった。


「迎撃追いつきません!!」
「迎撃システム40%ダウン!危険です」
「何者なのだ・・・あのGは」
ブリッツェンはモニターを睨む。直線的に飛ぶものを迎撃することは造作も無い、はずだった。それは直線的ながら信じられないスピードで飛行する。完全な直線ではない。少しずつ機体をずらしているのか、攻撃が当たりそうで当たらなかった。逆に翔の方も決め手に欠けていた。基本的にスピルスは火力が弱い。ヒットアンドアウェイが得意の機体では戦艦を沈めるのは容易ではないからだ。近づけば、迎撃の雨に晒される。バズーカも弾が尽きた。後はマシンガンだけだが、これではどうしようもない。
「どうする!?」
その時、ギア・ロッドのブリッジが騒がしくなった。“ゲート”の反応が起き25機近いGが現れた。翼たちが戦っているエリアだった。
「通信が届きません!!」
「こちらからはどうすることも出来ないのか!?」
ブリッツェンはアームレストを殴りつける。今はたった1機のGに翻弄されるしかなかった。


「優美!!」
優美の背後に迫った白いGを“シルバー・アロー”が貫く。レッシュは立て続けに5機の白いGを撃墜した。優美は思わず感嘆の声を漏らす。
「凄い・・・」
その時、黒いシャイニングを3機の白いGが取り囲んだ。ヴィラは一気に血の気が引く。死ぬ、そう思った瞬間だった。3機の白いGがほぼ同時に破壊され残骸に変わる。ヴィラの目に映ったのは、赤いGと、白い翼のGがさっきの銃を構えていた。その銃は銃身を開いた状態で構えていた。上下に展開している銃身から光が漏れている。そして、2つに分解された白いGの向こうには右手の無いブラック・バードが居る。
「翼君!」
「ヴィラ!大丈夫か!?」
「・・・ええ」
「お前は下がって、艦の援護をしろ!」
翼は白いGたちに向き直って言い放った。ヴィラの返答を聞く前に翼はレッシュに叫ぶ。
「どういうつもりだ!?レッシュ!!」
「俺もあいつらに用がある」
「俺の邪魔はするんじゃねぇ!!」
レッシュは冷静に返して来る。2機のGは違う方向に飛び去り、白いGたちに対峙する。ヴィラは納得できない。ヴィラは翼を援護しようと機体を進める。だが、翼のブレードで遮られた。
「翼君!こいつらはどうするの!?」
「いいから、退け!・・・お前には無理だ」
「でもッ!!」
「行け!!!」
翼の強い言葉にヴィラはビクッとした。声だけで翼がどんな顔をしているのかが、分かった。ヴィラは艦の方に戻る決意をした。
「翼君!!」
「早く行け!!」
「・・・お願い。死なないで。絶対に帰ってきて」
「・・・当たり前だろ」
その言葉を聞いて、ヴィラは振り返ることなく機体を加速させた。見てしまうと助けたくなってしまう。通信を切って、スラスターを全開にしてギア・ロッドを目指した。
「お願い・・・」
ヴィラは小さく、そして強く願った。





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