あとりえ猫の宮殿~ネリとおたくな猫ちゃん達

あとりえ猫の宮殿~ネリとおたくな猫ちゃん達

続・天上の猫の日



その小箱をそっと開けると、

箱の中から虹色に光る石を取り出しました。

「うわあ~その石ってもしかして?しかし凄く綺麗だなあ~」

マスダ君はその石に軽く触れながら言いました。

「そう、これは虹色金剛石・・・虹の橋にある鉱山でしか採れない、貴重な石。」

コロは地上にいるとき、何度か地震に遭いとても恐ろしい思いをしてきたので

地上の皆のために何か役に立てる事はないかと

こちらに来てからは地質学の研究もするようになったのです。

そして遺跡の発掘を手伝っている時に

たまたまこの石を見つけたのでした。

「この石はこの世界の意思で出来た石なんだ。」

コロはそう言うと石を空にかかげ、何か呪文のようなものを唱えました。

その瞬間、辺りがまばゆい光に包まれ

虹色金剛石が中に浮き、その中央に人のような形が浮かび上がりました。

だんだんと、その形ははっきりと見えてきたのです。

「これがカミサマなの!?だって、あの人は・・・。」

「あ!にんげんのおかあしゃんだあ~♪」

石の中のカミサマという存在は

中庭に集まった猫達それぞれに違った姿でみえたのです。

ある猫にとっては自分を拾ってくれた人の姿が

或いは自分の最期を見送ってくれた人の姿だったりもしました。

皆は驚いたような顔をしていましたが瞳はキラキラ輝いていました。

もちろん石が放った光のせいだと言われればそうかも知れませんが

瞳の輝きは、その光だけの輝きではないようです。

「あいたい・・・。」

「あの人にあいたい・・・。」

「俺も・・・母ちゃんにあいてえ・・・。」

その言葉に反応するかのように石の光がいったん治まると、

石の中のカミサマは春風のような声でこう言いました。

《*自分が地上にいる時・・・いや、今でも愛おしくてたまらない、

もう1度、ひと目でいいから自分の元気でいる姿をみせてあげたい・・・

そう願う人たちを思い浮かべるのだ*》

《*意思の力と意志の力、そしてこの虹の橋と言う世界から生まれ出でた石・・・

この3つの力が重なり合った時にはじめて地上への階段が見えてくるはずだ・・・*》

皆はカミサマに言われたとおりに手をつなぎ爪とぎの木を囲むようにして円を組みました。

誰かがひとり、涙をこぼしました。

すると、それにつられるようにして皆が涙を流しはじめたのです。

あの、強がりでヤンチャなちゃあぼまでポロポロと涙を流しています。

その涙があつまり、大きな水溜りができました。

その涙で出来た水溜りはだんだん大きくなり

水面には星空が写りこんでいます。

まるで小さな銀河が足元にもう一つ出来たようです。

ちゃあぼがその水溜りにに足のつま先を入れると、そこは思いのほか深くて

「うわっ何だよ、この深さは!!地上まで続いてんじゃねえの?」

思わず驚きながら叫んでしまいました。

(*その涙で出来た水溜りは確かに地上に続いておる。*)

「でも~どうすればいいの?階段なんか見えないよ??」

香箱座りをしたちゃくらが、水溜りの中へ顔を突っ込んで下を覘き込みました。

(*目に見えるものが全てではない。心の眼で見極めるのだ。*)

カミサマの声が風のように心の中へ入り込んできます。

「そんなの抽象的すぎてわかんねえよ・・・だけど・・・?」

ちゃあぼが半分言いかけた時、誰かが水溜りの中へ飛び込みました!

「うわああ~~~~っ!!」

その声の主は、あたるでした。

「お、おい!大丈夫か!!!」

慌てて水溜りを覗き込んだちゃあぼが、心配して声を掛けます。

「う、うん・・・大丈夫みたいだよ~」

「あんまり心配させんなよ~☆」

「ごめんごめ~ん・・・それよりさ・・・」

「なんだよ!?」

「ここ、凄く不確かだけれどガラスのような階段があるの・・・」

「え!?なに言ってんだ??」

「・・・ぼく、ちょっと降りていってみてくるね・・・。」

「お、おい~ちょっと待てよ!俺も行く!!」

あたるもちゃあぼも未知なる世界に興味津々といった様子です。

みんなも、「見えない階段」なんて半信半疑ではあるけれど

持ち前の好奇心と冒険心には勝てず

結局全員が水溜りの中へ飛び込みました。

まず皆が降り立ったのは雲の様なふわふわしたところで

眼下には懐かしい光景が広がっています。

みんなが尾っぽをピンと上げながら下を覗き込んでいると

虹色金剛石を持ったコロが

また何か呪文のようなものを唱えて足を一歩踏み出しました。

すると、石はプリズムのように輝きはじめ、一本の大きな曲線を描きだしました。

それは無色透明だったガラスの階段にも反射して

今まで見えにくかった地上への階段をも虹色に照らし出しています。

コロは浅く深呼吸をすると、ひとりひとりに鈴蘭型の小さな鈴を手渡しました。

「帰りの時間が近くなったら、この鈴が点滅しながら鳴るんだ。」

「それまで、お互いに後悔のない時間を過ごそう。」

そういうとコロはガラスの階段を1段1段軽やかな足取りで降りて行きました。

他の猫達も尻尾をタヌキのようにふくらませながら続けて降りて行ったのです。

階段を降りていった猫達がまず降り立ったのは、バスの停留所のようなところでした。

「お、やった~これで色々なところへ行けるんだろ?」

ちゃあぼの問いに、コロは首を横に振りながら言いました。

「いや、このバスが止まるのは1箇所だけなんだ。」

「1ヶ所って、一体どこに止まるんだよ!?」

「・・・ボクらは、ここまで何の力でたどり着いた?」

「そりゃあ~ホレ、意志とか石の力~みたいなヤツ?」

「そう、会いたい人にどうしても会いたいという意志の力。」

「お前の話はいつも回りくでーんだよ~・・・」

側にあった銀色の縁石に腰をかけながら、ちゃあぼは深い溜息をつきました。

「あ、バスだ!!ちゃあぼ兄ちゃん、バスがきたよ!!」

サビ猫のちゃくらが、真っ黒いカギシッポをクルンクルンまわしながら振っています。

「ま、取り合えず乗るべえ~♪」

ちゃあぼは落ち込むのも、立ち直るのも早いのです。

バスの中に入った猫達が思い思いの席へ付くと、

玲央は、ひとりづつに水筒とお菓子の入った袋を手渡しました。

その、お菓子袋の中に顔を突っ込みながら猫達は

《アイタイヒト》の事を想い、これからたどり着くであろう場所に期待を寄せました。

猫達を乗せたバスは、夜道を真っ直ぐに走っていきます。

けれど、バスの窓から見える光景は闇夜と街灯ばかりで

いま自分達がどこを走っているのかも見当がつきません。

みんなは、お菓子でお腹がいっぱいになり眠たくなってしまったようです。

「さあ、そろそろ着くよ!!」

コロの声に驚いた猫達は、その場で15cmくらい飛び上がってしまいました。

慌てて窓の外に目をやると、確かに暗闇の中にバス停の看板が白く光ってみえたのです。

それから間もなくしてバスは止まり、ドアが開きました。

「じゃあ、ここからはみんな個人行動。思い思いの時間を楽しんできて・・・。」

そう言ってバスから降りたコロの姿は、そこから見えなくなってしまいました。

「それじゃあ、ぼくも!帰ったら報告会でも開こうね!!」

マスダ君がニコニコしながらバスを降りて行くと、残された猫達も次々とバスを降りていきました。

猫達が降り立った場所は、それぞれの《アイタイヒト》が住む家の前です。

「ただいま~!!まま~ボクだよ!!あいにかえってきたんだよ!!」

《アイタイヒト》に声が聞こえなかったとしても、自分の姿が見えなくても

久し振りにその人に会えただけでも胸がいっぱいです。

なつかしい家の匂いをかいだだけで幸せな気分に包まれました。

たとえ引越しをして家が変わっても住んでいる人の匂いが染み込んだ家であれば

そこは自分が自分に帰れる場所なのです。

その匂いに安心してしまった猫達は

愛しい人のヒザの上にそっと乗り、丸くなって寝てしまいました。

天上の世界では2本足で立って人間のように生活をしていた彼らでしたが

大好きな愛しい人の前では、思いっきり甘えやすいように

元の猫の姿に戻ってしまうのです。






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