りらっくママの日々

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2009年12月20日
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今日の日記




「ある女の話:カリナ48(別れ話)」




ミツルはもう何を言われるか検討がついてるようだった。

「別れたいの…。」

ため息が聞こえて、しばらくの沈黙の後、ミツルが口を開いた。

「今からそっち行くわ。」

「来てももう終わりだから…。
もう会わないから。」

「いいから」

ブチッと電話が切れた。

私はため息をついた。

しばらく時間が経ってからまた電話がかかってきた。
表示を見るとミツルからだった。

私は電源を切った。

「カリナ~、電話よ!オノダさんから。」

母親の声がした。
家にまでかけてくるなんて…。

私は仕方無く子機を取った。

「電源切ること無いだろ?
こんな電話で最後なんてヒドくねえ?」

「本気だってわかったでしょ?
もうかけて来ないで。」

「…会うまで何度でもかけるけど?」

「…」

「最後の別れ話くらい顔見てしようよ。」

私はため息をついた。

もう顔も見たくないから電話にしたのに…。

そう思ったけど、
そこまで言っていいのか、ためらった。
それに断ったら何度もかけてくるだろうと思った。
ちゃんとケジメをつけるべきなのかもしれない。

仕方なく私は家を出ることにした。
万が一何かあったとしても、
今家に電話したことから最悪なことは無いだろう…
って思った。

今まで好きで付き合ってたはずなのに、
こんなことを思う自分が何だか嫌だった。

でも、
それくらいミツルが私に執着してるような気がして…。
それは自惚れかもしれないけど、
スンナリは別れられない気がして、
何だか怖かった。


「乗れよ」

故郷で車でも購入したのか、
見たことの無い車の窓からコンビニの駐車場でミツルが私を呼びかけた。

「いい…。
ここで…。」

「いいから乗れって言ってんだろ?!」

その気迫に気おされるけど、
車に乗るなんて怖くて嫌だ。

「何で乗らなきゃいけないの?
来たからいいでしょ?悪いけど、もう帰って。
電話して来ないで。」

私は背を向けて歩き出した。
ミツルが後ろから慌てて追ってきて手首を強く掴んだ。

「待てよ!」

掴まれた手をふりほどこうとするけど、
ビクともしなかった。

「もう、ホントに終わりなのかよ…?」

「だから、そうだって言ってるじゃない…」

ミツルは手の力を弱めずに、
私の手首を掴んだまま私の目をジッと見た。

「わかった…。
でも…
じゃあ、そこの公園に行こう?
いいだろ?俺まだ納得できないし…。」

ミツルが穏やかな声を出してそう言った。
目がすがっていた。
そして腕を離しそうも無い。
コンビニに出入りする人がジロジロと見ていくのに、
周りも見えて無いみたいだった。

私は仕方無く頷いて公園まで手を掴まれたまま歩いた。
掴まれた手の力の強さが恐ろしかった。
弟についてきてもらえば良かったんじゃないかと思った。

自動販売機の前でミツルは止まると、
「どれがいい?」
って聞いてきた。

私が首を横に振ると、
勝手に私がいつも飲んでる冷たいお茶を買って渡してきて、
自分の分のアイスコーヒーを買った。

ポケットに小銭がそのまま入ってたみたいで、
その間もずっと逃がさないように腕を掴まれたままだった。

腕を引っ張られてベンチに座らされた。
夜の生ぬるい風が気持ち悪かった。
渡されたお茶がヒンヤリと冷たいのが、手から伝わってくる。

「逃げないから…
手、離して…。」

ミツルは言われてようやく手を離した。
まるで親に見捨てられたくない子供みたいだと思った。

そうしてアイスコーヒーを飲み始めるものの、
一言も話し出そうとしなかった。

私も、もらったお茶を開けて飲んだ。

公園には誰もいなかった。
それでも車の中の密室よりマシかと思った。
いつでも大声を出して逃げられる。

そう思った途端に、
私はもうホントにミツルのこと好きじゃないんだな…
って思った。

あの血と共に、
ミツルにあった愛情も全て流れてしまったのかもしれない。
私の中にあった卵といっしょに、
愛情も死んじゃったのかもしれない。

そんなふうに思った。

「ホントに終わり?
離婚しても…ダメなの?」

私は首を縦に降った。

「もう信じられないし…」

「嘘ついてたのは悪かったよ…」

ミツルはまたコーヒーを一口飲んでため息をついた。
足元をジッと眺めてた。

「前も言ったけど…
仕事転々として、愛想つかされて出てかれて…
その時に離婚届が置いてあったから、
子供のこともあったし…
なかなか踏ん切りつかなくて…。
でも、事故の時に、何かあった時に、
オマエじゃなくてあっちに連絡が行った時に、
それじゃダメだと思って離婚届を渡した…。」

私は意外なことをミツルが告白しだしたので、
少し驚いていた。
ミツルがまたコーヒーを飲んで続ける。

「そしたら…
何でだかわからないけど、やり直そうって言い出した。
別居のままでもいいからって。
俺はもうやり直す気ないから、さっさと離婚届出して欲しいって言ったんだけど、
子供はどうするんだとか、
今ちゃんと仕事してるんだから大丈夫とか言い出されて…
俺も子供の顔見ちゃうと強く言えなくて…」

私はお茶を一口ゴクリと飲んだ。
本気なんだと思った。
ミツルは本気で離婚しようとしている…

私は考えて、言葉を出した。

「でも…
だったら…
やっぱり戻った方がいいよ…。
奥さんがやり直そうって言ってるなら…」

「オマエ…
それでいいのかよ?」

私は首を縦に振った。
足元をずっと見ていた。

だから…
きっと私には子供ができてなかったんだと思った。
コレはミツルと別れなさいってことなんだろうと。

ミツルが何も言わないので、
ふとミツルの方を見た。

ミツルはうつむいたまま、泣いていた。

「やっぱり…
やっぱりダメなのかよ…
どうしてもダメなのかよ…
離婚してもダメなのかよ…」

私はポケットティッシュをミツルに渡した。
ミツルはそれで涙を拭った。

「なあ!離婚するから!
ちゃんと別れるから!
戻ってきてくれよ!頼むよ!」

ミツルは私の肩を掴んでユサユサと振った。
それでも私の気持ちに変化が起きない。

もう一人の私が冷たくこの状況を見ていて、
今だけよ…
って囁く。

きっと今だけ、こんなに強く言うのは。
戻ったら、養育費や何だって現実が待ってる。
今度こそ子供ができた時に、
この人が離婚してるかどうかはわからない。
もし離婚してくれたとしても、
私はそこまでしてこの人を手に入れたくない。
手に入れたくなんか無いのよ…。

「ごめんね…」

私はミツルをジッと見てそう言った。

ミツルは私の顔を見て、
失望の顔色を一瞬浮かべて目を逸らした。
そして地面を眺めた。

その様子と放心した表情を見ていたら、
自分がしてることの残酷さに嫌気がさした。

こんなにミツルを傷つけてまで別れていいんだろうか…
でも…

私の中で迷いが出てきた。

こんなに自分のこと必要としてくれる人が、
こんなに自分のことを好きだって言ってくれる人が、
これから先現れるんだろうか…?

でも…

「オマエさ…」

ぼんやりしながらミツルが言った。

「ホントに俺が初めてだったの…?」

その一言で、一瞬弱気になっていた心の目が覚めた気がした。
まだそんなことをこんな時に言い出すんだ?

「そんなの…
ソッチが一番良く知ってるでしょ?」

私の冷たい声で本気で怒ってるのがわかったらしい。
それでもミツルは続ける。

「初めての男をオマエは忘れられんのかよ?」

バカじゃないの?って思った。

ミツルは私を傷つけたいのかもしれない。
自分が傷ついたのと同じように。
同じどころか、それ以上に。

それならそれで構わない。
私はそんなプライドはいらないと思った。
そんな人に愛されたく無い。

思った気持ちがそのまま言葉に出た。

「忘れられないかもしれないけど、
思い出さないから。」

もう戻らない。
それだけはハッキリとわかった。

自分がどれだけ人を傷つけて嫌な人間になろうと、
自分を傷つけようとするヤツに屈するもんか。

傷つけられた分、愛されてたなんて思わない。
もう相手の気持ちばかり考えて、
自分の気持ちを曲げるような付き合いなんてするもんか。

ミツルは飲み終わったコーヒーの缶をゴミ箱に向かって思いきり投げた。

缶はゴミ箱に当たって外側にはじかれた。
ミツルはその缶を拾いに行ってゴミ箱にガンって放り投げた。

「じゃな。」

ミツルは私を見ないでそう言った。
声は怒気を帯びていた。

振り向かない後姿に哀しさを感じたけど、
もうこんな傷つけあいを繰り返したく無い。

これで終わったんだと思った。

私はその後姿が見えなくなるまでずっと見てた。


さよなら。

私はその後姿に心の中で呟いた。




前の話を読む

続きはまた明日

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最終更新日  2009年12月21日 18時09分35秒
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