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* | 正面に連なる山々も、石垣で幾重にも横段のついた蜜柑畑であった。明るい黄金色が陽光に照り映えて、それは陰地(おんじ)と呼ばれる有田川南岸の蜜柑山とは比較にならないほどの盛観であった。蜜柑の粒が大きいのか、実が充分な陽光を吸って赤く色づいているためか、川を隔てて遠くから見てさえ、それは正しく全山に黄金吹くかとも見紛うほどの見事さだった。花の里河川公園 から開けた北を仰ぎみれば、「石垣で幾重にも横段のついた蜜柑畑」が望まれる。 蜜柑は日当たりが大切らしい。一本の木になるべく長く多くの陽が当たるように、蜜柑の木は、南向きの山肌に間隔をあけて植えられてある。それで下から山を眺めると、太陽を見るための劇場がいくつも並んでいるように見える。傾斜のついた良く設計された劇場だ。 「全山に黄金吹くかとも見紛うほど」には見えなかった。大会開催日10月18日(日)はミカンの収穫でいうと極早生(ごくわせ)の時期だからなのか、あるいは、山自体が色づくほど蜜柑栽培が盛んだったのは、もう昔の話なのかもしれない。 郷土の風土を多く描いた作家 有吉佐和子 の小説『有田川』は、明治から昭和にかけての蜜柑とともに生きたひとを描いている。蜜柑を港に運ぶための、今は廃線となった有田川鉄道を敷く話が出てくるその頃だ。そこから、サザエさんのコタツと同じに、どの家庭のコタツにもミカンがのる頃までが黄金時代だろうか。今では柑橘系の需要を国内外の様々な品種で分け合っているから、温州ミカンの需要は年々落ち込んでいるそうだ。 2009年10月18日の日曜日、ミカンの産地として名高い和歌山の 有田川町 で、マラソン大会「第12回モンテ・オウ・コスモス」が開催された。川岸のグラウンドからミカン畑の山のうえ、コスモスパークという展望のよいポイントまで、距離10km、標高差500mを走って登る大会である。 受付8:30~9:20。スタート10:00。今年のタイムアタック部門(10km)参加者数は名簿で200名ほど。優勝タイムは40分あたり。 久しぶりにMさんと参加。受付をすまし抽選をする。Mさん、7等当たり!でタコ焼き器をゲットした。北条でワイン、八幡で目覚まし時計と、くじ運のよい人だ。しかし、大阪の家庭にはタコ焼き器が必ずひとつはあるというのが定説。「すでに持っているのでは?」と聞いたら珍しいことに無いという。ぴったりな人に当たったもんだと思い「そりゃよかった」いえば「うちじゃ絶対使わんな」という。そうか、これだけの普及品を逆に持っていないということは、頑なに要らない派だから。不適な人に当たったもんだと思いなおした。 恒例の参加賞、毎年色違いになるポロシャツは、今年から速乾Tシャツに変わった。おみやげにミカン5個。それと抽選。ゴールでおかわりできるモンテ・カレーと下山のバス送迎。ゴールへの荷物の搬送。成績表後日郵送、駅からの送迎もある。この内容で参加費用は\2,000。 この魅力的な内容のわけは、以下の一説の名残であろうか。 娘たちは例外なく着飾っていた。蜜柑百姓たちは他地方の田地持ちや山林持ちの大きなものに対抗できるほどの金持はなかったかわりに、いわば現金商いなので、祭や会式には景気よく金を使う習慣を持っているのである。有田特有の色白な美しい肌を持った乙女たちが人目を意識しながらしゃなりしゃなりと歩いている。今年で参加3回目となる。私には好天に恵まれている大会という印象が強い。和歌山市の気温は、昨年と同じ 22度を記録 していた。加えて陽の特別よく当たるように練られた蜜柑畑のなかをいくのだから、体感温度はさらにアップだ。(コース図は昨年の こちら を参照) 今年の目標は55分切り。長谷過ぎて車道出合いからロングスパート。忘れてはいない。さて、どうなるか。 10:00、スタート! 中央大橋を渡り有田川沿いを東へ。吉備橋の向こうで右折、船坂のミカン農道を登る。 蜜柑山へ上って手籠に蜜柑を入れるのは女も手伝える仕事だが、それを縦と呼ばれる畚(もっこ)に入れて担ぎ降ろしてくるのは男衆のやる番で、家まで担いで来た蜜柑を選果して箱に詰めるのは女の仕事であった。十一月の末から十二月、一月と、蜜柑百姓の家は蜜柑の収穫の悪い年でも結構忙しい。一日でも早く済ませてしまえば、「樹降し」と呼ばれる仕事終の日が来て、「烏賊飯」が振舞われるのだ。毎年のこと、ミカンは収穫作業中だ。 今では集荷したミカンを運ぶのに運搬レールが敷かれてある。農道まで送ると後は軽トラで荷を降ろせる。荷は選果場に運ばれて、光センサーで機械的に選別されて、味と大きさに正しく見合った箱へと流されていく。 時代が後ろ押しもたらした効率化は、蜜柑農家を援けただろうか。有田のブランド、南向きの陽地であっても、ミカン専業でやっていくのは難しいという。 走者の仕事終には、モンテ・カレーが振舞われる。 カレーを目指して。どれだけ苦しくても1時間。この2つの気持をパワーにきつい上り坂も精一杯頑張った。 |
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