「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ポンコツ兼業主婦の思いつくまま
コゾウ出産中~前編
55時間絶食レース開始
●2002.11.5 36週4日 転院
大学病院、さらに紹介状付きの初受診の時って、なんであんなに待つんでしょうねー。
確かに初受診の患者は、診る方にしては「海のものとも山のものしれない」ヒトで
しかし紹介状付き(つまり誰かが既に匙を投げている)ということは
「限りなくクロに近い」
訳なので、やたら調べられるのは分かる。
分かるので、この日は朝8時半の診察受付開始に合わせて、早めに家を出た。
玄関に入院セットのバッグを置いて、多分、入院になるんだろうな~と思いながら。
受付を済ませ、産婦人科外来窓口へ行く。ここで受付票と診察券、紹介状を渡す。
窓口前の待合いで待っていると、中待合いへ入るようにアナウンスされる。
思ったより早いな…、受付してから朝ご飯に売店でパンでも買ってこようと思ってたのに
ここで買いそびれる。これがのちに痛恨のエラーになるとは思いもしなかったんだが…。
しばらくというにはちと長いほど待ち、診察室へ。一通り経過と問診を済ませ、
検査のラリーに出る。まず採血のため臨床検査部へ。採血室へ行くと
少なくとも50人はくだらない人達が待っている。…今日は連休明け、一際患者の多い日だ。
ようよう採血を済ませ、次は心電図。その後、腹部エコー。それぞれ検査室は違い
しかも微妙に離れている。急いで歩くとお腹が張るのでえっちらおっちら
まるでオリエンテーリングだ。エコー室の検査技師さんはおそらく中国系の留学生?
ごっつい美人だがメチャメチャ粗っぽかった。
余談だが卵巣嚢腫のときにMRIを取ったんだけど、技師はインド人だった。日本人もビックリ
一通り終えて、産婦人科外来へ戻ってきた。検査を終えた旨を伝え、内診を待つ。
…長い…既に午後2時を回っている。ようやく内診に呼ばれ、これで検査はいったん終了。
再び診察室へ呼ばれる。今度は胎児外来の診察室である。
中で待っていたのは
しましまんず・池山
知ってる人いるかしらん?吉本の売れない若手←もう若くないか、芸人
に
そっくりのちょっと軽そうな若い医師だった。
「Kです。よろしくお願いします。」とちょっとめんどくさそうに彼は挨拶し、
「ざっと経過と検査結果、診せてもらいました。まず結論から言いましょう。
今晩から誘発かけて
明日、産みましょう
」
…なんですと。
確かに今日、家を出てくるとき「入院かもな」とは思ったが
「出産かもな」
とは
思わなかったぜ!!!
しましまんず・池山は続ける。
「赤ちゃんに関しては確かにかなり小さいです。何故かという点は出てからでないと分からないことが
多いですが、とりあえずもう週数が36週4日なので、おなかの中に入っているメリットがない。
さらに羊水がほとんどない状態です。現状では赤ちゃんは元気ですが、この状態でキープしておくのは
危険なので、今晩から誘発して明日には出産しましょう。その後は保育器で管理する方が安全です。」
羊水がない、というのは初耳だ。
「では入院手続き取ってきてください。それからまた詳しく今後の段取りなどお話しましょう」
その後、二、三質問をして、とりあえず突っ込んだ話は後で聞こう、と診察室をいったん出た。
しましまんず・池山、見た目はかなりいい加減そうだが、話は的確で、こちらの聞くことにも
無駄なく分かりやすく説明してくれる。…見た目ほどめんどくさい訳ではないらしい(笑)
診察室にいた短い間にも、電話がじゃんじゃんかかって来ていて「…28週、心奇形疑い、とりあえず
搬送してください」とか不穏な会話が交わされている。…ここは大学病院の胎児外来、やっぱり
いろいろな患者さんが来るんだな…ってワタシもか。
●最終データ 体重5キロ増・子宮底長25センチ・腹囲81センチ
とりあえず義母に電話、入院になった場合の打ち合わせ通り、家に置いてきた入院バッグを持ってきてもらう。
それから病棟のベッドに案内。前に入院したし…と思っていたら、ここは婦人科と分娩育児科で
フロアが違うのだ。同室の人へ挨拶するスキもなく、再度エコー検査。さっき外来で受けたのとは違い
複数の医師が入れ替わり立ち替わり見ながら協議している。しましまんず・池山もいる。
「週数に間違いはないですか?」と何度も念を押される。鎖骨・大腿骨・腕の骨などの長さは
ほぼ週数相当、頭骨が少し小さいらしい。なんでも「鎖骨が一番週数を正しく反映する」とのこと。
ふ~ん、今後役に立ちそうもないマメ知識…。羊水のことが問題になっていて、「いつからないのか?」と。
「その話は今までの診察で言われたことはありません」というと、急遽今までのエコー写真が
見たいと言われ、「持ってきてないよ~!」と慌てて荷物を持ってきてくれた義父と義母に
「取ってきてくれ」と頼む。
その後、再び採血(これはあとから考えると手術を想定した感染症関連の検査だったのよね)。
説明室にてエコー写真を取りに行ってくれた義父・義母も加わって、家族への症例経過報告・
もろもろの承認取り。(ダンナは明日以降の出産休暇に備えて急務処理中。夜まで合流できず)
まず「子宮内発育遅延(IUGR)という症状であること」
「原因は3つ、1.胎児異常、2.胎盤異常、3.母体異常のいずれかと考えられること」
「3.母体異常は現時点では見あたらないので1か2だろう」
「1.胎児異常は出してみないと分からないが、現時点のエコーなどでは明らかな心奇形などは
見られていない」
「染色体異常の可能性もあります」
ワタシが「先生は18トリソミーを疑ってますか?」と聞くと「今の段階では分からない。けど
積極的に疑う材料は今はないです」と答えた。体重の増えがなくなってから一番気になっていたことだ。
とにかく現時点では無事に体外へ出すことが最優先、ということは分かったので、その後
山のような同意書(輸血だとか万一の場合は子宮ほか付属器官の摘出も同意するだとか、いわゆる
手術の時に取らされる儀式(笑))に片っ端からサインし、横でカクンカクンになってる
義父と義母を連れて病室へ戻る。
担当看護士さんに「お腹減ったんですけど…」と告げると、一瞬考えて「ちょっと待ってね、
先生に聞いてくるから!」…何を聞くんだ、今日の献立か??
「あ、晩ご飯止めといてね、帝王切開になるかもしれないし」。
しましまんず・池山がわざわざやってきて宣告する。…なんですとー!!!
「先生、ワタシ朝から何にも食べてないんだけど…」
「ありゃ、そう。ちょうどよかったかな。あ、陣痛促進剤、処方したからあとで飲んどいてね」
……。
「それからバルーン、いつ入れる?用意できたら処置室でやるから」
………………。
大学病院にデリカシーを求めてはいけない…。
バルーンとは簡単に言うと(ちゅーか詳しくは知らん)子宮口に水風船を仕掛けて、少しづつ人工的に
子宮口を広げる処置のこと。なんつーかスゴイ原始的だよな。同じような処置でラミナリアという
寒天の材料で出来た棒状のものを入れて子宮口を広げるという処置もある。今回はバルーンで。
……ッて痛いんですけどッ!!
大学病院は教育機関である。によって先生役の医師(指導医)と生徒役の医師(研修医)が組んで
治療に当たる。処置も最初は研修医が「勉強」するわけだ。トーゼンうまくいかない。
後ろでごにょごにょ指導するしましまんず・池山。それでもうまく行かない。
では、と指導医登場。…痛いけどすぐ済んだ。。。
(最初からお前やれよ!と言いたいが、ここはそういう場所ではないので仕方がない。くくく…)
「陣痛室空いてるけど、もう入っちゃう?」と看護士さんに聞かれ、じゃああとから移動するのも
面倒なので、とお引っ越し。3つ並んだベッドはカーテンで仕切られていて、消灯9時も過ぎて
部屋は暗い。奥のベッドからは「痛い~痛い~お父さん痛いよぉ~~」と世にも切なそうなうめき声が。
う~ん、落ち着かん(笑)。ここでやっとダンナ登場。
「エライことになったよ~」
「もうすぐアンタも隣のヒトみたいになるんかな(わくわく)」
「メシも喰わしてもらえん~(泣)」
「あ、僕おなか減ったから何か買ってこよう」
………………。
ダンナにもデリカシーを求めてはいけない…。
●何ごとも無駄になることはないね
そのうち陣痛促進剤の点滴も始まり、腕には点滴、腹にはコゾウの心拍を測るモニター付き。
おなかは究極にペコペコ。しかし陣痛はいっこうにやってこない。
「来ないね」
「全然痛くないよ~」
そこにしましまんず・池山登場。「ちょっと陣痛の波らしきものが出てきましたね」「え?」
「隣の部屋でモニター見てるんですけどね、気になるのが陣痛の波が来ると胎児の心拍が
少し落ちるんですよ。しばらくこのまま見ておきますね」
…いつ陣痛なんか来てるんだ??さっぱり分からない。。。
そのうち気が付いたら隣で唸っていた声は聞こえなくなり、代わりに左右のベッドにそれぞれ
救急車で運び込まれたらしきヒトがやってきた。2人は時間差でやってきて、それぞれ帝王切開に
なった模様で、ぶぃ~んと剃毛をするバリカンの音が聞こえていた。
あらら、なんだか大変そうだよ。とのんきに構えていたら、再びしましまんず・池山が。
「やっぱりダメだね。これ以上は無理みたいです。陣痛があるたびに心拍下がってますね」
つまりコゾウは小さくて体力がないので、陣痛=子宮が収縮するたびに苦しくなって心拍が
落ちてしまうらしい。このまま普通分娩を続けるのは危険、ということだ。
ということは…「帝王切開に切り替えましょう!」やっぱり…。
ま、
「絶食した甲斐、あったね」
お前が言うなーーー!!>しましまんず・池山。
これが草木も眠る丑三つ時、午前2時半ごろの話である。
ここからは早かった!「帝王切開」という単語が出たとたん、看護士3~4人が一斉に
カラダに取り付き、1人は点滴を付けかえ、1人は術衣に着替えさせ、1人はストレッチャーのスタンバイ。
そしてワタシも剃毛…明日は我が身って本当ね、ぶぃ~ん…。
陣痛室からストレッチャーに乗って廊下へ出る。裸同然の格好で外気が少しひんやりする。
ストレッチャーって乗ってみたら分かるんですが、思ったより床から高いんですよね。
ちょっとガクガクするストレッチャーに乗って、廊下をほとんど走るように移動、エレベーターホールで
搬出入用エレベータが上がってくるのを待っていると、廊下の窓からぽっかり月が見えた。。。
3階の手術部に下りて、オペ室に入る。オペ室の入り口は2重扉になっていて、強制排気なので
中からゴォゴォすごい風の音。暗い廊下からパッと扉が開くと、中はまぶしいほどの蛍光灯の明かりで
10人以上の人がズラリと勢揃い。「…こんな真夜中に大勢働いているヒトが…」と思わず感想…。
それぞれのヒトが「お名前確認します!○○○○さんですね。○年○月○日生まれで間違いありませんか?」
といちいち確認する。そしてネームタグも視認。…大変ですね。
以前、卵巣嚢腫の手術をしたときは予定手術だったので、前日から術前処理をいろいろし、当日も
麻酔に入る前に下処理のような意識を軽く飛ばす麻酔をしたり、術後の痛みを取るための硬膜外麻酔を
事前に入れたり、万全の体制で手術に望むので、患者側も負担が少なかった。
が、今回は緊急手術のためか、なんだか粗っぽい!「おしっこの管入れますよ~」ざくっ!はぅ!
「はい!麻酔行きます。1、2、3」…ブラックアウト。
全身麻酔で意識喪失。手術室に入ってわずか15分ほどで、コゾウは取り出された。
午前3時14分、体重1360g、身長42cm、胸囲24cm、頭囲29.6cm、女児。
麻酔が回っていたため、産声は上げず。
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