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2016.05.11

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ第六十八段　～レッド・プラネット１２　『乳房を求める赤子のように』～　映画『西遊記之孫悟空三打白骨精』によせて

カテゴリ： ◆映画・TV・華流・韓流・ショービズ

↓前回です♪
第六十七段　～レッド・プラネット１１～

★☆★☆
第六十八段

ミックはそれきりジョンの腕の中で気を失った。

ジョンには、以前に同じような仕打ちをシアンから

受けた記憶が残っていた。

ミックもユーリもジョーもそれの一部を目撃していたか、

話しに聞いていた。

働き過ぎの部下の代わりにミックがその日モニター室に居て、

艦長室に乗り込んだのだ。

全く同じようなことが今、行われたのだった。

ネクストというしろもの。

ミックがいつも言っていた。あいつらは人の心を操る。

脳味噌に手を突っ込むんだ。

ユーリもジョーも今もあの時も何が行われたのか

さっぱり理解できないのだった。

ただ、確かにこの王子は魔法使いか呪術師のように

怪しげな術を使うようだった。

彼らは思った。ネクストには逆らうな。特に王子には。

テラが気遣わしげに発言した。

シアンは、ジョンを見た。ジョンは彼を見なかった。

『ここでは殿下がキャプテンだ。どうするか指示して下さい』

ジョンは彼の顔を見ないままに応えた。

ミックはＧに耐えられるだろうか？とシアンはつぶやいた。

でも、下界は僕たちの無事を知りたいはずだ。

よほどのことでもない限り、ここの通信機は使えない。

傍受される恐れがある。この部屋の存在自体を知られたくない。

シアンは立て続けにジョンに話しかけた。

この部屋に準備されている昇降ポッド(クライマー)は、

レーダーやスキャンを妨害する外壁で出来ていて

しかもその素材は大気圏突入時の衝撃で発熱したり発火したりせず

光りを発する恐れはないので、その点は安心だが、

太陽が真裏の目視できない時間帯の今でないと、

ひょっとすると真面目な監視員でも居た場合、

発見される可能性があるのだ。

自動防衛システムの方はと言えば、

火星自治区的には実に残念なことだが一番簡単にクリアできた。

『ヴィジョンはどうなんです？』

ユーリが恐るべき率直さでシアンに訊ねた。

『何か不吉な兆候でも？』

『いや』シアンはユーリを見た。『残念ながら、

見たい時に見れるというものでもないんだ』

『そうなんですか？俺はてっきり』と言いかけて止めた。

長話している場合ではなかった。

『僕がミックと残ってもいい。』

シアンは懲りずにジョンを見つめて言った。

君たちだけが先に降りて、下の連中に状況を知らせて。

そうしよう。

シアンはてきぱきと皆に言った。

『ミックは柔な男ではない。彼を連れて皆で一緒に降りよう』

ジョンは口をはさんだ。指示に従うと言ったのに。

彼は言ってしまってから後悔したが、遅かった。

シアンに対して、腹を立てていたのだ。

彼はミックを抱きかかえ立ち上がった。

『あなたがミックに何をしたにせよ、

たかが火星のＧくらいで死ぬほどのダメージを

与えたわけではあるまい。』

それは意地の悪い言い方だった。

シアンはその言葉の内容よりも、ジョンの意図に傷ついた。

ジョンはシアンに怒りをぶつけようとしていた。

そして、それは無理もないことだった。

大切な部下が痛めつけられたのだ。

彼は唇を噛み締め、唇は真一文字になった。

『いつか、全ての理由は分かるよ』

彼は、呟いた。

シアンのその表情にジョンの胸が締め付けられた。

遠い、暗い記憶が沼地の底から這い昇って来て、

鉛色の泥面から片手をずるりとのぞかせた。

ジョンはこの状況に覚えがあった。いつ？

既視感？視界が大きく歪み頭がくらっときた。

いつも心に溜まる何か。言い尽すことのできない状況。

信じたいのに信じられない。愛したいのに、憎しみが勝る。

そんな時があった。いつ？

『急ぎましょう』テラが差し迫った声で皆を急かした。

逡巡している場合ではなかった。

部屋の四方の壁の一面だけがぽっかりと開いて

球形の昇降ポッドがその奥に姿を現した。

小さく見えたが、

実際に乗り込んでみると後三人は乗れるようになっていた。

球の中心点に向かってぐるりと壁面に並んだ椅子に座り

シートベルトで自分の身体を固定させた。

内部はおそろしく簡素な造りだったが、

シアンたちが落ち着きはらっているので、

他の人間も不安がる理由はなかった。

下界に向かってポッドは撃ちだされ、

それは臍の緒のようにロープでステーションに繋がれており、

するすると伸び続けた。

窓はなく、ただＧの僅かな変化から、小刻みなブレーキを掛けながら

落下していくのが判断できた。

ジョンの隣りでミックはＧに苦しむことなく、

痛ましい眉間は寄せられてはいるものの

おだやかに眠っているように見えた。

その隣りにシアンが座っていた。

彼もＧに耐えながら心配そうにミックを見ていた。

シアンはミックを苦しめはしたが、

それはミックがシアンに対して

非常に無礼だったからにほかならないし

実際、死罪になってもなんら不思議はなかった。

ただ、ミックは失神する寸前には、

シアンを理解する様子を見せていた。

とはいえ誰にとっても彼等ふたりの会話は

到底理解の及ぶ内容ではなかった。

シアンはドールであり、昔ネクストだった。

そして、アレクに溺愛されている世継ぎでもあった。

その全ての身の上が、彼を不気味に見せていた。

シアンは確かに特別の才能と身分故に尊敬されてもいたが、

大抵は大部分の人々から恐れられうとまれる存在だった。

ジョンは突然シアンにあわれみを感じ、

彼に辛く当ったことを申し訳なく思った。

彼との甘い口づけを思った。

彼のあけっぴろげな愛情表現。

腕の中で乳房を求める赤子のように性急にジョンの唇を求めた。

その健気さを思い出し、

その記憶は思いがけず今になってジョンの胸を打った。

シアンの座席の肘掛を握り締めている手を握ってやりたかった。

彼は、危険な分化期に入っているんだ、

もし彼が言っていたことが真実ならば。

たったあれだけの出来事で、生命の危機にさらされている。

そうだ。なんてことだ。もうもどれない。

『もうもどれない』その言葉が現実感を伴って

ジョンの心に爪を立てて住みついた。

彼にとってかつて経験したことのない精神状態だった。

痛みを伴うその思いは、不快ではなかったが、

油断すれば覆いかぶさってくるほど大きく、

恐ろしかった。

つづく

↓次回です♪
第六十九段　～ソフトランディング～

下記の

↑
からどうぞ♪

ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン　以上全部同じ人（笑）

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪

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Last updated 2017.02.03 15:37:20

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すみれゆきの

いつのまにか母娘でやることになったブログです。娘は主に音楽関係を2017.04あたりから担当。 '17.07.22現在『アジアの音楽』『アジア以外の音楽』の両カテ以外の音楽の記事は娘です。私は映画やドラマなどを中心に気功や太極拳などの情報ファッションや猫や人間の健康に関することなどを発信してます。混乱します？そうでもない？娘は几帳面。私はイイカゲン。そんな感じの見分け方で(笑)

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