「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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62話:銃口、怒りの先
そう言って桜は息を飲んでベッドに上がって後ずさった。確か未使用の部屋のはずだ。優美は毛布に包まって真っ直ぐ見つめていた。
「私は・・・レッシュに連れられて・・・」
優美は驚いていたが、桜の質問に素直に答えた。“レッシュ”と言う単語に桜は固まる。そして、翼が言っていたことを思い出した。優美が“ハッキング”されたということを。
「あなた・・・体は平気なの?」
桜の言葉に優美は驚いた表情を見せたが、小さく笑った。
「はい・・・大丈夫です。・・・まだ、ちょっとヘンな感じだけど」
「・・・そう」
桜は俯いた。とりあえずは安心した。と、自分が彼女とこんな他愛もない会話をしたかった訳ではない。彼のことが聞きたい。目をぎゅっとつぶって開いた。
「レッシュのことなんだけど・・・」
「レッシュの?」
優美は膝を抱えて首を傾げる。桜は自分の声が震えていることに気づいた。
「あの・・・私は・・・私の死んだ夫はレッシュそっくりなの」
桜の言葉を優美は静かに聞いていた。
「だから・・・聞きたいの。レッシュってどんな人?」
「どんなって・・・優しくて、強い人」
優美は微笑んだ。その笑みが桜の胸をちくりと刺す。彼と彼女の関係はずっとうまくいっていることを証明していた。そして優美がレッシュの見た目ではなく、内面のことを言ったことにはっとした。
「あなたは・・・やっぱりね」
「え?」
「私はレッシュの見た目で追いかけ続けた。レッシュは“彼”じゃないのはわかってた!・・・分かってたけど・・・もうこの世には居ないと思ってた、世界で一番大切な人が目の前に現われたから・・・もう、止められらなかった」
桜の目から涙が零れ落ちた。桜の様子を見て優美も悲しげな表情を浮かべた。大切なものを失うことがどれほど辛いことか、優美は分からない。3年前、翼が居なくなった時、優美は悲しんだ。きっと、その悲しみなど比べ物にならないほど、彼女のものは大きいはずだ。優美の目から涙がこぼれた。
「桜・・・さん」
「な・・・私の名前言ってないのに」
「え?」
優美ははっとした。直接確かに聞いた覚えはない。だが、優美には桜の名前が分かった。なんとなく、なんとなくだが初めから知っているようだった。
「あなた・・・“イクシーダー”なんでしょ?」
「・・・うん」
優美はこくりと頷いた。桜は視線を落とした。きっとその力で分かってしまうのだろう。桜は涙を流しながら小さく笑った。
「あなたは“彼”の内面に惹かれた。私はただに似てるだけで・・・彼はレッシュで・・・“彼”じゃない。・・・でも、でもね・・・私は・・・!」
そう言うと桜は俯いた。
鉄の扉の前にクルスが息を切らして立った。横にはさっきの兵士が引っ張られてきていた。
「ホントにここなの!?」
「あ・・・はい」
曖昧な返事をする兵士にクルスは苛立った。確かここは優美がいる部屋だ。この間抜けな兵士があの女と優美を間違えたことも考えられる。兵士は小さな声で言う。
「もう行っていいっスか?」
「もういいわよ!・・・ったく」
そそくさと逃げる後姿を見て、クルスはいーっと歯を出した。
そして、その鉄の扉をあけた。
突然開いた扉に桜と優美は眩しそうな表情をした。
「く、クルス!?」
クルスは優美が居たことに驚いたが桜を睨みつけ、彼女に殴りかかった。
「お前が乱れ桜か!!?」
「な、何!?」
殴りかかったクルスと桜の間に優美が割って入った。クルスは気づいたが、すでに遅くの拳が優美の頬を掠めた。
「やめてっ!」
「優美っち・・・悪いけど、どいて!」
桜は憎悪の篭った形相で睨みつけてくる少女を見た。驚いたのは優美が自分を庇ったということだった。
「コイツは亜実と亜希を殺したのよ!!」
「・・・あなた」
桜は思い出した。あの時、優美の白いウィング・グロリアスで来た少女だった。桜は言葉を発することが出来なかった。優美は桜の前で両手を広げている。クルスは優美に向かって叫んだ。
「どいてっ!!」
「ダメっ!!」
優美は首を振った。クルスはもう一度言う。
「どいて!」
「ダメよ!」
優美はまた首を横に振った。
「そいつは亜実と亜希を殺したのよ!?何でそんな奴庇うのよ!?」
そして、クルスは腰のホルスターから拳銃を抜いた。引き金を引いて、それを突き付け優美に向かって叫んだ。優美ははっとする。
「優美っちどいて!そいつは亜実と亜希を・・・私は許せない!!」
「イヤ!やめて!お願いだから・・・」
優美は涙を溜めてクルスに訴え掛けた。その声を聞いてヴィラが駆け付けて来てその状況を見て驚いた。
「クルス!?」
「来ないで!!」
桜は優美の後ろ姿を見つめながら思い詰めた表情を浮かべる。小さな声で優美の背中に言った。
「何で・・・」
「何でって・・・誰も傷ついて欲しくないから」
はっきりとそう言った優美にクルスが言った。優美の考えがこのときだけは憎らしく感じた。
「私はソイツが許せないのよ!亜実と亜希を殺したのよ!・・・あんなに仲がよかった2人を!」
クルスは怒りのこもった涙声で叫んだ。優美は真っ直ぐクルスの目を見てはっきりと言った。
「憎しみは何も生まない。復讐が復讐を呼んで無限の連鎖が続いていったら・・・全部めちゃくちゃになっちゃう!・・・どっかで断ち切らなきゃ・・・」
その言葉を聞いてクルスは言葉に詰まった。そして、桜ははっとした。それは自分に言われているようだった。誰かの命を奪うことが憎しみや復讐心を生み、それがどんどん膨らんで行く。桜は下唇を噛んで俯いた。クルスの銃を持つ手が震える。クルスは自分の感情のぶつけ先が分からなくなっていた。
「うわあああ!!」
「レッシュ君!!こっち!」
「クルス!?」
引き金を引こうとしたクルスの銃に手を掛けたのはレッシュだった。ヴィラがレッシュと翼を呼びに走っていっていた。桜はぎゅっと目をつぶって、目を開いた。優美は真っ直ぐレッシュを見つめる。クルスは思いつめた表情でレッシュを見つめた。
「隊長・・・」
「銃を渡すんだ・・・な?」
レッシュは安全装置を手早く掛けるとクルスに優しく語りかけた。レッシュは銃をクルスの手から離すと翼に渡した。その場にクルスは崩れ落ち、泣き始めた。
「うわああぁっ」
「・・・クルス」
部屋に入ってきたミコに抱えられてクルスは部屋から出て行った。腕組みをして、壁にもたれ掛かっていた翼がクルスとミコの後姿を見ながらため息を付いた。ヴィラの肩をぽんと叩いて翼は言った。
「ちょっと、リドの部下に話してくるわ。ったく、指示系統がなっちゃいねぇな」
「あ、うん」
「ここはお前とレッシュに任せるぜ」
そう言うと翼はクルスたちが言った方向とは反対方向に向かって歩いていった。ヴィラがそっと部屋の中を覗いたその時だった。肩で息をしていた優美の体がぐらりと揺れた。そしてそのまま床に向かって倒れこんでいった。
「・・・優美!」
「優美!」
「優美!?」
とっさにレッシュが優美を受け止め、彼女の様子を伺った。額に汗をかいて、息が荒い。額に手を当てたレッシュは驚いた。
「すごい熱だ」
その様子を見て桜は胸を押さえてベッドの上を壁に向かって後ずさった。自分のせいで、自分がこんなところにいるせいで彼女は体調が優れないまま自分を庇ってくれた。彼女に向かって彼女の名前を叫ぶレッシュの姿を見るのが辛くて仕方が無かった。レッシュは優美を抱き上げると、ベッドに寝かせた。心配そうに顔を覗き込むレッシュに優美は疲れきった顔でぎこちなく笑った。
「・・・だいじょうぶ」
「大丈夫じゃないだろ?・・・あんまり無茶ばっかりしないでくれ・・・な?」
「・・・うん」
優美は頷くとそのまま眠りに落ちていった。レッシュは髪をかきあげ、ため息を付いた。何も言えずに小さく震える桜の方をレッシュは向いた。
「優美と2人にしてくれ」
「え・・・」
「ヴィラ、悪いけどこの人を別の場所に連れてってくれないか?」
そう言ったレッシュの表情を見てヴィラは頷いた。部屋に入ると桜の手を取った。
「出て」
「でも・・・私は」
レッシュを見つめながら躊躇する桜にヴィラが叫んだ。
「あんたはどこまでみんなを苦しめれば気が済むの!?いい加減にして!!」
そう言って、桜の頬に平手打ちが飛んだ。乾いた音がして、桜は右の頬を押さえた。驚いていた桜を強引に部屋から引きずり出した。扉がゆっくりと閉まって、薄暗い部屋に戻った。レッシュは眠る優美の手を取る。
「・・・ごめんな」
レッシュはその手をぎゅっと握り締めた。
壁に詰めてヴィラは桜を睨み付けた。
「翼君との約束がなかったら・・・私があんたを殺してるところよ」
ヴィラの言葉に真っ直ぐ桜は彼女を見つめた。背が高い2人は目線の位置が同じぐらいだった。胸倉を掴んで憎しみの篭った眼差しが向けられる。桜は強気に言った
「その銃で殺せばいいでしょ」
と、桜は翼から渡されていたクルスの銃を見た。ヴィラは歯をかみ締めてその銃を抜いた。そして桜の額に突きつけた。
「・・・あんた調子に乗ってると・・・」
「約束?そんなのどーでもいいじゃない!」
桜は吐き捨てるように言った。
「さっさと撃てばいいでしょ!!」
「くっ・・・あんた・・・」
「もう私に生きる意味なんてないのよ・・・。復讐もできない、思いも届かない・・・私にはもう生きる価値も意味もないわ」
ヴィラが桜を睨みつける。桜は言葉を吐き終わると目を閉じた。
やっとここで終わる。“憎しみは何も生まない”、復讐、憎悪の連鎖はここで絶たれる。総桜が思ったときだった。突然鉄の扉が開いた。
「ダメ・・・」
扉から出てきたのはレッシュに支えられた優美だった。ヴィラと桜は驚く。息遣いも荒い優美は桜を見上げた。
「優美!?」
「生きる価値のない人間なんていない!・・・あなただってそうです、桜さん」
「でも・・・私は」
レッシュに支えられている優美をみると心が締め付けられるようで、言葉が胸に突き刺さった。
「あなたを必要としている人がきっといるから・・・だから・・・」
優美は苦しそうにして言った。レッシュが優美にそっと「もういいだろ」言った。優美は首を縦に振らなかった。
「ヴィラさんも・・・もうやめて」
「優美・・・でもコイツは」
「それでも・・・お願い」
そう言われてヴィラは突きつけていた銃を降ろした。
「・・・わかったわ。でも、今度なんかあったら、私は許さないから!」
そう言うとヴィラはそのまま通路を歩いていった。桜はその場にヘたれこんだ。すぐに嗚咽が聞こえ始める。優美はレッシュの顔を見上げて言った。
「私は大丈夫だから・・・桜さんのそばにいてあげて」
「え?」
「・・・お願い」
そう言うと優美はフラフラになりながら部屋のベッドに戻って行った。レッシュが驚いている間に鉄の扉が閉められた。レッシュはひとつため息をついた。そして桜の前にしゃがみこんで、視線の高さをレッシュは合わせた。
「場所を移すぞ?・・・立てるか?」
桜が小さく頷いて手を差し伸べたレッシュにつかまった。
世界政府に対すし、人々の不満が爆発する。
襲撃が行われた各都市で暴動が起き、議事堂や、議員達の家などが襲撃された。
それでも世界政府本部は声明を発表しなかった。
・・・発表できる状況ではなかった。
“彼ら”が議会本部を制圧していた。
「あんた達の時代は終わったのよ!」
「貴様らは“新世界”に居場所はない。・・・死ね」
ブラウと“1”の後ろにいた同じ顔をした青年が一斉にマシンガンを議員達に構えた。
「待て!君達は・・・!」
「バイバイ♪」
ブラウはちろりと舌を出して手を小さく振った。銃弾が議員達に突き刺さった。
世界政府に対する不満は世界政府軍へと向けられていった。
「艦長!!」
「全機後退!!・・・なんなの?」
ルティシアは唇をかみ締めた。先ほど流れた映像で艦内、ブリッジが混乱していた。世界政府軍のはずの“白いG”が世界政府、無抵抗な人々に対し、攻撃を開始した。宇宙ステーションも例外でなかった。人が住めるほど大きなステーションを“世界政府軍の白いG”が襲撃した。そして、そのステーションにいた反政府軍と傭兵が一斉にクローディアへと迫ってきていた。ルティシアはオペレーターに叫ぶ。
「彼らに回線を開いて!」
「ダメです!ラジオジャマーされています!」
オペレーターは振り返らずに叫んだ。出撃しているGパイロット達の混乱を収めるので手一杯だ。その時、ルティシアに通信が繋がった。“2”だった。
「ルティシア艦長」
「あなた!?・・・後退して!」
「この状況で後退することはよい作戦とは思いません。突破を提案します」
起伏のない声で言う彼にルティシアの心は痛む。殆ど囲まれているに近かった。同時にビリシャからも通信が開いた。
「我々は見に覚えのない戦闘行為を受けています!こちらにも攻撃の資格はあるはずです!」
そう言われてルティシアは唇を噛んだ。無用な戦闘はしたくない。だが、このままだと全滅しかねない。ルティシアは意を決してオペレーターに指示を出した。
「各機フォーメーションAを展開!突破後このエリアを全速で離脱!」
その命令を聞いてパイロットからそれぞれ返事が帰ってきた。ビリシャも頷く。
「了解!!」
ビリシャはカスタマイズされたウィング・グロリアスのペダルを一気に踏み込んだ。と、その横を凄まじい速度で駆け抜けていくGにビリシャは驚いた。
「す、スピルス!?」
赤いスピルスは一気に反政府軍のG部隊に迫るとあっという間に3機を落とした。次いで、ジア・エータに周辺に展開する4機のGをブレードですれ違いざまに斬ると、そのままジア・エータのスラスター、主砲をを破壊し、沈黙させた。一瞬の出来事にルティシア、ビリシャをはじめ、オペレーターもパイロットも息を飲んだ。
「なんだあれ・・・」
「すげぇ・・・人みてぇな動きだな」
赤いスピルスは止まることなく次々とGや戦艦を撃破していった。ビリシャやパイロット達はただ呆然とそれを見ているだけだった。ルティシアはキャプテンシートから立ち上がってその戦いを見つめた。
「・・・あの人」
ルティシアはそのスピルスの背中から何かを感じ取っていた。
「ここに入れ」
そうレッシュは言って桜を部屋の中に入れた。そこは俗に言う“懲罰部屋”と呼ばれる場所だった。さっきの部屋よりかなり狭い。桜はレッシュに振り返り、彼の顔を見つめた。
「・・・レッシュ」
「あんたが何を考えているか知らないが、優美を傷つけるようなら俺は許さない」
その言葉を残して扉は閉められた。桜はレッシュに何か伝えようとしたが、閉じた鉄の扉に阻まれた。扉に手が伝って、そのまま桜は膝から崩れ落ちた。
誰の声も聞こえない部屋で、桜は泣いた。
「があっ!!」
思いっきり殴られてあの兵士は吹き飛ばされた。翼の前でリドが深々と頭を下げた
「す、すいません!」
「てめぇらの管理体制はどーなっていやがる?何だこいつらは?へたれな上に、仕事もまともに出来ねぇのか?」
胸元を掴んでリドを睨みつけるとリドは少し震える声で再び謝った。
「・・・すいません。以後、このようなことがない様に・・・」
「ったく・・・」
翼はリドから手を離すとポケットに手を突っ込んだ。リドは慌てて制服の胸元を直した。
「こっちにも責任はあるからな。・・・クルスとヴィラには俺がカタをつけとく。お前はそいつらを頼んだぜ」
「はっ!」
そう言って去って行く翼の後姿にリドは敬礼した。そして兵士2人を振り返ってため息をついた。
「この状況だ。管理体制はしっかりとしてくれ。注意を怠るなよ」
「・・・はい」
そう言うと兵士2人もその場を後にしていった。
「ルティシア艦長。報告です」
「ご苦労様。シフトチェンジでしょ?ゆっくり休んで」
「はい、ありがとうございます」
そう言って報告書を渡したオペレーターは敬礼し、艦長室を後にしていった。そこには先ほどの戦闘記録が記されている。戦果及び戦闘時間、信じられないほどの数値がそこには並んでいた。この数値は通常考えられない。ルティシアは椅子から立ち上がって、“彼”の部屋に向かった。
「“2”君?・・・いる?」
ルティシアが扉の前に立ち、声を掛けた。だが、反応がない。と、自動扉が停止し、少しだけ開いていることにルティシアは気づいた。その隙間から中を覗き込んでルティシアは驚いた。“2”が床に倒れこんで苦しんでいた。
「“2”君!?」
扉を押し開けるとルティシアは部屋に飛び込んだ。彼に駆け寄り、抱き上げて、意識を確認した。息遣いが荒く、汗びっしょりになっていた。
「はぁ・・・くっ」
「ちょっと!しっかりして!!」
ルティシアは彼の肩を抱いて叫んだ。辺りを見回し、部屋にある受話器を取ろうとした瞬間だった。その手を“2”が掴んだ。
「・・・ヤメ・・ロ」
「え?」
「大・・丈夫ダ」
搾り出すようなその声にルティシアは首を横に振った。これだけ辛そうにしていて大丈夫なはずはない。涙目になってルティシアは言った。
「大丈夫な訳ないでしょ!!こんなになって!・・・救護班を呼ぶわ」
「やめろと言っている・・・私は大丈夫だ」
そう言うと“2”はルティシアの手を振り払い、フラフラになりながら立ち上がった。が、すぐに倒れこみ、ルティシアが慌てて支えた。心配で声が震える。
「大丈夫じゃないじゃない!!・・・救護班を呼ぶわ。艦長命令よ」
「ダメだ。・・・呼ぶな」
「でもっ!」
「大丈夫だと言っている」
“2”の言葉を聞いてルティシアは唇を噛んだ。彼をここまでさせるものは何なのだろう。こんな状況になっても誰の力も借りようとしない彼の向こうに何かあるのは確実だった。あの、気味の悪い男が連れてきたのだから、きっと・・・。ルティシアは“2”の顔を見つめて言った。
「じゃあ、私があなたの面倒を見るわ。・・・それでいいでしょ?」
「何?」
「もう決めたわ。誰も呼ばない、あなたの体のことも黙ってる。・・・だから」
ルティシアは“2”に顔を近づけた。
「私にはちゃんと言って。何でも力になるから。私に出来ることがあれば何でもするから」
必死な表情だったが、ルティシアは笑顔を見せた。その顔を見て“2”は小さく呟いた。
「ベッドまで・・・支えてくれ」
「・・・ええ」
ルティシアに支えられ、“2”はベッドに横になった。布団を掛けられ、“2”の荒かった呼吸もゆっくりとしたリズムに変わっていった。元のいつもの口調で“2”は言った。
「・・・すいません。艦長に迷惑をかけました」
「気にしないで。お水いる?」
「・・・お願いします」
ルティシアは“2”に水を渡して、彼に飲ませた。そして、眠りに付こうとする彼の額にそっと濡れたタオルを置いた。彼の寝顔を見つめながら、沈痛な表情をルティシアは浮かべる。
「あなたは何者なの?・・・何をしようとしているの?」
艦長室に置かれた報告書には、“2”のデータが記録されていた。
驚くべき戦果の横、備考欄には「エデン・チルドレン?」の文字があった。
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