海洋冒険小説の家

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(3)上様、いい智恵がござります

     (3)

 助左衛門は殿の傍に寄ってゆき、奉行の四人を手招きで呼び寄せ、小さな声で、
 「これは、なにか、御奉行方の知らぬからくりがあるやも知れませぬ。それで、お尋ね申し上げますが、このような事はいままでにござりましたか?」
 「いや、初めての事でござる」と、九右衛門。
 「ふーん、それでは、城の中が静かなときは現れぬということのようですな」
 「ということは?」
 「おそらく、忍者が現れるときは、何か、音がするのかも知れませぬ。それで、賑やかなとき、音が隠せるようなときに現れるのではありませぬか?」
 信長の殿も話に割り込んできて、
 「そうであるならば、なんとする」
 「罠を仕掛けるのでござります」
 「罠とな?」と、つい大声を出した。
 「お声が少し大きゅうございますぞ。上様。もそっと小さな声でお願い申し上げます。どこに、影どもの耳があるのかわかりませぬゆえ」
 「あい分かった。それで、どうするのじゃ」小さな声で助左衛門に聞いた。
 「別の日にもう一度、賑やかなものを能舞台でするのでございます。さすれば、影どもも、姿を現すでしょう。如何?」
 「うむ、なるほど、それはいいかもしれぬ」
 「それで、あまり先でもなく、近くでもない日、この月の二十七日頃では?」
 安土の三奉行は顔を見合わせて、
 「ちょっと、その日は・・・」
 都合が悪いと言う。
 「では、二十八日は?」
 「それも、ちょっと」
 「二十九日は?」
 「うーむ」
 「あまり日を離しては、上様に不測の事が起きるやもしれませんぞ」
 菅屋九右衛門はあちらこちらの顔色を窺いながら、
 「致し方ござらぬ。二十九日にいたそう。それで、如何ように?」
 「時は今日と同じ戌の上刻、そして、賑やかな囃子ものがあれば良いのでござるが。安土の町衆では盆踊りはしてござらぬか」
 「さあ、しているとは思うが、していなければ何処からでも踊れる者を連れて参ろう。して罠はいかように」
 「それは、そちらの奉行衆で決めてくだされ。打つ手は一つ。まず御城で二十九日に賑やかな盆踊り興行のあることを、触れ回り、敵にも知られるようにすること。二つ目に、お城のあちこちに、腕に覚えのある者をしのばせておくだけでござる。それに、街道筋、脇道にも、兵をしのばせておかれては。火矢の合図で要所をすぐ固められれば、敵を袋の鼠に出来申す」

 そういう訳で、手筈は整い、信長の殿の青筋も収まった。それにしても、二十七日になにがあると言うのだろう。二十七と聞いて、三奉行らは顔を見合わせ、即座に首を横に振って、信長の方をチラと見た。なにか、企んでいるに違いない。まあ、しかし、こちらに関係がないのであれば詮索する必要もなかろう。六兵衛と、瀧のいる納戸の方に行き、一同の者に手短に出来事を話して、すぐ旅宿に帰った。こんな事件は起こったが、商品は、日野屋の広間を借り、あらかた昼間に売りつくして、瀧はしっかり商売は成功させていた。
                   (続く)



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