りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年10月10日
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今日の日記




「ある女の話:アヤカ53」



私とカンダさんは駅前の喫茶店でお茶だけ飲んで帰ることにした。
私も時間を潰したかったのでありがたい。

私が地元で家を建てる話をしていたので、
カンダさんは自分の知識をいろいろアドバイスしてくれた。
そして、アドレスの交換をした。

「もしまたこっちに来ることがあったら言ってね。
遊ぼうよ。
タカちゃんが来るの口実に飲みに出ちゃうから!」

「うん!遊びたいよね!
その頃にはお互い子供できてるかな~?
カンちゃん、そろそろ考えてるんでしょ?」

「まあ、その時はその時で、
いっしょに連れてきても楽しいじゃない?
あ~、それにしてもタカちゃんと、
もうブラジルやレッドのこと話せないかと思うと淋しいよ。」

私は笑ってコーヒーを吹きそうになる。
私たちはかなり仲が良い友達になっていたので、
本当に名残り惜しかった。

実はカンちゃんは赤木くんと同期の色黒のヨシダくんのファンで、
私達の間ではブラジルとあだ名を勝手につけていた。

赤木くんのことは、
いつも赤い缶コーヒーを飲んでるのと名前から、
レッドってあだ名をつけていて、
今日のブラジルのチェックのネクタイはイイ感じ。
レッドはウィンドーペーンのスーツを新調したらしい。と、
二人で若い男は目の保養だよね~って言っていた。

私達はきっとオヤジ化してるよね?って爆笑して、
彼女のお陰で本当に会社生活は楽しかった。

カンちゃんと二人でカラオケに行ってたら、
私をみつけた赤木くんが、
ヨシダくんや他の同期の子といっしょに合流してきたこともある。
あの時は本当に楽しかったね~!
って、二人で思い出を語って笑う。

「レッドのことは私が会社にいる限りは、
連絡してあげるからね!」

「あはは~、ありがとうね!
じゃあブラジルのことも時々聞かせてね!」

「時々どころか必ず書くから!」

結局その喫茶店で名残り惜しくて夕食も食べた。
彼女も主婦なので、早々のんびりしていられない。
反対方面の彼女と駅で別れて、
来週お昼のメンバーで送別会をする約束をした。

流石にこれからレッドと飲みに行くの、
なんてことは言えない。

でも、バーサンになって、
当時がいい思い出になったらカミングアウトしようかな~なんて思った。
まだまだ先の話?
でもきっと同窓会をしようね!

赤木くんと待ち合わせをした店に一人で行くのはドキドキした。
ちょっと場違いだったりしないだろうか?

でも、意外とすんなりカウンターに座れて、
カクテルも、この前と同じ物をオーダーできた。

時間は9時。
まだ来そうもないので、本を読む。
サスペンスもので良かったと思った。
結構集中できる。

そうじゃないと余計なことを考えちゃいそうだった。
いつもと同じように、
平常心。
平常心。

でもちょっとウキウキしていた。
私って、ホント赤木ファンなのね。
でも、ダメダメ。
これ以上好きになっちゃいけないよ!

今回は自然なノリで二人になるワケじゃないから、
ちょっと罪悪感がある。
あるけど…でも、
ほんと、ただ飲んで、お別れして、
自分にケジメつけたいだけだから。

私は自分に言い訳をする。
でも、もしかしたら来ないかもしれない…。
あ、でもそしたら電話すればいいのかな。
そこまでして呼び出していいのか?
緊張するな…。

本に目を落としながらぼんやり考えてると、
店のドアが開いた。

「すみません、遅くなっちゃって。」

後ろで息を切らせて赤木くんが声をかけてきて、
俺ジントニック下さい、って、
隣のスツールに座った。

走ってきてくれたのかな?
嬉しいような、申し訳ないような気持ちになった。

「ううん、大丈夫よ。
こっちが呼び出したんだから。
でも、もう来れないかと思っちゃった。」

私が笑って言う。

「すみません。
もう明日から取引先が休みになっちゃうんで。
時間大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫よ。
今日は何時でも大丈夫。
夫は今週は泊まりで地元に行ったから。」

私は正直に話した。
でも、何かそれって変な意味で誘ってるみたい?
落ち着くために、カクテルを一口飲んだ。
ちゃんと話さなくちゃ。

「話はそのことなの。
夫が地元の会社に戻れることになったの。
それで、
地元に帰ることになったの。」

「え…?」

赤木くんは驚いた顔をして、
運ばれてきたジン・トニックをゴクリと飲んだ。
そして、驚いた顔のまま私の顔をジッと見た。
いつもの冗談だと疑ってるんだろうか?

「今月いっぱいで会社をやめることになったから、
赤木くんに挨拶したくて。
あ、送別会は、最後の日に開いてくれるって、
今日、報告した時に言われたんだけど、
一応赤木くんだけは、
みんなより前に直接お別れがしたかったの。
だから、今日は奢っちゃうよ!」

私は陽気に言ってみる。
だってもうコレがお礼できる最後。
貴方がいてくれて、
本当に会社が楽しかったよ。
どうもありがとう。

「あ…、いや!いいですよ!
オレが奢ります!待たせちゃったし、ぜひ奢らせて下さい!」

赤木くんが我に返った感じで慌てて言う。

「え~、こっちが呼び出したのに~。それで奢らせるのも悪いよ。」

「いや、こっちがお礼したいんで。
でも、この店でいいんですか?
こんな時間だし、もう食べたいもの無いですか?」

お礼?
何だろう?仕事手伝ったりしてたから?

赤木くんは慌ててメニューを開いた。

「良かったら、日を改めて今度どこか連れて行きますよ。」


メニューを眺めながら、サラリと言う。
え?
今度?
連れて行く?
本気で言ってるの?
またまた、喜ばせるようなこと言って~!

「じゃあ、フレンチのフルコースをお願いね!」

私も適当に返してみた。
最後の社交辞令だとしても、喜ばせ過ぎだよ、赤木くん。
こっちは本気にしちゃうんだから。

「わかりました。ホントにいいですよ。御馳走しますよ。」

「え…」

本気…?

「じゃあね~、高級ホテルのお願いしちゃおうかな。」

「いいですよ。」

「高いよ~。すっごい!
ビュッフェじゃなくて、コースがいいな。運んでくるやつ。」

「いいですよ。」

「最上階で、ラウンジでカクテル付きで…」

「いいよ。」


赤木くんが顔を上げて、私の目をジッと見た。
胸がキューンと鳴った。
彼の顔が揺れて見えた。
カクテルのせいだけじゃなくて。

心臓が音を立て始めて、
顔が熱くなったのがわかった。

本気で言ってる。
社交辞令じゃない。

どうする?
どうする私?

「ううん、ホントにそんなつもりで言ったんじゃないのよ。
じゃあ、ここのお店のね~、
カクテル飲みたいな~。どれが美味しいの?」

「タカダさんさえ大丈夫なら、
ホントにそういう店に連れて行きますよ。
調べておきますから。
最後なんだし、それくらいさせて下さい。」

いけない、いけない。
厚意を好意と勘違いしそうだ。
人妻を口説いてる?
まさかね。
私の都合のいい勘違い。

落ち着きたくてカクテルを飲む。
でもグッと飲んだら悪酔いしそうだ。

「タカダさん、うちの会社には何年いたんですか?」

「え~っと、赤木くんが来る半年くらい前からだから、
…3年?4年になるかな?
ずいぶん更新してもらえたよね。
すごくありがたかったな~。」

赤木くんと出会った時の電話の仕事を思い出す。
お互い、その時の話をして笑う。

ああ良かった。
赤木くんが話を逸らしてくれた。

帰り際、席を立って洗面所の鏡を見ると、
酔ってるせいか顔が真っ赤だった。
化粧もハゲてる。
30になるんだもん。
4つ下の彼から見たら、もうすっかりオバサンよね。
変なこと思うのは、やめよう。

戻ると赤木くんが会計を済ませてしまっていた。
こっちから誘ったのに、申し訳ない気持ちになる。
店を出てから、お金を払おうと財布を出した。

「ここで、このお金もらったら、
高級フレンチに行ってもらえなかった時にお礼できないから。」

赤木くんが笑ってそう言うので、
お金を出すのをやめた。

そうよね。
ホントに行くことなんて無いんだろうし、
ここはせっかく送別してくれるって言ってるんだから、
ありがたく奢られてしまおう。

私の心を見透かしたように赤木くんが言った。

「さっきの話、冗談じゃなくて、考えておいて下さい。
最後じゃなきゃ、こんなこと言わないです。
嫌なら、断ってもいいです。
とりあえず、連絡待ってますから。」

赤木くんが、私の目をジッと見て言った。
私も顔を上げて赤木くんの目を見る。

本気?
本気なんだ?

だんだん恥ずかしくなってきた。
これ以上見られたら、
私は絶対勘違いをしてしまう。

目を逸らして言った。

「うん…」







続きはまた明日

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最終更新日  2009年10月10日 20時42分17秒
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