ナラティヴ ひとり語り

ナラティヴ ひとり語り

・・・『うさこちゃん』



 ディック・ブルーナのうさこちゃんの絵本といえば「子どもがはじめてであう絵本」としてあまりに有名だが、私もこの絵本について書いてみたいと思う。
 うさこちゃんを見ていると、シュタイナー幼稚園で子ども達に与えられるという手作りのお人形を思い浮かべる。このお人形には、それを持つ子どものその時々の心情に沿うように、あまりはっきりとした表情はつけないという。シュタイナーの幼稚園では絵本もあまり置かれていないという事だが、それは子どもがイメージするのを妨げないようにという事のようだ。本来、絵というのはイメージを限定するものだ。うさこちゃんの絵本は、絵本でありながら「イメージすることを妨げない」という点に於て稀有な絵本といえるのではないだろうか。その故にうさこちゃんの絵本は優れた赤ちゃん絵本なのだと思う。
 うさこちゃんの絵は、はっきりとした色と簡単な輪郭で描かれる。けれど、うさこちゃんの表情はほとんど変わらない。「うれしい!」と、バンザイをしている時にも口はばってんで描かれる。ここに描かれているのは、必要最小限の絵だ。子ども達はうさこちゃんの心の動きをイメージする。淡々とした絵と、淡々とした文章によって子ども達の空想はかえってふくらむ。
 テレビがどの家庭にも置かれるようになって、子ども達は生まれた時から映像にさらされている。どんどん移り変わっていく画面を追いかけて、子ども達は小さい時から急がされているのではないだろうか。そういった映像にならされた子ども達は、ブルーナの絵本をつまらなく思うかもしれない。けれど、何度も読み聞かせていくうちに、子ども達の中に静かな時間が流れはじめるような気がする。めまぐるしい世の中にあって、うさこちゃんの世界に浸って育つことのできた子どもは幸せだと思う。
 しかし残念ながら、うちの娘はうさこちゃんの絵本にほとんど興味を示さなかった。「単調で、どこまでもどこまでも静かで、つまらないと思った」と言う。けれど大人になった今では、うさこちゃんの絵本を見かけると嬉しくなるらしい。「シンプルで、上品で、かわいい」と思うのだそうだ。もっと年を取って子どもができれば、読み聞かせているかも知れない。

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