ごった煮底辺生活記(凍結中

ごった煮底辺生活記(凍結中

他言無用




 僕は疑問に思うことがある。
 ついに我慢できなくなり、幼稚園からのおさななじみで、けっこう仲のいい
春山桜子に質問した。
「なあ、バレンタインデーってあるじゃん」
「うん、あるね」
 桜子はショートカットに大きなくりくりした目を輝かせて言った。
「なんで、チョコあげるのかな?」
「あげる人が好きだからなんじゃない?」
 小春日和の帰り道、紺のブレザーにプリーツスカートをなびかせ、くるっと、
いたずらっぽく、微笑みながらの答え。
 でも、その微笑みは曇った。
 それは僕が、その答えに不満だったから。
「そうかな?」
「なんで?」
 僕は桜子を指さした。
「たとえば、桜子。毎年……中学2年になってもくれたじゃん?」
「うん、去年あげたよね! 手作りチョコ」
「ああ、ハートのな」
「なに? まずかったの?」
 僕は首をふった。
「お前、僕の事、好き?」
 びっくりしている。瞬間、真っ赤になり、視線を地面に落とした。
「……なんで? なんでいきなり……」
 そういった後、桜子は赤らめた顔を呆然とした。
 それは僕が、冷静だったから。
 しばらく沈黙してから、桜子は言った。
「……好きだよ。でも、なんで?」
 やっぱりそうか。ならよけいにわからない。
「好きだよな? で、バレンタインな?」
「……うん」
「好きだという気持ちなら、毎年くれなくてもいいじゃん」
「……え?」
「一回、好きってチョコ渡せばいいんじゃないか?」
「……そうかな?」
 桜子の表情が暗く沈んだ。
「僕な、思うんだよ。なにか、毎年チョコ渡す意味があるんじゃないかって」
「………………」
「実は深い意味があるんじゃないかって」
 それきり、僕たちは団地に着くまで黙っていた。
 自分の家の棟につき、別れる時。
「ほんとに知りたい?」
 桜子が突然言った。

 夜、家に桜子が来た。
 母親と妹にちゃかされたが、いつもの事だった。
 桜子は僕に手紙を渡した後、
「じゃあ……ね」
 と帰っていった。
 表情がいつになく暗かったが、さっきの事気にしているのか。
 自室に戻り、手紙を読む。

 今日はびっくりしたよ。
 わたしもあなたが好き。
 好きなの。でも、大好きなのに、黙っているなんて……変なのって思ったから。
 バレンタインの意味はね。渡す人が好きなのは……嘘じゃないよ。
 人間には男と女が……いるよね。
 女はね、じつは全員、心で会話ができるの。
 流行とかはね、実はテレパシーで広まる時もあるの。
 でね、バレンタインはね、子供をのこしたい男の寿命を延ばして、精力をつける
為の儀式なの。
 バレンタインチョコを渡す時にね、ある事をしてるの。
 だから、男が自分で買っても、ただのチョコなの。
 好きな人には長生きしてもらいたいでしょ。
 本命以外の男にはキープとかいって義理チョコをわたすの。
 これは男には絶対に秘密なの。
 でね、なんで秘密なのかというとね、世界を女が支配する為なの。
 詳しくは……わたしもよくわからないんだけど。
 でも、でも、わたしはあなたが好き。信じて。

 なんだこれは? あいつ、ふざけてんのか?
「ねえ、お兄ちゃん」
 いきなり、部屋の扉越しに呼ばれた。
「なんだ?」
「お母さんがご飯だよって。ねえ、桜子さん、手紙もってきたでしょ?」
「え?」
「たまには、お母さんとわたしにも見せてよ~」
「え? あ、いや」
 手紙の内容が気になる訳じゃないけど、僕は適当にごまかした。

 翌日。教室で。
「なんだ、これ! ふざけてんのか!!」
 桜子の机に花瓶と花。縁起でもない! やっていい冗談じゃない!
「あれ、知らないの?」
「なにがだよ!?」
「桜子、登校中にトラックにはねられて死んじゃったのよ」
「な………………」
「ほんと、いきなりでびっくりしたわ!」
「こわいわね~、なんでも、女の人だったらしいわよ、トラックの運転手」
「あんた、桜子ちゃんと仲よかったけど……気を落とさないでね」
「………………」
「ところで、昨日、桜子から……」
 いつのまにか、僕の周りに女子生徒が集まっていた。

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