海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(5)

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六角坊と東風斎らの奮戦もあって、これも撃退した。よく組織された鉄砲隊、弓隊、槍隊がそれぞれの力を発揮したので撃退できたのだった。火はあちこちに炎を見せていたが、水夫たちに消しとめられた。そして、血のりのついた甲板の上に滑り止めの砂がまかれた。死体は脇にどけられ、けが人は船底に下ろされ、船医師(ふなくすし)が治療に当たった。傷を負った海賊らは、南海丸から海に飛び込んで逃れた。
 助左衛門はこの小さなよく動く邪魔な海賊たちの舟を、大砲に鉄砲の鉛弾を詰めさせ、一艘ごと狙わせた。
 「六角坊に東風斎、大砲の方たのむでぇ。小頭をしっかり監督してや」
 「へいへーい」
 二人は返り血で真っ赤になった、体をゆすって、大砲の間を走る。
 「よーし、ちょっと待て、もうすこしひきつけて、よし撃て!」
 すぐ近くまで引き付けて撃たせたので、多くの舟が大破し逃げ去った。
 最後に決戦の相手となったのは、少し向こうに離れて戦況を見つめていた司令船らしい大船だった。二十挺の大砲を備えており、ゆっくり近づいてきた。南海丸はいち早く風上の位置をとり、左にかわすようにみせかけて、今度は急に右に進路をかえた。
 「ぶっ放せぇっ!」
 助左衛門の身振りと太鼓の合図で六角坊は叫んだ。左舷の全砲が放たれた。その反動で船は右に傾いた。敵船も片舷全砲を放った。敵船からの砲弾は三発、南海丸に当たった。二発が後柱の帆桁に当り、上段の帆が落ちてきた。一発が南海丸の船腹に穴を開けた。南海丸の砲弾は数発がかたまって、敵船の喫水の下のいいところに大穴を開けたようで、海水が滝のように流れ込んでいるのが見て取れた。ジャンクの船底は七つの倉に仕切られていて、丈夫な隔壁を持っているので、沈むことはない。
 「ええところに当たったなあ」
 六兵衛は助左衛門の横で敵船を見ながら言った。
 「ほんまや、六角坊が走り回って狙いを定めたのがよかったみたいや」
 「吉兵衛!、船腹に当たった弾はどうなった?」
 「一匹に当たって死なせたようです」
 「いっぴき?」
 「そう、いっぴき。よう太った豚に当たったんですわ。食べごろやったから、丁度よかった」
 「ぶぅわっははは」
 六兵衛は気持ちよさそうに大声で笑った。
                     (続く)



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