猫まっし!なクロノス記

猫まっし!なクロノス記

ぼやき -2-

ぼやき -2-

「そうだ兄さん、買い出し付き合ってよ。」

唐突に棒(ぼう)が言った。

「買い出し?」

そう聞き返すと、棒(ぼう)は、不機嫌そうな顔で桧を見る。

「そうそう、椅子をね?新調したいなぁって♪」

逆に桧はご機嫌だ。

「またか・・・。」


桧は武器集めが趣味なのだ。
集めた武器を、持ってみたい気持ちは解らないでもない。
しかし、桧は冒険家業をやってるわけじゃない、普通の町娘だ。
そんな者が、武器を持てば結果は目に見えている。


「今日はねぇ、マーシスグレイブを一振りできたんだよ♪」

ご機嫌に報告される。

「その一振りのあと、すっぽ抜けて椅子壊したんでしょうが!
 ちょっとぐらい反省しなさいよっ!」

棒(ぼう)が怒る。
ま、無理もない。

「桧もせめてマガスぐらいにしとけ。」

とりあえずフォローを、と口にしたら。

「兄さん甘いっ!」

棒(ぼう)から叱咤が飛ぶ。

「う・・・。悪い。」

相手は妹だってのに、俺ってばなんで頭が上がらないだか。

「ま、今の兄貴は怒れる立場じゃないもんねぇ♪」

桧は全然悪びれてない。


「・・・・・・おら、買い出しに行くんだろ。」

分が悪い話題は、換えてしまうに限る。



俺はいま家の中で肩身が狭い。
それというのも、俺が金を使い込んだからだ。
別にギャンブル屋のタメズに注ぎ込んだ訳じゃない。
いや、むしろタメズに注ぎ込んだ方が、まだ形として物が残るだけましかも知れないかもな。

俺が注ぎ込んだのは、消耗品。
そうポーション類だ。


その時の俺は、金色の鎧を纏っていた。
あと1レベル、それもあと50%で、やっと赤い鎧を着る事を許される。
そう思ったら、抑えきれなかった。


で、神殿の4Fに籠もり、ポーションの空瓶を次から次へと投げ捨てながら、相棒のスタウトを振り続けた。
ポーションが無くなれば、町に飛んで買い足し、すぐさまゲートで神殿に戻る。
ひたすらそれを繰り返した。


そうやって、修行に没頭している間に使い込んだ額は実に1Mにのぼった。
もちろん、敵を倒したあと、奴らが誰かから奪い取ってため込んでいた装備や金もしっかりと頂いて、ポーション類を買う足しにした。
それでも、赤字が1M。


これで、討伐依頼やお使い事などを引き受ければ、まだましだったんだろうが。
その時はターラの街を拠点に定めたために、それもしなかった。
理由?
神殿4Fに籠もるには、ターラの方が近かった、ってだけなんだ。


赤い鎧を身につけて、喜んでたのも束の間。
後日、倉庫の残金を見て烈火の如く怒りまくった姉貴によって、俺は「冒険家業停止」を余儀なくされた。


俺が冒険を始めたときには、既に姉貴がそれまで稼いだ金があって。
金の心配なんてしたことがなかったんだ。
だから、ただ強くなることだけを考えてた。
姉貴がどれだけ苦労して、金稼いだかも考えずにさ。


「冒険家業停止令」が発令されてから、少したったある日。
随分と遅くに姉貴がふらふらになって戻ってきた。

「今日、1M稼いだから。いいよ、明日から。」

疲れてるのとちょっと怒ってるのとで、口調はきつかった。


え?なんで、じゃぁいまこうやって暇を持て余してんのかって?
そうなんだよなぁ、本当なら今頃バリバリ狩ってるはずだったんだけどさ・・・。





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