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マルスの遺言
映画「蛮族の侵入」
そして監督は作品の中では至極もっともなことを主人公に熱く語らせている。その辺はぜひ見てもらいたい。
しかし『蛮族の侵入』とはいかに差別的な考えの元に付けられた名前だろう。
当然あのニューヨークの9.11テロ事件を言っている。「蛮族」つまり「バンディット」のように荒々しい無法者、富を奪う盗賊。ジョージ・ハリスンが製作した映画「バンディットQ」のようにチビで醜く、愚かな怪物のような異界の生き物たち。蛮族とはそういうイメージだ。
そして侵入とは、今までアメリカ本土は直接攻撃をされたことはなかった、主にそのことに対して侵入といっている。文明社会への宣戦布告とも受け取っているのだろう。
この西側以外の諸国民=「蛮族」という考えは以前どこかで聞いたことがある。そうだ!かのノストラダムスの予言だ。
ノストラダムスは、世界がとうとう大変なことになって「全てのジュネーブに逃げよ逃げよ!」と訴えたその後の世界について(つまり、第三次世界大戦か何かのあと?)同じことを言っているのだ。世界は「蛮族」どもがはびこり、盗みやレイプが日常茶飯事になると、そんなようなことを…。
予言にある「蛮族」という考え方と、この映画のタイトルの「蛮族」という考え方は一致している。
つまり、両方ともヨーロッパの特権階級の人間から見た、東側諸国の人間に対する蔑視の言葉なのだ。
この蛮族という考え方はなにも珍しいことではなく、歴史の中で繰り返されている。日本だって中国から蛮族だとバカにされていたし、モンゴル人はロシアから蛮族と恐れられていた。アメリカの先住民族、インディアンも部族同士でお互いを蛮族と言い合っていたし、グリフィスのモノクロ映画『国民の創世』に見るまでもなく、アメリカ人も黒人たちの事を蛮族扱いしていた。
要するに歴史上変わったことではないのである。常に人間は隣の蛮族におびえて暮らしてきた。そして、蛮族、蛮族と恐れるほど、たいして怖いものではないはずである。日本が終戦後、鬼の米兵がやって来ると恐れたアメリカ人も、確かに決して許しがたい悪いことも未だにしているが、所詮人間であるには変わりない。良い人もいるし悪い人もいる。そう願いたい。
特に今回言われているのは我々、東側の人間のことである。我々のことは我々が一番良く知っている。確かにイスラムの人たちまでのことは分からない。しかし、彼らの一人一人は、他人のことを蛮族と呼ぶ裕福な連中よりは人間的であることをアメリカの選挙時の新聞のインタビューや、戦争報道の雑誌、テレビで知った。(それより一番分からないのは昨日の日記の、同じ日本人かもしれない)
この監督が日本に来日した時の様子がDVDに収められているので私たちも見ることが出来る。
日本版タイトル『みなさん、さようなら。』も、かなり気に入らなかったみたいだ。蛮族よりはましだろう!
日本をあまり好きではないようだ。それ以上に蔑視しているのが見て取れる。日本軍がパールハーバーでアメリカ本土を奇襲アタックしたことを恨んでいるとは思えない。彼には根っからのエリート(特権)意識と、東側諸民族に対する差別意識がある。それは確かに彼やノストラダムスから見れば、東側の人間はチビで、醜く、野蛮で、西側の富を追いつけ追い越せで奪おうとしている者たちに見えるかもしれない。しかし、そんな考えしか持てないようなら、イスラムや東側の人間の怒りを駆っても仕方あるまい。
自然の摂理である。バランスのないところには均衡をもたらそうと神はするのである。他人を蔑視すれば蔑視が返ってくる。
監督は今回、この映画では自分を主人公に見立てて描いたそうだが、主人公の死が彼自身の死である以上に、図らずもヨーロッパ(アメリカも含む西側)の死、終焉の象徴となっている。
蛮族に侵される日が来る前に、自ら静かに、幸せな仲間たちに囲まれて先に死にたいという、監督自身気づかなかった願望が出ている映画なのだ。
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