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2017.01.26

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ第百二十六段　～ササナキ～　映画『西遊記之孫悟空三打白骨精』によせて

カテゴリ： ◆映画・TV・華流・韓流・ショービズ

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第百二十五段　～少年と少女～

★☆★☆
第百二十六段

それからやはり

ふたりの汗が乾き切らないうちに

ジョンはシアンと見た夢の内容のほとんどを

忘れたのだった。

シアンはがっかりもしたし、少し安心もした。

その意味を悟ったなら、

ジョンは二度と彼を抱かないような気がしたからだ。

コーガイジの言った通り

ジョンが思い出せないのはある意味都合が良かった。

ただ、それはそれとして

彼の記憶の解凍が上手くいかないのは、

繰り返された洗脳が原因に違いない、という点において

無視できない懸念ごとではある。

どこかにブロックがあって、それはひとつやふたつではないはず。

彼の記憶回復の妨げになっており

その他にも今現在を記憶することすら困難にしている。

多分、そのうちのひとつは殺しに関することだ。

彼が殺しをためらうようなことがないように働く。

『殿下』

その時ジョンがけだるさの中から責任感と忠誠とを懸命に思い出し

口火を切った。

そしてアレクの機嫌を損ねたくなかった。

とにかく昨日の約束は果たしたのだ。

それにいずれにしてもシアンは、男になる。

自分が伴侶である必要はない。

どこかからヘテロの姫君を連れてくればいい。

アレクの望み通りに。

『殿下は皇帝陛下の選んだお相手と結婚なさるべきです。』

彼は言った。

『いやだ』

シアンは跳ね起きた。

『どうしてそんなことを。

今、確かめ合ったばかりじゃないか。

僕らはうまく行く。』

強く攻める口調だった。

ジョンも起き上がった。

『そんな問題ではないのです。

あなたは王子なのですよ。

あなたの結婚は世間一般の人間の結婚とは

意味が違う。

妃殿下は皇帝陛下のお望みの方をお迎えになるのです。

それでももし私が必要な時は、いつでも私をお召しください。

殿下の許へ必ず参りますから』

『いやだ』

シアンはジョンに身体をぶつけるようにしてしがみついた。

『絶対いやだ』

ジョンはシアンの両肩をつかみ、

引き離すと彼の目を覗き込むようにし強い口調で言った。

『いいですか？

今から私の言うことをよくお聞き下さい。

陛下は私との婚儀をお許しになることはない。

そして許さないのは陛下だけではない。

私の正体を知れば

あなた様ですら許す気にはなれないでしょう。

私は生まれつきの人殺しなのです。』

ジョンのその言葉を聞いても

シアンは首を激しく横に振りながら、

もう一度ジョンに抱きついた。

『言わなくていい、ジョン。言わないで。

何も聞きたくない』

シアンは知っていた。全て。

だが、それをジョンには知られたくない。

もしシアンに洗いざらい調べられていることを知ったなら、

ジョンは当惑するだろう。

深く傷つくだろう。

ジョンは表情を厳しくした。

『いえ。言わなくてはなりません。

殿下も知らなければならない。

そうでないなら、フェアじゃない。

私の正体を教えなければ。』

それからジョンはもっと厳しい顔になり

ほっと息を吐いた。

『最初の殺しは四、五歳のころだ。

まだ水星の居住区のゲットーに居た。

忘れはしない。』

ジョンは耳を塞ごうとするシアンを許さず、語り始めた。

ずっと話そうとしていたことだ。

自分がどれだけシアンのパートナーとして相応しくない男か。

知ってもらわなければならなかった。

俺は殺人鬼だ。

『だが、自分のしでかしたことに気がついたのは

奴が片目に焼肉用の串を突き立てて転がっている姿を見た時だ。

私の手も身体も血でぬるぬるだった。

奴が私に与えた肉を食うのを邪魔をしたんだ。

その時から記憶がない。

意識が戻った時、私はそいつの太い首に馬乗りになっていた。

あいつの両目はめった刺し。

私がずっと思い描いていた通りの死にざまだ。

いつも夢に見ていた。

あの男のそんな死を。

幸い奴らは建屋の外の人気の無い場所で私に会おうとする。

目撃した者はいない。

行くあてもないからしかたなくゲットーに舞い戻ると

血で汚れた私をこっそり誰かが洗ってくれた。

その男は私を自分の上着でくるむと洗い場に連れて行った。

「外で遊ぶなと言っただろ」奴がそう言ってウィンクした。

とんでもない悪さだったのに、それを許されたような気がした。

それからは、次々と殺した。

憎んでいた連中を。

私は子供だったし、その上小柄だったから

警戒する者はいない。

だから簡単だった。

隙をついて目を刺す。脳味噌まで。

記憶にある殺しも、無い殺しもある。

無い方が多いかもしれない。

いつか憎い相手は全員殺し終わった。

そして私は少し大きくなっていた。

もう誰も私に手出しする者はいない。

すると殺しの依頼が入った。私を洗ってくれた奴だ。

一も二も無く依頼を受けた。

それからは次々だ。大人からも子供からも頼まれた。

はした金で殺した。

どうせ相手は悪党だ。

それに何人殺しても私は捕まらなかった。

ゲットーでのことだから、

そんなこと誰も気にしない。

その内には水星は焼かれて金星で難民キャンプ住まい。

そこでも私はいっぱしの殺し屋だった。

十三でキューザック家に養子として入るまで

私は食い物のために雇われ続けた。』

ジョンはうすら笑った。

彼の目がいっとき、シアンの初めて見る光でぎらついた。

シアンは寒気がして彼の身体を強く抱き締めた。

『ジョン。愛してる。君が人殺しであっても

僕は構わない。もちろん

もう殺して欲しくは無いけどね。』と言った。

気持ちのままを言っているように聞こえた。

それは冷静な反応と言えた。　

もう少しシアンはうろたえると考えていたので

驚きもしたが

心のどこかで予想はしていた。

世間知らずなのだ。

ドールに現実味を求めても無駄か。

ジョンは

シアンの胸に押し付けられた頭を動かして上向き

彼の顔を見ると、目が合った。

同情を含んだ優しい目だった。

どこまで呑気な男だ。

ほんとうに馬鹿なのか。

シアンの頭には

普通の人間とは違う"ろくでもないもの"が

脳味噌のかわりに入っているに違いない。

何を言ったところで徒労？

すると王子の顔が降りてきて、ジョンの額に口づけた。

王子は彼のために泣いていた。憐れな親なし子のために。

ジョンは無力感に襲われシアンの理解を半ば諦め

恋狂いの男に誘われるまま

またベッドに横になり

きつく抱かれていたので仕方なく

年下の男の胸に顔を押し当て胸の鼓動を聞いた。

熱のある人間の少し早い鼓動。

虚脱し途方に暮れて、しばらくそうしていた。

すると別の音が聞こえてきた。

いぶかしみ、いっとき耳を澄ませていると

不思議なことに心が凪いできた。

殿下。

ジョンはそっと呼んだ。

シアンがぼんやりと目を開いて、

ジョンを見た。

『歌っているのですか？』とジョンは訊ねた。

え？とシアンは首を傾げた。

『殿下の胸から聞こえてくるんだ。

かすかな振動のような、抑揚のある

ハミングのようなリズムが。

今も聴こえている』

ああ、

とシアンは顔に少し驚きの混じった微笑みを浮かべた。

『笹鳴きだ』

『ササナキ？』ジョンはオウム返しに訊いた。

『牧場の人たちが

笹鳴きとか、喉鳴らしとか言ってたよ。』

と言った。

そしてポツリポツリと続きを語った。

『幸せを感じた時に自然に身体の何処かが振動して

歌うような音が出るんだって。

ドールなら誰でも鳴く訳じゃないんだ。

そして誰にでも聞こえるわけではないらしい。

ジョンには聞こえるんだね。

父にも聞こえたんだよ。

アズールも笹鳴きしたんだって。

僕の笹鳴きとは違うと言っていた。

でも、僕の笹鳴きもとても気分が良くなるって。

庭に僕がいても、遠く離れた執務室の彼には聞こえたんだ。

不思議だよ。

ひょっとすると、今宮殿で聞いているかも知れない。

もう随分以前の話だから

懐かしがっているかもね。

僕が幸せかって？

もちろんだよ。凄く幸せだ。』

シアンは乾きかけた汗と涙で

石蝋の薄紙が貼り付いたようになっている頬を

くしゃっとほころばせた。

つづく

↓次回です♪
第百二十七段　～花の壺～

下記の

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑
からどうぞ♪

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2018.07.15
ウイリアム・フォン　馮紹峰　#冯绍峰#　
フォン・シャオフォン
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に関する記事のまとめ。
常に未完

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Last updated 2018.08.07 07:10:06

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すみれゆきの

いつのまにか母娘でやることになったブログです。娘は主に音楽関係を2017.04あたりから担当。 '17.07.22現在『アジアの音楽』『アジア以外の音楽』の両カテ以外の音楽の記事は娘です。私は映画やドラマなどを中心に気功や太極拳などの情報ファッションや猫や人間の健康に関することなどを発信してます。混乱します？そうでもない？娘は几帳面。私はイイカゲン。そんな感じの見分け方で(笑)

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