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昔、大学生だった頃
今でいう合コンみたいなやつに借り出されて
借り出された奴に借りがあってど~しても断れなかったのね。
もうね、その頃はバイトにピアノに単位にと
売れっ子のアイドル並みの忙しさで
それこそ、睡眠時間が毎日4時間あればいい方で
珍しく予定のない日には、泥のように寝ていたかったわけです。
それが・・・合コン・・・。
有名私立女子大だか何だか知らないけれど、
み~んな同じ顔にみえるわ、
男の軽さに辟易するわで
座が盛り上がったところで脱兎準備OK!
貧乏だったからさ、
テーブルの上のピザだとか
パイだとかをナプキンに包んで
ビニールの買い物袋にジュースをしこたま詰め込んで
いざ、いざ愛しのベットが待つ我が部屋へ!
そんな、僕をじっと見つめる1つの視線。
彼は男と女のどんよりオーラの輪の中には加わらず
壁にもたれて僕を見る。
背の高い男でさ。
ちょっとばかしオダジョーばりの色男。
んで、笑いながらに近づいてきて
「どんだけ貧乏なんですか」
僕も負けずに彼の目の前にはちきれんばかりの袋を差し出し
「こんだけ貧乏なんです」と満面笑顔。
彼の笑顔に心魅かれて
ひとまず大脱兎計画作戦変更。
彼と一緒にテーブルの食料を強奪して
隅のテーブル陣取ってほろ酔い気分で談笑タイム。
どうやら、彼も借り出され組。
しかも同じ年。
そして、ジャズ好き。
んで、昭和初期の文学好き。
とどめは二人とも人嫌い。
話の合わない訳がない。
どんよりオーラ組を尻目に
たまに寄って来る女の子を(なんせオダジョーだから)
「僕達は女の子に興味がないんだ。」と追い払い
ビールと冷えたピザで乾杯、乾杯、また乾杯。
3本目の缶ビールを開けながら
「僕は迷路が大好きなんだ」と彼。
それからは、世界各国のびっくり迷路話。
熱く熱く迷路を語るビール片手のオダジョー風味。
「なんで、そんなに迷路が好きなの?」と訪ねると
「自分を見失う感覚が好きなんだ」と彼。
彼に言わせると、良く出来た迷路というのは
迷っているうちに自分が何処にいるのか
自分が何処に行きたいのか分からなくなってきて
そのうちに自分の存在自体も見失ってしまうという事らしい。
そして、彼が出会ったとびきりの迷路。
「その迷路はね。何もないんだ。袋小路には気の効いたトラップも何もない。」
「袋小路は袋小路としての存在しかなく、そこには希望も絶望もないんだ。」
「本当に全く何もない迷路なんだ。」と遠い目のオダジョー。
「面白いの?」と聞くと
「うん。迷路自体の面白みは全くないよ。怖ろしく広い迷路でね、ただ、柔らかい風が吹いていて、草の匂いがして、小鳥のさえずりが聞こえるくらい。」
「でもね、木々の隙間からこぼれてくる太陽の光を感じながら迷っていると、本当に自分の存在がなくなっていく感覚になるんだ。」
「自分という物体が風や光に溶けていって、僕は自由を感じる事が出来るんだ。」
僕は途方にくれると、いつも彼の話を思い出す。
彼の中の柔らかな迷路。
僕の中の柔らかな迷路。
僕は何かに疲れてしまうと、いつも彼の迷路を夢に見る。
彼の中の穏やかな迷路。
僕の中の穏やかな迷路。
彼はまだ迷路の中にいるのだろうか。