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2008.04.07
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ヤン・シュヴァンクマイエル 作品。
エドガー・アラン・ポーに敬意を払いつつ、マルキ・ド・サドを取り入れたという、哲学ホラー。

とある精神病院を舞台に、真の自由と抑圧の相克の中で、主人公が体験する狂気の世界を、実写とアニメを駆使して描く―――。

冒頭から、これはホラーであり、ホラーならではの 落胆 を届ける――という監督自身の解説があります。
ギリシャ神話の ナルキッソス を持ち出し、芸術性はないと説く。自己満足で、広告的な部分だけが残った、と。
そこまで言うけれど、それは謙遜のしすぎではないでしょうか。

監督が作品を通して挑戦しているのは 触覚の芸術 だそうですが、匂いも手触りもわからない映画は、それとは反対の媒体のはずです。
でもあえてそれを選ぶのは、やはり挑戦なのかもしれないし、絵や作品をアニメーションとして 動かしたい・命を吹き込みたい という衝動なのかもしれません。

00.jpgsileni-2.jpg

精神病院で母親を亡くしたベルロ(リシュカ)は、その夜から、拘束服を持って襲ってくる看守の悪夢にうなされます。翌日、病院から自宅に戻る途中で知り合った侯爵(トジースカ)に気に入られたベルロは、彼の城へと招待され一夜を過ごすのですが・・・。

奇妙な城で夜ごと行われている、自由主義を唱える禁断の儀式。神への冒涜。
慌てて逃げ出そうとするベルロは、これが犯罪であるとしてなにが問題か! そう怒鳴る侯爵に抗うことができません。

275a7bd4.jpg38SILENI 001a.jpg

神を キエラ(幻想) と呼び、イエス像に釘を無数に打ち込む侯爵の姿は、監督自らの投影なのかもしれません。

チェコでは、58%の人が無宗教であるそうなので、自分と変わらない程度の捉え方、影響力と思って差し支えないのでしょうか。

散々怒鳴り散らした後、突然息を引き取る侯爵。ベルロは執事とともに、地下へ遺体を埋葬しました。
そうして迎えた、疲労しきった朝。彼の前に現れたのは、ピンピンとした侯爵の姿!
じつは死んだフリをしていただけで、何もかも精神病院でのセラピーであるというのです。毎夜の悪夢を治すという名目で、ベルロはその精神病院へと、連れて行かれるのでした。


病院での出来事はなにもかもが倒錯しています。

しかし実際は、病院は侯爵と偽院長に占拠されていて、本物の医者や看守は地下に監禁され、それを教えた当のシャルロットさえ、純情を演じているだけの、まさに全てが狂気、乱気。

間に、動物の肉や目玉や舌が動き回るシーンを幾度も挟み、人間を精肉として描写する手法は、コミカルかつシニカルで、おかしくも恐ろしい世界でした。
内的な世界で戯れたことのある人にしか作れない、その世界は、ドップリと浸かってしまえば、自分の精神にまで侵食してきそうな危なさを感じずにいれません。
抜け出せなくなりそう。
ニーチェの本を読んだときに、ぐらぐらと心のバランスが崩れるのを感じたみたいに、 入るな危険 的な匂いがプンプンとしていました。

結局は、唯一まともに見えてきた主人公さえ精神を病んでいる・・・という定石どおりの筋書きで落ち着く物語。
びちゃびちゃという肉の音、食べるシーンの多さ、くちゃくちゃと噛む音、汚さすべて、嫌悪を催さずにいれない断片の寄せ集めとなっています。

2005年に製作された本作。この年、妻であり、美術・衣装を担当していたシュヴァンクマイエル氏の良き伴侶エヴァが亡くなり、彼女にとっては遺作となった作品でもあります。


・・・・・・・・・・・・・



 製作/  ヤロミール・カリスタ
 撮影/  ユライ・ガルヴァーネク
 美術・衣装/  エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー
 出演/  パヴェル・リシュカ  ヤン・トジースカ  アンナ・ガイスレロヴァー
      ヤロスラフ・ドゥシェク  パヴェル・ノーヴィ

 (カラー/123分/SILENI)









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Last updated  2010.05.13 11:12:47
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Re:【ルナシー】 2005年 真の自由への道は険しい(04/07)  
ベティ333  さん
チェコって思いっきり漫画のせい(MONSTER)だけど、暗いイメージあるんですよね。
それにしてもこの左の写真はなんでしょう??
舌?
これは無理っす~! (2008.04.07 18:44:41)

先日のヤン・シュヴァンクマイエルですね  
racquo  さん
精神異常、そこまで言わなくとも精神感覚過敏というのは、
我々が正常と呼ぶものと表裏一体の関係にありますね。
その表裏のバランスを保っている人を正常な人と言う。
でもこの内的感覚過敏の世界というのは、
生の否定であるよりも生の根拠かも知れない。
そういう世界を心理という頭の世界として描くことはよくあるけれど、
もっと「触知できる」、つまり頭とかいわゆる感性とかではなく、
皮膚感覚のような直接五官に訴えるものとした作品、
そういった感じでしょうか。
内臓に訴えるといった感じでもあります。

我々が一般的に生理感覚として嫌悪するものがあって、
例えばミミズでも虫でも、そういうものが映画で描写されると、
人々は「悪趣味」と批判する。
しかし嫌悪するというのは強烈なインパクトであって、
無関心とは別のもの。
じゃあ何故そこに人はそこまでのインパクトを持つのか。
ここにはやはり人間の真実があって、人間を解く鍵でもありますね。

サド侯爵の名前が出ていたけれど、サディズムというのは、
サド行為を行う者が、対象に自己同化をするという間接的マゾヒズムとも考えられる。

とりとめがない文だけれど、感じたこと、というか良く思っていることです。
(2008.04.07 21:26:51)

ベティさん  
はる*37  さん
>MONSTER

そうでしたね。すっかり忘れていました!面白かったのに!
チェコスロヴァキア、確かにMONSTERでは暗いイメージでした。
その他なら、人形劇を思い出します。

写真は舌です、牛の。
とてもおすすめはできない作品かも。。
私は好きだったりしますが^^ (2008.04.08 10:01:14)

racquoさん  
はる*37  さん
>生の根拠かも知れない。

だからこそ気になる、見たい衝動に駆られるのでしょうね。

>直接五官に訴えるものとした作品、そういった感じでしょうか。

そうでした。
内臓に訴えるという言葉が、一番当たっているような気がします。
食べる音や、羽毛と埃舞うシーンでは、鼻がムズムズ。
目以外の感覚も嫌悪という衝撃を与えられ続けて、まさに生生しい作品でした。

>ここにはやはり人間の真実があって、人間を解く鍵でもありますね。

知りたいと思うからこそ、気持ち悪くても、シュヴァンクマイエル作品を(映画に限らず)観る人が絶えないのでしょうね。

>サド侯爵の名前が出ていたけれど、サディズムというのは、
>サド行為を行う者が、対象に自己同化をするという間接的マゾヒズムとも考えられる。

マゾもサドも、美も醜も、それぞれの極端がなければ成り立たないんですね。 (2008.04.08 10:12:55)

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