りらっくママの日々

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2010年01月31日
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今日の日記





「ある女の話:カリナ90(葬式1)」




帰って来たノボルの黒いスーツに塩をかける。

「ネクタイが白なら結婚式なのにな…」

はずした黒いネクタイを見ながら、ノボルがつぶやいた。

明日の告別式で、ノボルは弔辞を述べることになっていた。
お風呂から出ると、手帳に原稿らしき文を書いていた。

私も、お通夜に行きたかったけど、
まだ一ヶ月のマナを連れて、雨の中の葬式は難しいだろうと言うことで、
行くことができなかった。
話を何となく聞くこともできない。

多分、ノボルが一番悲しんでいるのだろうから。

テレビドラマを観ながら母乳を飲ませてゲップをさせると、
マナは満足したのか、スウスウ眠り始めた。
私は頃合を見て、マナを布団の上に置いた。
コレに失敗すると、またマナが起きて泣き出し、
あやすのに時間がかかることがわかっていたので、
かなり慎重に。

ノボルは書いていたペンを止めて立ち上がった。
ティッシュを取ると、目を拭いて、鼻をかんだ。

私が見ていたのに気付くと、
「ごめん…」って、軽く笑いながら言った。
私は、ううん、って、首を振った。

「大丈夫?」

「うん…。何を話していいのか、何から話せばいいのか、わからなくてね。
こんなこと、あるんだな…って思って。
こんな大事な役目をするなんて思わなかったし…。
何か、書いても書いても、アイツのこと、
うまく話せないような気がして…。
こんなんでいいのかもわからないし…。」

「うん…。」

「書いてるとさ…
いろいろ思い出すんだよ。
ついこの前まで、いっしょに遊んでたじゃん?

僕はさ…

バカだったと思って…。
ウザったがられても、
もう少し顔を見に行けば良かったって。

今でも

頭に残ってるんだよ…。

アイツが…
来てくれたんだ?、って言ったこと。

僕のこと気にしててくれたんだよ…。
なのに…」

私がノボルの手を取ると、ノボルは私にもたれるように、ゆるく抱きしめてきた。
まるで、何かにすがらないと立ってられないようだった。

「アイツさ、
苦しそうだったんだ。
チューブで繋がれてて、
もう、意識なんか、あるんだか無いんだか、
目を開けてもすぐに眠るような感じで。
だからさ、
死んだって聞いた時には、
もうあんなに苦しまなくていいんだって、
僕はホッとしたんだよ。
あんなに苦しそうにしてたから…
やっと楽になれたんだ、って…。

でも、
でも…

治るって…思ってたんだ…
死ぬなんて…
信じたくなかったんだ…

今だって、死んだなんて思えないんだよ…。」

ノボルが肩越しに泣いているのがわかる。

私もノボルの腰に手を回して、
壊れないように抱きしめた。

しばらくそうして抱きしめていると、
ノボルが体を離した。
ティッシュを数枚取って、私に渡して、
自分の涙も拭った。

私も泣いてた。
お通夜にも行きたかった。
病院にも行きたかった。
写真じゃなくて、マナのこと見せてあげたかった。

治らないなんて、
思わなかった。

人の死がこんなに突然だなんて、
思ったことも無かった。

死は年功序列なんじゃないかって、
心のどこかで思ってた。

どんなにニュースで毎日、人が亡くなったって聞いても、
親が誰かが亡くなったって言っていても、
それはどこか遠くのことで、
自分に近い人のことじゃ無いと思っていた。
心のどこかでそう思っていた。

だから…

現実感が無いの。
ノボルから聞いた赤木くんの死が。
全く現実感が無いの。
どこかで生きてるような気がするの。

ノボルは生きてる。
温かい体温のぬくもりを感じる。
それが当たり前のことじゃなく感じる。

その時、私の携帯が鳴った。

ノボルが、取っていいよ、って表情をしたので、
私は慌てて電話に出た。

「カリナ、夜遅くにごめんね。今大丈夫?」

「あ、マッシー?うん。」

「お通夜、アオヤン帰ってきてる?」

「うん。」

「それなら良かった。何か心配になっちゃって。」

「え?どして?」

「何て言うか…
アオヤン、変にテンションが高かったって言うか、
楽しかった話を懸命にして、みんなを笑わせてたって言うか…。
でも、目が遠くを見てるような。
現実を受け入れてないような気がして、
ちょっと心配だったんだよね。」

マッシーの話に頷きながら、
私は何となく怖くなった。
ノボルがマナの側に行ったので、
聞こえないように、部屋を移動した。

「ねえ、マッシー…
私、告別式出ようと思う。
マッシー行く?」

「え?あ、うん。
私は一人でも行くつもりでいたけど…
大丈夫?」

「うん。ノボルのことも気になるし。
でも、ノボルが悲しむの、邪魔になっちゃいけないし、
マナが気になるから、ちょっとだけお焼香して帰るね。
車で行く。」

「わかった。
いっしょにいよう。
私もすぐ帰るつもりでいたから。」

「うん。」

死んでしまった赤木くんよりも、
生まれたばかりのマナのことを考えるべきなんだろうか?

赤木くんは、夫の親友で、私の友達じゃないのかもしれない。
でも、
私にとっても、
彼はいっしょに自分達と今までを過ごしてきた、大切な人だったことに間違い無い。

だから、
もうこれが最期だと思うと、
無茶をせずには、いられなかった…。

でも、
人との別れは死だけじゃないのかもしれない。

いつだって、
人との別れは突然なんだと思う。

後になって初めて、
あれが最後に会った時だったんだな…って思う。

ずっと、ずっと会えると思っていたのに。

ねえ、マッシー、そう思わない?


「いっしょにいようね。」


私もそう言って、電話を切った。




前の話を読む

続きはまた明日

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最終更新日  2010年02月01日 20時11分11秒
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