りらっくママの日々

りらっくママの日々

2010年02月10日
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今日の日記




「ある女の話:カリナ100(彼の手)」



目が逸らせないでいた。

イシタニくんも目を逸らさない。
手が強く握られていた。

私は、
イシタニくんの目を見たまま、
首を横に振っていた。

「なんで…」

私は、イシタニくんから目を逸らした。
そして、
首を横に何度も振った。

あの、呪いにかけられた時の、
手の感触が蘇っていた。

イシタニくんは手を強く握ったまま、
ため息をついて言った。

「なんで泣くの…?」

そして、軽く私を抱きしめた。
泣き出した私の体を、
なだめるように言った。

「大丈夫だよ。
なにもしない…」

私はコクンと軽く頷いた。

それしかできなかった。

イシタニくんが、おしぼりを渡してくれた。
そして、抱き寄せた私の髪を撫でながら言った。

「さっき、お父さんがいきなり死んじゃったって言ってたよね…?
心の準備ができてなかったから、
いまだにひきずってるって…。」

私はまたコクンと頷いた。
涙は引いていた。

イシタニくんから、煙草の香りがする。
お父さんに子供の頃、こうしてダッコしてもらっていた記憶が蘇った。
お父さんに甘えていた頃。

「俺、癌なんだってさ…」

私は驚いて、顔を上げて、イシタニくんを見た。

「嘘…?」

「ホント。
結構いっちゃってるらしいよ。
嘘ならいいんだけど…」

イシタニくんは、無理やり笑った顔をした。

「家族に話すように医者にも言われたんだけど、
何だか言えなくてさ。
言わなければ、嘘みたいに平和だし、
なかったことになるような気がして…。
話したら、一気に変わるだろ?

もしかしたら、俺の見たいニュース番組とか、
低俗で子供に悪いようなHな番組とか見せてくれるかもしれないけど、
絶対俺に気を遣うんだろうな…って。
今までと違うようになるんだろうな…って。
きっと、俺がいなくなったことを想定して、泣いたりするんだろうな…って。
自分でいっぱいいっぱいだと思うのに、
そんなのフォローできるのか…俺…自信…無い…よ…」

最後はかすれ声になって、
イシタニくんは静かに泣いていた。
私を抱きしめながら。

「怖いんだよ…
怖いんだ…」

私はイシタニくんの体を抱きしめた。

強く。
強く抱きしめた。

こんなに温かいのに。
こんなにガッシリとしていて、
ちゃんと鼓動が聞こえるのに。

それと同じような速さで、
病気が進行してるって言うの…?

「ねえ、俺ちょっと羨ましいよ、お父さんのこと。
何も考えずにポックリ逝けたら良かったのに…って、
最近思うんだよ…」

しばらく、イシタニくんは静かに私を抱きしめていて、
それから、ようやく落ち着いたようだった。

「お父さんと何を最後に話したか…覚えてる?」

イシタニくんがつぶやくように聞いた。

「最後は…
確か、私と子供たちを家に送ってくれた時で…
私たちの家をジッと見て、
カリナたちは偉いな~って。
ちゃんと自分達でこんな家を持って、ガンバってるんだな…って。
そう言ってた…。
だから私が、お父さんたちが助けてくれるからだよ…って言ったの。」

そうだ…
そう言った。
お父さん、もっと楽できるのに、
私達がいるせいで、こういう負担かけちゃってごめんねって。
めんどくさいでしょ?って。

「そしたら、お父さんが…
子供がいるから、今までガンバれてこれたんだって。
子供がいるのが生きがいだから…って言ってた。
そう言ってたよ…。」

イシタニくんは私の髪をすいて、
そっか…
って、つぶやいた。
抱きしめられた体から、お父さんの匂いがしたような気がした。


「もう…こんなことは無いと思ってた…」

そのイシタニくんの言葉に、
私の心のどこか、
緊張の糸ががキンと張った。

「これは…俺だけが思ったことなのかもしれないけど…」

イシタニくんの声がスローモーションのように、
躊躇した心が、私の心に届いてくる。
頷かないで、ジッとしていると、
決心したようにイシタニくんが続けた。

「もしも、魂のもう半分が異性であるとしたら、
俺は、ミゾグチさんが、
そうなんじゃないか?って思ってた…」

イシタニくんの温かい手が、私の体を抱き、
私の髪をすくう。

そんな…

こんなことが起こるなんて…

私が感じた何かをイシタニくんも感じてたって言うの?

自分の意思ではどうにもできなかった何かを、

イシタニくんも感じてたって言うの?


「俺は…、怖くなった。
もしも、ミゾグチさんが同じことを思っていてくれてたら、
もしも、ミゾグチさんと付き合うようなことがあったら、
俺はきっと、あの頃のミチルと同じように、嫉妬に苦しむと思った。
手帳をさぐってみたり、行動を怪しんでみたり、
不安で仕方なくなると思った。
そう思ったら、ミチルのことが愛しく思えてきた。
これで良かったんだと思う。
だけど…
ミゾグチさんが側にいると心が揺れてたことは確かで…」

イシタニくんの言葉はそこで止った。

私の目から涙がまた出てきたからだと思う。

その涙をイシタニくんの指がぬぐった。

「言葉にすると安っぽいな…」

イシタニくんのつぶやきに、私は首を横に振る。

何かが、私の中で解けていく。

イシタニくんは私の目を見て、
私はイシタニくんの目を見ていた。

イシタニくんの腕が私を抱いて、
強く力が入ったのがわかった。



あれがイシタニくんとの最後だったんだな。

私は手帳を破り捨てながら思う。


帰りのタクシーで、
イシタニくんが、ずっと手を握っていた。

その手にはもう、呪いはかかってなかった。

呪いじゃなくて、
何かの魔法がかかっていたんだと、
その時に思った。

私とイシタニくんを引き寄せる魔法。


家族に話すよ…

イシタニくんが、私につぶやくように言った。

うん…

私が頷いて、
ギュッとお互い手を握った。

もうこんなことをするの、コレが最後だって、お互いわかっていた。

私の家の近くで、タクシーを止める。

じゃあ、元気で…
今日会えて良かったよ。
嬉しかった…
ありがとう。

イシタニくんが淋しそうな笑顔で言って、

私も…
うん。ありがとう…。

って、手を振る。

同じ表情を、私もしてるんじゃないか…って思った。

イシタニくんを乗せたタクシーが、
どんどん遠くなって、
角を曲がっていくまで、
私は道に立っていた。

嘘だよね…

嘘…

嘘。


実感が沸かないまま、家の中に入る。

もうみんな寝ちゃってるみたいだったけど、
心配している証拠に、
玄関に小さく明かりが灯っていた。

ただいま…

温かい心になって、心の中でつぶやいた。

そして、追い炊きをした温かいお風呂に入って、
私は家族に気付かれないように、

イシタニくんを思って、


泣いた。




前の話を読む

続きはまた明日

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最終更新日  2010年02月10日 19時24分59秒
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