「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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53話:シルバリアス
案内された地下施設には広い空間が広がっていた。薄暗くて正確な広さが良く分からない。だが、その中心に何かがあるようだ。ひんやりとした空気が辺りを包む。エリーゼはリモコンでスイッチを入れると地下空間を光が照らした。優美は目の前に現れた白いGに驚いた。そのGはマントのような縦のようなものに覆われていた。
「G!?」
「ええ・・・そうよ。“エデン・チルドレン”の“A”専用に開発したGよ」
エリーゼはGを見上げる優美の横に歩み寄った。一緒にそのGを見上げた。優美はエリーゼの顔を見る。
「“A”って・・・」
驚く優美にエリーゼは眼鏡を直すと白衣のポケットに手を突っ込んだ。白いGに背を向けるとそのGの名前を告げた。
「“シルバリアス”・・・それがこのGの名前よ」
「シルバリ・・・アス」
そう言うとエリーゼは優美をコクピット向かっていくゴンドラに呼んだ。ゴンドラに乗って、上がって途中で優美の顔を見た。
「私の父はルス・トヨタ。“ルス・シリーズ”開発責任者よ。・・・私は父を超えたかった。だからこのGを作ったの」
コクピットについたゴンドラから優美にコクピットに座るようにエリーゼは言った。
「そこに座って」
「え・・・はい」
戸惑いながらも優美はシートに座った。シートが少し大きく感じる。通常のGより外部モニターの数が多い。そして、このGが他のGと違うところは操縦桿が無く、ちょうど手を載せることができるくらいの円がそこにあるだけだった。しかも、フットペダルもない。
「スティックが・・・無い」
エリーゼはシートに座ったワンピース姿の優美をじっと見た。優美と目線があう。優美は見つめられて少し赤くなった。
「な・・・何ですか?」
「やっぱりね」
エリーゼは身を乗り出してモニターや計器がある場所にもたれ掛かった。そしてにっこりと笑う。
「あなたにこのシルバリアスをあげるわ」
その言葉を優美は予想できたが、驚かずには居られなかった。
「どうしてですか!?」
「どうしてって・・・あなた不思議なこと聞くのね」
眼鏡を外して白衣の裾で拭きながらエリーゼは苦笑いをした。優美は首を傾げた。
「あなた“守る力が欲しい”って言ったじゃない?・・・だから、私がその力をあげるわ」
「でも!エリーゼさんは・・・“力”は私の中にあるって・・・」
優美はエリーゼに言われたことを思い出した。エリーゼは眼鏡を掛けなおすと、真っ直ぐ優美を見つめた。優美は息を呑んだ。
「でも・・・彼を守るためには必要な力なんでしょ?・・・私はあなたの力になりたい。それに・・・」
エリーゼは優美に背を向けるとコクピット横の装甲にもたれ掛かった。少し高い位置を見上げながら小さく言った。
「このGはね。・・・殺戮、破壊、殲滅のためのGなの。ただ、それだけのためにちょっとした艦隊をも上回る火力と機動力・・・防御力を持たせた。・・・もしかしたら戦局すら変えるかもしれないわ」
「え・・・?」
エリーゼは今度は俯きながら続けた。
「私は自分が作ってしまったものに絶望したわ。こんなものを作るはずじゃなかった・・・。私はただ、父に逆らいたいがためだけに、このGを作ったの。このGで“A”は破壊の限りをし尽くすわ。だから・・・私はこのGの破壊を決めた。・・・そして私も共にここで死のうと決めてたの」
そこまで言うとエリーゼは優美に向き直った。
「あなたならこのシルバリアスを託せる。優美ならこの“力”を誤った方向に使わない」
「え・・・でも、私は」
戸惑う優美にエリーゼはふっと笑った。優美は俯いたあと顔を上げてエリーゼに聞いた。
「でも、このGは“エデン・チルドレン”専用なんでしょ?・・・私には無理です!私は・・・」
「いいえ、“彼ら”専用ではないわ。能力があれば誰でも動かせる」
「能力・・・?」
優美は首を傾げた。エリーゼは優美の目を見つめながら続ける。
「あなたにはそれがあるわ。・・・あなたはまだ自覚が無いけど、今までも何度かあったはず」
「・・・あ」
優美は口を押さえて驚いた。そう、“乱れ桜”と戦った時、自分でも信じられないほどの反応速度で機体を動かした。が、あの動きは通常プログラムされていない。とっさに自分でとった“行動”だった。前にもそんなことがあったことを優美は思い出した。体が震える。自分はどうしたのだろう。
「私は・・・」
「それを“イクシーダー”と呼ぶのよ。“エデン・チルドレン”とは違うわ。怖がらなくてもいいのよ」
自分の体を押さえて震え始めた優美の頭をそっとエリーゼは撫でた。優しい声でそっと優美に語りかける。
「“イクシーダー”は私から言わせれば“超能力者”よ。その力はみんなの中に眠っている。それが発現したのが“イクシーダー”なのよ」
「え?みんなに・・・?」
ゆっくりと顔を上げた優美の目には涙が溜まっていた。エリーゼは身を乗り出して優美の目の涙を手で拭った。
「“イクシーダー”はね、特殊な条件下に置いて発現するの」
「・・・?」
エリーゼはシートとコントロール装置の狭い隙間に腰掛けると優美の髪を撫でながら言った。
「“イクシーダー”の発現条件は・・・他の“イクシーダー”との接触、仮死の体験・・・それに強く思う意思・・・眠っている力を呼び覚ます要因は他にもあるわ」
じっと見つめてくる優美にエリーゼはまたふっと笑う。
「私の推測だけど・・・あなたの大切な彼って、レッシュだっけ?・・・“エデン・チルドレン”なんでしょ?」
「ど、どうして?」
目を見開いて驚く優美の分かりやすい反応にエリーゼは声を出して笑った。
「あなた分かりやすい子ね。・・・大丈夫よ。愛の形に相手が誰だろうと関係ないもんね」
その言葉に今度は優美が赤くなった。
「あ・・・でも・・・レッシュは・・・」
「ごめんなさい・・・話を戻すわね」
エリーゼは優美の頬を撫でると続きを話し始めた。
「そう・・・だから、あなたは“イクシーダー”としての力があるわ。・・・この機体も動かせる」
「あの・・・私にはそんな力が」
「あるのよ。・・・私には分かる」
やはり戸惑いを見せる優美にエリーゼは眼鏡を外して目を閉じ、そして開いた。
「・・・その目!!」
「そうよ。私も“イクシーダー”なの。あなたには強い“力”が眠っているわ」
エリーゼのその瞳は深い緑色をしていた。
「この辺ね」
桜は機体を止めると辺りを見回した。そこは市街地ですでに放棄されている。そして“あの場所”に酷似していた。彼を失った場所。リーダーからの通信は届く。
「本当にいいのか?」
「ええ、ありがとう。後は私1人で大丈夫よ・・・わがままを聞いてくれて感謝してるわ」
桜が笑って言うと、リーダーも同じように笑った。
「気にするな、って・・・何度目だ、オイ?」
「さぁ・・・4回目じゃない?」
「知るか」
そう言うとリーダーからの通信が一旦切れた。少し驚いた桜だったがすぐにまた繋がった。
「俺は行くけど・・・最後に言わせてくれ」
「・・・何?」
少しだけ間を置いてリーダーは言った。掠れる通信だったが、そこだけはクリアに響いた。
「死ぬなよ」
「・・・保障はできないわね」
「ふっ・・・じゃあな。・・・生きてたらどっかで会おうぜ」
その直後遠くでGのスラスターの音が響いた。桜は通信を切ってシートにもたれかかった。大きく息を吐いて天井のモニターを見上げる。
「・・・さよなら、リーダー」
そう言って桜はゆっくりと目を閉じた。
「どういうことだ!?タカが出て行っただと!?」
「あ・・・だから」
ウィルはレッシュに詰め寄られ、口ごもった。掴んでいた肩を振り払うと近くのオペレーターに翼に来たという通信のことを聞いた。
「場所はどこだ!?」
「え・・・」
「どこだ!?」
今までとまったく違う雰囲気のレッシュに驚きながらも、オペレーターは答えた。
「B133-K4です」
「俺も行く!・・・どう考えても罠だろ!?」
レッシュはパイロットスーツも着ずにレッド・バードに乗り込もうとした。そのレッシュを誰かが呼び止めた。
「レッシュ君!」
「・・・誰だ!?・・・ヴィラか」
そこには息を切らしたヴィラがいた。思いつめた表情でレッシュに頭を下げた。
「私も連れてって!!」
「な・・・」
少し考えたレッシュにヴィラは詰め寄りもう一度願った。
「お願い!・・・翼君が心配なの・・・」
その目を見てレッシュは頷いた。
「後ろに乗れ」
「・・・はい!」
そう言うと先にヴィラを乗せ、ウィルに向かって言った。
「艦長にはウィルから伝えてくれ!・・・ここはジャックさんが居れば大丈夫だろう・・・」
「あ・・・はい!」
レッシュはレッド・バードに乗り込み起動させた。ジェネレーターに火が灯り、スラスターが轟音を上げる。レッシュの後ろのサブシートではヴィラが祈っていた。
「翼君・・・無事でいて」
「レッド・バード・・・行って来る!」
レッシュはその深い緑色の目を開いた。
「でも・・・この機体は操作できない!」
「できるわ・・・重要なのはイメージよ。体を動かすイメージ」
エリーゼは優美の左手を取る円状の操作パネルに優美の手を乗せた。起動スイッチを入れると何かコードを打ち込んだ。するとモニターに“TEST-MODE”と表示された。
「頭の中でイメージして・・・。左手を動かすイメージ・・・手のひらを開くイメージ・・・。やってみて・・・」
「・・・はい」
優美はイメージした。
左手を開いてみる。が、シルバリアスは反応しなかった。
「ダメ・・・私には・・・」
「あなたならできるわ。・・・じゃあ、彼のことを思い浮かべて。彼を守りたい・・・そう思いながら動かしてみて」
エリーゼは諭すようにゆっくりと優美の耳元で囁いた。優美は目を閉じて思い浮かべた。
「・・・レッシュ」
すると、シルバリアスの左手が拳を作ってまた開いた。それを感じ取ってエリーゼは笑う。
「あはっ、できたじゃない!・・・やっぱ、愛の力は偉大ね」
「え!?・・・だから!」
また赤くなる優美にエリーゼが深い緑の目を細めた時、エリーゼが何かに反応した。突然辺りを見回す。
「!?」
「どうしたんですか!?」
様子が変わったエリーゼの顔を優美は覗き込んだ。エリーゼは驚いた表情で優美の顔を見た。
「何・・・この数・・・“エデン・チルドレン”・・・それにGがたくさん・・・」
「ここに向かってるんですか!?」
驚く優美にエリーゼは慌ててコクピットから飛び出た。振り返ると急いだ口調で言う。
「いきなりで悪いけど、ここにあいつらが来るわ・・・それに海の向こうで大量のGが居る・・・。あなたにはこの機体で出てもらうわ」
「そんな!私はまだ・・・」
顔を振って戸惑う優美にエリーゼは小さく笑う。
「大丈夫よ・・・私も一緒に行くから。・・・準備してくるから、あなたはそれまででいいから、感覚を掴んでて!・・・頼んだわよ!」
そう言うとエリーゼはゴンドラを降りて行った。その後姿を見て優美はオロオロしていたが、落ち着こうと思い大きく深呼吸をした。
「私が何とかしなきゃ・・・」
コクピットを見回してシートの調整ボタンを探した。探し当てた優美はそれを押しながらシートの前後左右を調整し、自分にぴったり来る位置に合わせた。もう一度息を吐いて優美はイメージする。彼を守りたい・・・そのためのイメージ。
「・・・レッシュ」
優美は薄い茶色の目をゆっくりと閉じた。
「あんな孤島にGがあるとはな」
「極秘なんですよね」
レーダーの隅に映る島を見て副操縦士は首を傾げた。機長も首を傾げる。
「分からん・・・後ろに乗ってる奴がテストパイロットなんだろ?」
2人の後ろに居た金髪のパイロットスーツ姿の男の胸には“A-021”と書かれていた。
大きなスーツケースとコンピューターを持ってきたエリーゼは一旦優美をコクピットから出した。シートを倒すとそこにはちょっとした空間が広がっている。そこにスーツケースを押し込むと自分もそこに入ってシートを倒した。シートの後ろからひょこっと顔を出して優美を呼び込んだ。
「乗って!」
「はいっ」
優美は乗り込むとハッチを閉めた。モニターのスイッチを入れると足元、横、正面とモニターが灯った。視界が広い。教えても無いのに手際よく起動準備をする優美にエリーゼは驚いた。そして、何かを思い出す。
「あ!・・・あなたのパイロットスーツ忘れた」
「大丈夫です・・・“忘れ物”はないですから」
優美は胸のペンダントと髪留めを触った。これさえあれば優美はよかった。そう言う優美にエリーゼは「そう」と頷いた。優美はさっき、機体のスペックを見て気づいたことがあった。気になる単語をいくつも見つけていた。
「あの・・・“FOUS”って何ですか?」
「そうね・・・それは言わなきゃダメよね・・・まず、完全に起動させるわ・・・ちょっと待って」
携帯用のコンピューターを開くとキーボードを弾いた。サブモニターも灯り、コントロール用の円状の部分も青白く光った。ジェネレーターに火が点る。そして、エリーゼはサブモニターに“FOUS”とキーボードを弾いて表示させた。
「“Feather Obit Ultimate System”・・・通称“FOUS”(フォース)よ。・・・特殊意思通信による機動飛行システム、及びオービット・システム。つまりイクシード能力で、オービットを動かすの」
「え!・・・そんなの・・・」
優美は思い出した。確か講義で聞いたことがある。オービット・システムは攻撃に防御に
有効な兵器、戦略として確立が期待されていた。だが、空間にオービットを構築するために複雑かつ高度なプログラムを必要とし、戦艦での運用も難しいとされていた。
「あなたの言いたいことは分かるわ。・・・でも、この“シルバリアス”にはそれがあるの。“サイキッカー”の能力さえあれば、このオービットを自由自在に動かせる・・・それに」
「それに・・・?」
エリーゼの言葉に優美は振り返った。エリーゼはコンピューターから顔を上げると優美の目を深い緑の目で見た。
「このGのオービットは“フェザー・オービット”・・・つまり、早い話飛行するのにも“力”が必要なの。それは私がサポートするわ。あなたの操作の意思やペダルの踏み込みから判断してすぐに変換するわ・・・でも、ひとつだけ覚えておいて」
「なんですか?」
首を傾げた優美にエリーゼは深い緑色の目を閉じた。
「私の“イクシード”は“限定的”なの。・・・“常時開放型”とは違うわ。リミットがあるから、それが来ると強制的に終了させられる。・・・その時間は約1時間」
そこまで言った時、今度は優美が反応した。
「レッシュ!?」
「どうしたの!?」
慌てる優美の様子を見てエリーゼは驚いた。
「レッシュが近くに居るんです!・・・行かないと!・・・私が無事だ、って伝えないと・・・」
優美は両手を青白く光る円状の部分に置いた。機体がゆっくりと左右にあったエネルギー・ライフルを持った。あまりにスムーズに動いたため、彼女がレッシュの存在に反応したこと、機体を操作したことでエリーゼはまた驚いた。
「すごい・・・もう、こんなに・・・」
優美は機体を動かすことに全神経を集中させた。その目は真っ直ぐ前を見ている。エリーゼははっとして“FOUS”の説明を続けた。
「このオービットの操作は私が何とかするから・・・他の操作に集中して!」
「はい!」
頷いて優美ははっきりと返事を返した。エリーゼは最後のロックを解除した。その地下施設の屋根が開いた。縦に真っ直ぐGが通れる通路が上に続いている。
優美はイメージを描いた。
「シルバリアス行きます!」
静かにその純白のGは大きな翼を広げて空へと飛び出して行った。
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