mypace

< 新しい記事

新着記事一覧(全861件)

過去の記事 >

2007.06.28

treasure（山獄 10years ｌａｔｅｒ）

(4)

テーマ：『家庭教師ヒットマンＲＥＢＯＲＮ！』(485)

カテゴリ：Ｓｈｏｒｔ　Ｓｔｏｒｙ

多分、どちらからともなく恋をした。
初めにこの恋を自覚したのはどっち、だなんて…お互いにそんな野暮なことは聞かない。
いつだって宝物のように抱かれ、飽きるくらい髪を梳かれ。
柄にもなくオレは空に願ってしまった。

最期のときまで、狂おしいまでに愛おしいこの男と

共に生きさせてくれって――――

「バーカ」

腕の中でふと呟いたその言葉を、山本はいつものように笑って受け止める。

「ん、オレ、バカなのな。バカだから…　獄寺、お前と一生一緒にいたいとか、そんな見えない未来のことまで願っちまってるんだ」

目を細める彼の仕草に、胸の奥がきゅうと締め付けられるような、そんな音を立てた。

未来のことなんて分からない。
愛情は永遠に、無償で与え・与えられるものだと――――昔、誰かが言ってた。でもそれを聞いた時、じゃあ恋心は“一時期の錯覚”だなと咄嗟に感じたのをオレは鮮明に覚えてる。
コイツはいつか運命の相手と出逢って、愛情を注いで・注がれて。間には子供が生まれて。マフィアとは全く関係のない世界で、幸せに暮らしてくんだろうと。昔から何故か…訳もなく認知していた。
その時横にいるのは、確かにオレじゃない誰か。
でもその時に来る別れは悲しい別れなんかじゃないと、淋しい別れなんかじゃないと。
笑って言える日が来ると信じていられたんだ。

オレと違う世界に住むお前を想像して、嫌だと思う反面で、どこか安心してた。

ほら、コイツ、血とか銃とか、似合わねぇだろ？

オレとお前は違う。野球バカは野球バカのままでいいんだよ。

そう思っていたのに、確かに感じていたのに。
未だコイツは、オレの隣で笑ってる。こうして優しく抱いて…時には愛を存分に含んだキスをくれる。
愛した奴が傍にいるってだけでも充分なことなのに、愛した奴が自分を同じように愛してくれて、触れてくれる。お前の肌の感触を感じられる…。

「どした？」

考え込むようにして俯いていたオレを腕の中から解放して、山本は心配そうに覗き込んだ。

「いや…」

ふっと笑うと、何故か奥の方から込み上げた想いが涙を誘った。これは幸せの涙か、悲しみの涙か――――そう考えてから、そんな簡単な言葉で片付けられる感情でもないということに気付いて途方に暮れる。
突然泣き出したオレに動揺を見せている山本が、可笑しくて堪らない。それでも止まない涙を、山本は困った顔で、でも優しくゆっくりと拭ってくれた。

「わりぃ…」
「何だよ、お前らしくねーじゃん」
「オレにだってそんな気分の時だってあんだよ」
「ふっ、そんな気分って、どんな気分だよ」

あ、ほら、お前は笑顔が似合う。

笑いながらまた抱きしめようと伸ばしてきた奴の手からオレはスッとすり抜けて、右手で溢れ出す涙を拭い、無理矢理笑ってやった。負けず嫌いなオレを知ってか知らずか、山本は素直に伸ばした手を引っ込めた。
しかしスキンシップ好きな山本は、すぐに「にしても獄寺、よく泣くようになったよな」なんて言って頭を撫でてきやがったもんだから、ガキ扱いしてんじゃねー、って睨みつけたら――――笑って「どんな獄寺も可愛いからいいんだけどな」なんてクサイ台詞を吐いて、悪態付くオレの唇を軽く塞いだ。
少しの余韻に浸ったのち、オレは今なら素直になれるって、そう感じて…

「お前の、前だからじゃねーの」
「へ…？」
「…ッ……」

そっけなく返したオレから見え隠れする感情に戸惑う様子を見せながらも、山本は前を向いて歩き出した。
その背中に力なく一言、

「お前以外の前で誰が泣くかよ…」

そう呟くオレと、その言葉を聞いてピクリと反応を見せる山本。ふと立ち止まって振り返った山本の顔は、いつにない笑みを見せていた。

「オレ――――幸せだわ。」

顔だけこちらを向けて満面の笑みをオレに向ける山本。そう言った背中はとても大きく逞しくて。その背中を見ていると、本気でそれにしがみ付いていたくなる。
お前が幸せなら…？

いや、そうじゃなくて。

いつだってオレの方が、お前のその笑顔を求めてるんだ。

オレだって幸せだ――――なんてコイツには口が裂けても言えないけれど。

結局は彼を求めて伸ばしてしまう手。
その手は、彼の五本の指先によっていとも簡単に絡め取られてしまうのだった。

***

もう、お前を手放せない。ごめん、な？

お気に入りの記事を「いいね！」で応援しよう