りらっくママの日々

りらっくママの日々

2010年02月04日
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今日の日記




「ある女の話:カリナ94(先生の妻の顔)」



と、人混みのデパートに来て後悔した。

もうすぐ二人目の子供が生まれる。
産休を再び取ったことで、
私が家にいるのが嬉しいのか、
マナは保育園に行くよりママといっしょにいたいと、
この頃かなり甘えてくるようになった。

たまにはいいかと、保育園を休ませて、
ちょっと気晴らしのつもりでデパートにマナを連れてきたものの、
あまりの人にうんざりしていた。

いつもなら入らないような、
ちょっとオシャレな喫茶店に入って、
マナは最近母に教えてもらったクリームソーダを嬉しそうに飲んだ。
まだ甘いものやジュースは、そんなに覚えて欲しくなかったのに…

でも、私も紅茶を飲んで一息つく。
そしてイチゴタルトを頬張った。

赤木くんが亡くなって、マッシーがいなくなってから、
少しずつ二人で立ち直ってきてる。

マナの成長に助けられて、助け合って、
仕事を抱えて、日常に紛れて、
再び新しい命を得て…。

でも、時々マッシーに報告したくなる。
ささやかな私のことを。


ねえマッシー、
今日、ノボルに話しかけても、
返事が上の空だったの。

マナの保育園の様子を話してるのに、
相槌を打ちながら、
時間を気にしてるみたいで、腕時計を眺めていた。
そうかと思うと、
最近の幼稚園って、パートの人が結構来てるみたいだよね。
マナのところも来てたりする?
って、今までの話を無視して言い出した。

私にわかるワケないじゃない?外回りの園に綺麗な女の人でもいたの?
そう冗談を言ったら、
まさか~。オバチャンばっかだよ。って。

そんなワケないじゃない?
幼稚園や保育園の先生って、
私達より若い人が、どこもいるはずなんだから。

ふうん。じゃあ何で?って、私も適当に話を合わせたけど、
不景気だから、奥さんがみんな働くのかな?って。

いつもなら多分仕事に忙しくて聞き流してたと思う。
でも何だか変だと思わない?

それとも私が仕事してた時もこんな感じだったんだっけ?
忙しかったので、よく覚えてない。
休みだから、ささいなことが見えるようになったのかな…


私はクリームソーダのアイス部分をいじるマナを見ながら、
ぼんやりと考える。

そして、私の前に誰かが立ち止まっていることに気付いた。

目を上げると、
それはイケダ先生だった。

「やっぱり…。
ミゾグチ…さん、よね?」

「あ…
はい。」

思わず返事を返してしまった。

「お子さん?」

「はい。」

「何歳?」

イケダ先生はニッコリ笑って、マナに向かって言ったけど、
マナは知らない人で、いきなりのことに反応できないのか、
私の顔色を見た。

「3歳です。」

いつもなら、ゆっくりマナに返事を促すけど、
私は、つい答えてしまっていた。

「そう。
ね、ここいいかしら?私一人なの。」

一瞬どうしようかと思ったけど、
イケダ先生の笑顔には有無を言わせないところがあった。

飲み物も飲み始めたばかりだし、
すぐに席を立つのも不自然だ。

「あ…、どうぞ。」

どうしてそんなことを言ってしまったのだろう。
気まずいだけなのに。

そんなことを思ったけど、
もう仕方が無い。
それに、イケダ先生がどういうつもりで私と同席したいのか、
何となく何かあるような予感がした。

マナのクリームソーダを私の隣に置いて、
マナにこっちにおいでって、私の隣に来るように言った。

「ありがとう。」

イケダ先生はニッコリと笑って、通りかかったウェイトレスにコーヒーを頼んだ。

「タルト、美味しそうね。」

歳を取ってからも綺麗な人だな…
私はボンヤリとそんなことを思った。
しゃべり方のせいかもしれない。

「何だかクリームとかイチゴが無性に食べたくて。
妊娠前にはイチゴタルトなんて自分から頼んだこと無かったんですけど。」

私も働いているので、
その場の社交辞令的返事がスンナリ出てくる。

「そう…。
いいわね。私の時は、本当に子供がオナカにいるだけで苦しくて、
何も食べる気にならなかったわ。」

ウェイトレスがコーヒーを運んできて、
イケダ先生の前に置いた。

食べるのを見られるのが落ち着かなくて、
紅茶をポットからカップに注ぐ。
イケダ先生がコーヒーを飲むのと同時にタルトを頬張る。
美味しいけど、何だか落ち着かない。

この、イケダ先生の、
落ち着いた感じの雰囲気が、
私は昔から苦手だった。

「ママ、さっきの塗り絵していい?」

クリームソーダをさっさと飲み終わったマナは、
ここにいることに飽きたらしい。

私はさっき買った小さな塗り絵と色鉛筆セットを、
カワイイキャラクターの袋から出してやった。
与えるとマナは黙々と色を塗り始めた。
マナのこんなところは、外食慣れしていてありがたい。

「上手ね。」

イケダ先生は穏やかに微笑んで言った。

「うちの息子は、ゲームばかりしてるわ。」

「あ、そうなんですか?」

スギモト先生とイケダ先生はデキちゃった結婚って聞いていたけど、
やっぱり本当に子供がいるんだ、って実感した。
男の子だったんだ…と思った。

「ええ。持ち歩けるやつ。」

これ以上聞かない方がいいと思いながらも、
黙るのも変な気がして無難な言葉が口から出る。

私は怖いのだと気付いた。
沈黙が、当たり障りの無い会話以外のことを引き出しそうで。

「何年生なんですか?」

「一年生。」

マナは気に入って持ち歩いているピンクのバッグから、
ウサギと綺麗なガラスの宝飾がついた指輪を出してはめた。
いつの間に持ってきていたんだろう…と私は思った。
さり気なく、イケダ先生に褒めて欲しいらしい。

「女の子らしいのね。」

「そうですね。ホントに女の子チックなカワイイものが好きみたいで…」

このままありきたりなことを話して席を立ちたい。

私は急激にそう思った。

これ以上、イケダ先生がどうしているのか、
聞きたくないような気がしたから。

「あなた、スギモトと私のこと聞いてる?」

いきなりイケダ先生が言った。

「ええ…まあ…」

「そう…。」

先生はコーヒーを飲んだ。

「ミゾグチさんは、マツシマさんと仲が良かったわよね?
今でもそう?」

私は紅茶を一口飲んだ。
すぐに返事をしない私を、
イケダ先生はどう思っただろう。

「今でもマツシマさんと会ってる?」

「今は会ってないです。」

「そう…。
いつから会ってないの?」

心臓が音をたて始めた。
マズイと思った。
もっと早く席を立てば良かった。

イケダ先生は、
どこまでスギモト先生とマッシーのことを知ってるんだろう?

「ごめんなさいね。
探るような言い方して。
でも、いっしょなんでしょう?スギモトと。」

「わかりません…」

私がそう言うと、
イケダ先生はぼんやりと空中を見てるのか、
私を見ているのか、
わからない目をした。

「私…
知ってるの。」

私に言ったのか、
独り言ともとれるように、イケダ先生がつぶやいた。
そして、軽く笑顔を作った。

その笑顔に、
ついゾクリとした。
背筋に鳥肌がたったのがわかった。




前の話を読む

続きはまた明日

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最終更新日  2010年02月05日 08時10分58秒
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