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獄ツナSS(挿絵有)






ある晴天の日のこと。


学校帰り、ちょっと天気がいいから、寄り道でもして帰ろう、ってことになったんだ。

青空が広がり、耳を澄ませば、風に揺られた草や花がそよそよと音を立てるのが聴こえる。

小鳥の声だって、優しく耳に届いた。
















「っあ!」

「どうしました?!10代目!!」


先を歩いていたオレは、思い出したように叫んで目を見開き、後ろにいる彼を振り返った。

すると、そんなオレの二倍ほどの驚き声を上げて目を見開く獄寺君の姿が目に入る。



「あ、ごめん、大したことじゃないんだ」

「え?」

「へへ…オレ、明日の宿題まだやってないことに気付いた…」


先週出た宿題なのに、後でやろうと思ってすっかり忘れてた。

てへへ、と笑って見せながら、あぁもう明日の宿題提出は諦めようかなどと考えていた自分に、

「何だ、そんなことですか。では、帰って一緒にやりましょう。
…つーか、そんなことくらい、オレがやっておきましょうか?」

獄寺君は簡単にそんなことを、言った。



「…ううん、ありがと。でも…やっぱりそういうの、良くないと思うから…」



獄寺君の有り難い申し出は、少し悪魔の囁きのように聴こえたけれど、そこは丁重にお断りした。


(あんまり獄寺君にばっかり、頼っちゃダメだよね…)


そう思って苦笑いしてると、獄寺君は、


「流石、10代目!ご自分で努力しようとなさるそのお心、この獄寺隼人、感動致しました!」


なんて、目をキラキラさせて、オレのこと、褒め称えるんだ。





そんな、大したことなんて言ってないのに、ね。

だって、いつも頼ってばっかりだと、君とオレの関係は“そんな風”な関係になってしまうだろ?

オレ達は、友達同士で―――― 恋人…同士、なわけで…

主従な関係、“命令”して・“従う”なんてそんな関係、オレは望んでないんだから。





(それに…ね)




「じゃあ、獄寺君。宿題、きっと分からないとこだらけだと思うんだ。
だから、やっぱり教えて貰ってもいいかな」

「それくらい、お安い御用です!この後、オレんち来ますか?」

「うん、そうしようかな。オレの家、ランボ達うるさいから…」

「…そっスね。アイツら、10代目に迷惑ばっかかけてんじゃないスか?
言って下されば袋叩きにしてやりますから!」


グッと親指を立ててニコリと笑いながら、恐ろしいことを言う。


(ホントこの人…オレ以外には容赦ないな…)


そう思いながらも、二人きりの時間を待ち遠しく思う自分を感じる。



そう、宿題を獄寺君にやってもらうより、教えてもらいながらやった方が時間がかかるし、

その分一緒にいられる時間が増えるだろ?




でも… 獄寺君に、また迷惑かけちゃう、な。


「なんか、いつもごめんね…」

「…?」

「オレ、獄寺君に、何も返してあげられてないや。いつも獄寺君に頼ってばっかりなのに」

「何言ってんスか!10代目はそこにいて下さるだけで、オレは幸せな気分になれるんです。
だから、いつもオレの方が何か返したくて溜まらないんスよ。
その…10代目に頼って頂けること自体、凄く光栄なことなんです。
もっと頼って欲しいくらいッスよ!」

「……でも」


にこっと笑って言う獄寺君に、まだ不満そうな顔をしてるオレ。

そんな表情を見てか、獄寺はうんうんと唸って考え始めた。


「獄寺…君?」


オレの呼びかけに、数秒後、獄寺君は、ぽん、と手を叩いた。




獄



「今日の晩御飯、10代目が作って下さい」

「へ??」

「10代目の、手料理が食べたい、です」

「……」



「ダメ、ですか?」



くうん、と仔犬のようにオレを見つめてくる瞳。



「……オレ、料理あんまり出来ない…よ…」

「オレが教えます、一緒に作りましょう」

「……それって意味ないんじゃ…」

「意味ありますよ!!大アリです!
10代目が少し手を加えて下さるだけで、それは“特別”な料理になりますから!」



あぁ… その満面の笑顔は、ずるい。

君は、いつもずるい。

オレばかりがいつもドキドキさせられてる気がするんだ。



「……っ、分かった」

「本当ですか?!」

「マジで不味くなっても知らないからね?!後で後悔しないでよね」

「大丈夫です、そんなこと絶対に有り得ませんから!」


また、見せた笑顔。オレにしか見せない、この笑顔。

…この人なら、たとえ出来上がったご飯が不味くたって、心から美味しいと言いそうだ。

オレへの想いが、彼自身の味覚すら変えてしまいそうな、そんな気がした。




「オレ、自惚れるよ?」

「…?はい!10代目はもっと自惚れて下さい!」

「……」

「愛してます、10代目。10代目だけが、特別なんです。だから、もっと自惚れていいですよ」

「~~~っ……」





獄寺君は、たまにこういうことをさらりと言ってのける。


あぁ…もう、自惚れても仕方ないよね?

余りの恥ずかしさに、腰が抜けたよう。オレは、ぺたんと緑の広がる地面に腰を落とした。

獄寺君も続いて隣に腰を下ろす。


そして、どちらからともなく、笑った。





ねぇ、獄寺君。君は優しいね。いっぱい、愛をくれるね。

でも、これだけは忘れないで。

君がオレを好きでいてくれるように、オレも同じ気持ちで君に接してるから…





この広い広い世界の中で、オレが君と出逢えたこと。



オレはこの運命に、感謝せずにはいられないよ…










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