あとりえ猫の宮殿~ネリとおたくな猫ちゃん達

あとりえ猫の宮殿~ネリとおたくな猫ちゃん達

天上の猫の日~最終章



家中の灯りは消えており、辺りは静けさに包まれています。

「もう夜中だから、みんな寝ているのかもしれないわねえ~。」

猫達は階段を上り、廊下の一番奥にある部屋に入りました。

「う~ん・・・やっぱり、グッスリ寝ているみてーだなあ~・・・。」

コロは、ポンっとベッドの上に飛び乗ると

飼い主だったお姉さんの枕元に座り、そっと頬に触れてみました。

けれど何度その頬に触れてみたいと思っても、

その頬に触れることは出来ませんでした。

この地上の世界では魂だけの存在であるため、すべてを通り抜けてしまうのです。

「手をのばせば届きそうなのに、

目の前にあっても触れられないものもあるんだね・・・。」

少し切なげな表情を浮かべるて呟くコロに、あたるは言いました。

「そう?ボクはこうやって、久し振りに会えただけで嬉しいんだ♪」

あたるは、5匹の中で1番最初に天上へ旅立ってしまっているので

人間達とは本当に10年ぶりの再会だったのです。

「あ~っっもうっ!!

せっかく俺が帰ってきてやってんのに、何で気が付かねえんだ!?」

ちゃあぼは少しイラつきながら、お姉さんの頭をポカリと叩きました。

「昔みたいに目覚まし時計でも落っことしてやろうかなあ~?」

「ちゃあぼおにいちゃん~やめなよぅ~♪」

ちゃくらもノドをゴロゴロ鳴らしながら

大好きだったお姉さんの胸の上でまどろんでいます。

「ん~でも確かに、せっかく来たのに気が付いて貰えないのは悲しいわ・・・。」

玲央は、コートのポケットからネズミのおもちゃを探し出すと

お姉さんの頭にぶつけてみました。

すると、おもちゃはコツン☆と音を立てお姉さんの頭に命中したのです。

「お、あっちの世界から持ってきたものは触れられるんだな!?」

ちゃあぼは調子に乗って、向こうから持ってきたものを

次々とぶつけて遊んでみました。

お姉さんも何かの気配に気が付いたようで、

何度も起き上がっては辺りをキョロキョロ見渡しています。

コツン、コツン、コツン・・・静まり返った部屋に

摩訶不思議な音だけが鳴り響き続けています。

しばらくすると、その音を聞きつけた後輩猫のみーすけとゆっぴーが、

驚きながら起きてきてしまいました。

突然の不思議な来客に、初めはたじろいでしまった彼らでしたが

大好きだったコロ兄ちゃんの優しい笑顔を見て、すぐにホッとしたようです。

「コロ兄さん・・・本当に、本当にお久し振りです!!」

「ゆっぴー、驚かせちゃってごめんな・・・。」

「こっちはキジトラ猫のおじさんだあ~・・・でも~どっかで見たことがあるねぃ~?」

「うわあ~、みーすけちゃんってば、俺の事忘れちゃったの?

しかしお前デカくなったなあ~♪」

「おい、何の騒ぎだ・・・って、お前ら~???」

ハーナも賑やかなおしゃべりを聞きつけて参加し

天上に住む5匹の猫と、地上に住む3匹の猫達のおしゃべりは延々と続きました。


金色の月が西に沈みかける頃、猫達がそれぞれ首に付けていた鈴蘭型の鈴が

今までに聴いたことのないような不思議な音を立てて、白く光りだしました。

「あ・・・ボク達、もう帰らなくちゃ・・・。」

「コロ兄さん・・・絶対また会いに来て下さい!!」

「ちゃあぼおじちゃんも、じゃんじゃん遊びに来ればいいねぃ~♪」

「そ、そうだねぃ~って、みーすけ言葉がうつっちまったよ~☆」

部屋を出る寸前、コロはお姉さんの腕枕で寝てみる振りをして

枕元に小さな青い石を置いて帰りました。

帰りのバスの中では、みんな疲れて眠っていたために

天上に戻ってきた猫達は自分の家には帰らず

猫の宮殿のリビングに寝転がりながら

自分が地上で見てきたことを報告し合いました。

「ウチのお姉ちゃんは気が付かなかったみたいなんだけど、

後輩猫達が気付いちゃってさあ~」

「え?トラちゃんのお家でも~?実はウチもなんだ!!」

「そしたら後輩猫、必死になってお姉ちゃんを起こしてたよ~♪」

「ウチではママがさ。。。」

みんなが楽しそうにお喋りをしているのを聞きながら

玲央は、ひとりバルコニーに佇んでいるコロに訊ねました。

「ねえ?早く生まれ変わってみんなと暮らしたいと思ったことはない?」

「ない事はないよ・・・だけど・・・。」

「だけど?」

「もし、生まれ変わったとしたら、ボクはボクでなくなるかもしれない。」

「そう・・・なのかしらね・・・。」

「だから、ボクはもうしばらく、ボクのままで地上のみんなを見守ろうと思うんだ。」

東の空に朝日が見え始め、新しい1日が始まろうとしています。

こうして天上に住む猫達の猫の日は過ぎていきましたが

冒険好きの猫達は、ときどきコロから虹色金剛石を借りて

その後も地上と天上を行ったり来たりしているようです。

地上の世界にも朝が訪れ、カーテンの隙間から光が差し込んでいます。

その光は真っ直ぐにのびて

コロが置いていった石に優しく輝かせていたのでした。


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