養老孟司

養老 孟司


テレビで見て、なかなか面白い事を言うオジサンだな、と思いました。
解剖学者だそうですが、なんだかとっても哲学的、という印象。
今までずっと抱えてきた、私の中のモヤモヤした、疑問・自問。
その答えをぽいっと投げかけてくれてるような、そんな本たちを書いてます。
一般論から、少しズレているかもしれなくて、
「理解できない」「難しい」「だからどうしろっての?」
と言われるような事も多々書いてある気がしますが、
私から見た角度と、結構似ていて、
疑問に思う事や考えていた事、それを30年近く考え続けた、
この人なりの答え、達した結論を書いてくれているのは、
まさに年の功とも言うべき境地です。
養老さんは養老さんなりの答えを書いているだけであって、
それを鵜呑みにせずに、『私なりの答え』は私が出さなきゃいけません。
けれど、その『答え』を導き出す方程式みたいなものを参考にしたいと思います。
そこら辺の、哲学だの心だのというテーマの本より、
考える事、それを解く事を与えてくれる本だと思います。
なんだか、『バカの壁』も『死の壁』も、
日頃悩んで、答えが出なくて、一生懸命押し込めてた自問に、
ポイって、形にしたものを放り込まれた感じです。
自分で、「くだらない事をうだうだと。悩むな。蓋しとけ」って叱咤してた事を、
「そんなの当たり前。答えが出なくてもそれもいい。悩むのも当たり前」って、
背中を押された感じで、なんだか肩の力が抜けたようでした。




バカの壁
他人に借りて、初めて読んだ著書です。
養老孟司語りおろし、後藤裕二氏が文章に起こした作品だそうです。
この本は有名ですね。
初めて読んだ時は、よく意味が分からなくて、興味が無かったんですが、
(当時、一番うつ病の状態が悪化している時期でした。)
改めて読んでみると、
なんか、私が疑問に思ってた事を、他の人も考えてたんだ、
くだらないの事をうだうだ考えてるのかな、と思いながら考え続けてた事も、
考えても良かったんだ、という安心感と、
この人なりの答えを出されて、ちょっと目の前が開けた感じがしました。
なんというか、すごく浮上しました。

あれは、精神病患者のためというか、私のような”バカ”のための本ですね。
養老さんは「話せばわかるというのは嘘」と書いてるくらいなので、
私の解釈が、養老さんの言いたい事じゃないかもしれないし、
他の人は、全く別の感じ方をするのかもしれない。
けど、私はなんだか、本の言葉が、ツルンと入ってくる感じで、妙な気分でした。

今の私はうつ病のせいで、”無意識”がストレスを受けると、それがダイレクトに返ってきて、
普通の人なら”無意識”を意識なんてしないのに、私は表面化してきてしまってる。
だから、『人生の1/3は無意識』という言葉が、ものすごくよく分かって、
その”無意識”が負った傷や痛みを”意識”上で感じてしまう。
だからこそなのか、この本の言葉が、とても分かり易かった。

私はいつも、「わからない」「なんで?」の繰り返しで、
壁にぶち当たっては悩み、なんとか越えたかな、って思ったらまた壁にぶち当たり…。
以前、ある人に言われました。
「君はすぐ、目の前の壁にバコバコぶつかってる。もっと遠くを見ろ。」って。
壁の向こうに道がある、って思うから、私はいつも悩む。
でも、それが合ってるのかどうかなんて、自信はいつも皆無。
けど、この本で、『人生は重い荷物を背負って、崖っぷちを登ってるようなもの』ってあって、
ああ、それでもいいのかなって。
『悩んで当たり前』とも書いてあって。
すごく楽になった。
他人の気持ちが分からなくて悩んだけど、それも当たり前だって。
悩む事も大事なんだって。
たとえ、養老さんの言いたい事とは違っても、
悩んでる私も、泣いた私も、今なら肯定できる気がした。
間違いじゃない。ムダじゃない。
私が生きている事も、間違いじゃないって。

私は、「生きる意味がわからない」って言っていて、考えて、
ずっとずっと探してて、それでも見つからなくて、
「人生って何?」「生きる意味って何?」っていつも思ってた。
見つからなくて、苦しくて、死んだら楽になれるのにって思って、
今度は「死の意味」「何故死んだらいけないのか」を考えるようになってた。
でも、『人生の意味を探す』っていうのは大切な事、って書いてあって、
自分を、私の今までを、肯定された気がしました。
私は自分が嫌いで、だから、自分の存在も、自分の考えも否定してしまって、
人生の肯定なんて出来なかった。
だけど、ムダじゃないんだって思えた。

「個性というものは作る物ではなく、個々の身体自体が既に個性的なもの」
という一節は、結構衝撃でした。
目から鱗、とでも申しましょうか。

あと、常々考えていた、『常識』というものの定義。
「日本では雑学が『常識』として闊歩している」という一文に思わず頷いた。
共同体としての世間を見渡す姿勢など、参考になります。

多分、読むたびに違う印象や考えを見つけられる本だと思います。


死の壁
『バカの壁』の続編とも言うべき作品。
『バカの壁』同様、養老孟司語りおろし、後藤裕二氏が文章に起こした作品だそうです。
今度は『生と死』をメインテーマに取り上げて言及しています。
医療従事者から見れば、バイブルになりそうな本だと思います。
普通の人が読むと、「何言ってんだ、コレ??」と、もしかすると思うかもしれません。
感想を聴きたいな、と思います。
私と他の人のズレを認識したい、と言いましょうか。

率直な、私の感想。
なんだか、胸の中のモヤモヤを箱に入れて、開かないように缶詰にしてたのを、
「よく視てみなさい。」って缶詰の蓋を開けて、渡された気分。
いつもわだかまっていた事、悩んでいたこと、
「そう、私もそれが言いたかったの。聞きたかったの。
 答えが出なくて、悩んでいたの。苦しかった。
 けど、それも無駄なんじゃないかって思ったり言われたりして、考えることに蓋をしてた」
って思いました。

私がずっと、かれこれ6年間悩んで、苦しんでいた事について、
養老さんなりの答えを提示してくれている本でした。
おかげで、ものすごく楽になりました。
何かと言うと、まず、「死体」について。
私の職種上、「死体」や「人体組織」などを「検体」として取り扱う必要があります。
人間の剖検(死体の解剖)の時、私は『第三者の死体』として捉えていて、
それが「モノとして扱って(思って)いるんじゃないのか」っていう悩みになった。
ヒトだった死体。ヒトの形をした死体。もう動かない死んでいる死体。
けれど、誰かにとっては、それはただの死体じゃなく、
「大切な家族」だったり、「特別な人」だったりするハズだって事も分かってて、苦しかった。
平気で見れる自分は、どこかおかしいのかと思った。
『死体とは何か』、それを考える自分はおかしいのだと思ってた。
解剖を、標本を、人間の一部を、平気で見られる自分が、壊れて見えた。
「あぁ、私は人間として大事な何かが欠けている、おかしいんだ。狂ってる。」
という悩みになっていました。
それについて、書いてあったのです。
「一人称の死体」…ない死体、自分の死体は見られない。
「二人称の死体」…死体でない死体、親しい人の死体。
「三人称の死体」…死体である死体、アカの他人の死体。
ああ、そうか、と思いました。
この事を、この気持ちを、言葉で表すなら、そう。
私と同じ事を考える人も居たんだ、そして自分なりに答えを出した人が居た。
『死体をモノとして考えないから、人間をモノとして見ないから、こういう考えに至る』
すぅっと、胸に沁みるように、言葉が入ってきました。
ずっと、考えてきて、答えが出なくて、蓋をして、でも苦しかったこと。
涙が出た。
自分の中の定義づけが、6年目にして、やっと出来たんです。

あと、自分の中で曖昧だった、『死』というものの定義づけも、
改めて考えさせられました。
これは、私なりになんとなく、定義づけがあったんですが、
それを当たり前と思うのは、違うのかもしれない、と。
逆に、いつも考えていた『生』についても言明していました。
「生と死の境界は、簡単ではない。とても曖昧だ」と。
脳死判定に関わる事も、時としてあるかもしれない私にとって、
とても衝撃でした。

「どうして生きなきゃいけないんだろう?」
「どうして自殺しちゃいけないんだろう?」
何度も繰り返してきた自問でした。
『自殺は殺人の一種であるから』
『自殺が周囲の人に大きな影響を与えるから。二人称の死を与えてしまうから』
上の答えは、以前、友人に言われた事があります。
下の答えは、私なんかが与える影響は微々たるものだと思っていたから、
自然に自分の中で抹消してた。
だけど、この前、祖母が死んだ時。
二人称の死体を、見て触れて。
二度と逢えなくなった時。
ストンと、自殺はダメだっていう思いが、小さく胸に灯った。
今まで七転八倒して考えて、苦しんで、悩んできたこのテーマに、
ぽん、とようやく納得出来る答えを、目の前に置かれた気分でした。

私はすぐ、悩んじゃうんです。
しかもぐるぐると。
くだらない、と思ったりもするけど、自然に湧いてくるものだから、やっぱり悩む。
『悩むのも才能のうち』
『悩めない人間だってたくさんいる。そういう人がバカと呼ばれる』
『悩むのは当たり前。』
って書いてあって、なんか、ホッとしました。
悩むのはいけない事だと感じていたから。
またネガティブなのかなって、思えて。
けど、悩むのはいいんだ。答えを出すために考えても。
悩むことも才能だなんて言う人がいるなんて、思いもしなかったけれど。

やっぱり年の功ですね(^-^)
読み終わって、ものすごく、スーッとした気持ちになりました。





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