りらっくママの日々

りらっくママの日々

2010年01月27日
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今日の日記




「ある女の話:カリナ86(送別会)」




モリタさんがみんなの前でそう言ってくれて、
今年の新人ちゃんが、
私に大きな花束をくれた。
明日から私は産休に入る。

「産んだら戻ってくるんでしょ?
カワイくなったら、そのまま辞めちゃうかな~。」

「そんなものですかね~?
わからないです。」

「そうそう。
休んでる間に気が変わるかもしれないからね。」

私の送別会が終わり、
ちょっと高級って呼ばれてる和風居酒屋の前の道で、
みんなに囲まれて、
何となく名残惜しくて、
ちょっと話す。

「さて、そろそろ行こうか。
イシタニ、悪いな!」

あ…、やっぱり…。
と、私は思う。

モリタさんから、良かったら送別会をしたいんだけど、
やっぱりオナカが大きいと無理かな?
って言われた。

迷ったけど、
もしも、もう会社に復帰しなかったら…
って思うと、何となく送別会の申し出が嬉しくて、
やっぱりオッケーしてしまった。

「帰りは送るからね。
車あるから。」

モリタさんが会の終わりにそう言った。

え?
モリタさん飲んでますよね?

予感的中。
やっぱりイシタニくんが運転手。

道理でアルコールを飲んでなかったワケだ。
飲めない私に気を使ってるのかと思っていた。

すぐ側まで来てくれたイシタニくんの車に、
モリタさんと二人で乗り込んだ。

「俺までホント悪いな~、イシタニ。」

イシタニくんは返事の代わりに笑った。

「いや…さ、イシタニと二人で決めてたんだよ。
こんなにオナカが大きいのに、
電車で帰すのは可哀想だよな~って。
送別会もさ、
ホントならマズイかな~って思ったんだけど、
今までいっしょにガンバってきたじゃない?
できれば、やりたいな~って思ってて。」

飲んでいたモリタさんは饒舌に語る。

その言葉に、ついジンワリきてしまった。

「すみません、ホント…
も~、何て言うか…
こんなふうにしてもらえるなんて、
すごく嬉しいです…。」

「あ、ホント?
良かったなぁ~。
な?イシタニ…」

私の方を笑顔で振り返ったモリタさんの顔が固まってた。
笑って答えたつもりが、
涙がつい出ちゃっていて、
指で拭っていたのに気付かれたらしい。

「イシタニがさ~、車出すって言い出してくれてさ。
タクシーで一人で帰すのも何だし。
で、俺まで甘えちゃったんだよね。
イシタニって、ホント、いいやつだな~!」

モリタさんは誤魔化すように、
サッと隣のイシタニくんの方を向いて話しかけた。

イシタニくんとバックミラー越しに目が合った。
私は慌てて目を逸らして、
取り出したハンカチで涙を拭った。

二人は何気なく話してるけど、
しんみりした空気が車の中に流れてしまった。
そのことに申し訳なく思う。

「でも…さ、
ホント、会社戻れたら戻っておいでよ。
子供カワイイと、このまま辞めちゃうかもしれないけど、
ミゾグチさんは戦力だったからさ、
何かもったいなくてね。」

自分ちを棚に上げてなんだけど~、って、
モリタさんは笑った。
うちのと違ってツワリとか、そういうの無かったよね?
とか、
医療費、保険利かないと結構するよね~。
とか、
いろいろ質問してきた。

知ってる子が結婚したり、妊娠してるのって、
身内に子供できたくらい、
何か変な感じだな~とかって。

車は先に近いモリタさんを下ろした。

お互い名残り惜しい気持ちで手を振る。

この人の信頼もあったから、
私は仕事を続けられたんだ。

明日から…
ううん、もしかしたらもう会えないかもしれないんだな…
そう思うと淋しくて、
この人が上司で本当に良かったと思った。


話題をふっていてくれたモリタさんがいなくなると、
車の中が一気に静かになった。

かかってる曲が、
昔付き合っていたミツルが好きだった曲だってわかって、
少し変な気持ちになる。

ああ、またミツルだ…。
そう思う。

この曲をイシタニくんも好きなんだ?
そう思うと、
やっぱり呪われてる気分になる。

会社の最後になんだってこんな…。

それでも、イシタニくんが車をわざわざ出してくれたことに、
感謝の気持ちはあるけど、
どうして…って気持ちになる。

そんなことしなくていいのに…

だけど、

これでもう、もしかしたら会うことも無いかもしれないと思うと、
やっぱり、嬉しかった。

「ホント…。
何か変な感じだな。」

イシタニくんが口を開いた。

「ミゾグチさんがこうしてオナカが大きくなっていくのって、
毎日見てたけど、見慣れない。」

「そう?」

私は素っ気無く返事を返した。

みんな青山さんって言わない。
やっぱり何年も呼びなれた旧姓を呼ぶ。
それがあだ名みたいだな…って思った。

「ミゾグチさんは…
彼とどうして付き合うようになったんだっけ?」

私は少し考える。

「ナイショ。」

「あ、なんだよ~!」

時間をかけて、元のように戻ったフリをした私達は、
フリをしてるうちに、
本当に元に戻ったのかもしれない。
本当にそう思う。

「じゃあ、イシタニくんは?」

「俺?俺は~、
その時すっごい好きな女がいて~、
結婚まで考えてたんだけどふられて~、
そんな時にアイツと会って~、
すっごい慰められて、
いい子だなって思って、
だんだん好きになった。
…かな。」

ちゃんと答えるなんて思ってなかったので、
ちょっとビックリした。
私のように、はぐらかすかと思っていた。

以前、母親が亡くなったことを話してくれたみたいに、
イシタニくんは以前と変わらない態度を示した。

イシタニくんも、
もしかしたら、もう私が戻らないって思ってるのかもしれない。

「アイツは彼氏がいたんだけどさ、
俺のせいで別れちゃった。
正直、俺、そこまで自分のことを求められたこと無いっていうか。
それが、すごく嬉しくてさ。」

「そっか…。
そういうの、あるかもしれないね。」

私は自分の話もした方がいいのかな?
って、迷った。

でも、その話がB子に行かない保障も無いから、
やっぱり躊躇する。
いくらイシタニくんが話さないって言ってても。

私は、ふふ…って笑った。

「何?どしたの?」

「ううん。ノロけるな~と思って。」

「あ、そっか。ごめん。」

イシタニくんが照れ臭そうに笑った。
ミラー越しに見えた、その顔に、
心が何となく緩んだ。

「私はね、
ずっと夫のことが好きだったの。
でも、勇気がなくて、告白とかできなくて、
そのうち、自分のこと好きって言ってくれる人の方に流れちゃった。
で、その人と別れて、
しばらくしてから連絡を取る機会があって、
そしたら、夫も私のことを好きだったって言ってくれて、
それ以来なの。
大学の頃から。」

まあいっか~…って、私もぶっちゃけた。
変に隠す必要も無い。

「そんなに前からなんだ…」

イシタニくんが穏やかに言った。

「幸せそうだよね。」

「うん。幸せだよ。」

私はオナカをなでた。
私とノボルの赤ちゃんがポコンと動いて、
うん!ママ!
って返事をした気がした。

「すっかり母親の顔するんだね。」

バックミラーを見たのか、
イシタニくんが言う。

「え?そう?」

「うん…」

しばらく、お互い無言になって、
車の中に曲が響いた。

こんな形で、
またこの曲を聴くなんてね。

私は可笑しい気持ちになった。

今では、この曲の歌詞の気持ちがわかる。
せつない歌詞だと思っていたけど、
あの頃は頭でしかわからなかった何かが、
心にジンワリ伝わってきた。

嫌な過去だと思ってたのに、
苦ささえ懐かしく感じるのは、
私が今、幸せだからかもしれない。

「俺、アイツと結婚するよ…」

イシタニくんがボソリと言った。

「そうなんだ?
おめでとう!」

私は笑顔で言った。
イヤミとかじゃなくて、
本当に心からそう思った。

「イシタニくんも幸せになってね。」

「うん…
ありがとう…。」

イシタニくんは真剣な顔でそう言うのが見えた。
次の瞬間、照れ臭そうに笑った。

「何か…変だな。
やっぱ、ちょっとお別れムードだ。
でも、ホント、
モリタさんが言うように、復帰できたら戻ってきてよ。
またいっしょに仕事しよう?」

「うん。
ありがと。」

こんな日が来ることってあるんだな。

私はフッとそう思った。

学生の頃、何もかもがどうでもいい気分になったこともあるのに。
カッターで手首を切ってみようかと思ったこともあるのに。
会社なんてどうでもいいって、思ったこともあるのに。
イシタニくんの顔なんて、
見たくも無いって思ったこともあるのに…。

全部、放り投げてたら、
今この瞬間は無いんだな…って思った。

そして、今まであった、どれが抜けても、
この子はオナカの中にいない。

家の前まで来て、
私は重いオナカを庇いながら、
ヨイショって、大きな花束を持って降りる。

「旦那さんにヨロシク。
本当にお疲れ様。」

「うん。
本当にどうもありがとう。」

イシタニくんは、私をジッと見て頷いた。

「さよなら。」

イシタニくんの言葉に、私は頷いて手を振る。

車が角を曲がって見えなくなった。

私は、しみじみとした気持ちで息を吐いて、
家の中に入る。

「ただいま~!」

「おかえり~!大丈夫だった?
迎えに行こうと思ってたのに!」

夫になったノボルの心配そうな笑顔が、私を迎えてくれる。

その顔を見て、私も嬉しくて笑顔になる。

「うん。
会社の人がね、送ってくれたの。
今までずっとありがとう…って。
みんな、戻れたら戻っておいでって、
言ってくれたよ。
赤ちゃんがカワイくなったら無理だろうけど、って。
大変だったけど、ずっと続けてて良かったよ…。」

「そっか…。」

花束を置くと、
ノボルが私の頭を撫でて、
良かったね。お疲れ様、って、抱きしめてくれた。

ノボル大好き。

あ~、私って幸せだな。

私の目からまた涙が出てきてしまった。

オナカの赤ちゃんも幸せだね!って、ポコポコ動く。

オナカさえ重たくなければ、
このまま時を止めていたいくらい、
心が満たされていた。

もうすぐ私の20代は終わる。




前の話を読む

続きはまた明日

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最終更新日  2010年03月27日 18時34分26秒
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