海洋冒険小説の家

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(3)アントニオ・コレッリの絵



 六月十四日夕、やっと、助左衛門たちは堺に帰ってきた。途中、西八条の小見の公秀殿の屋敷に立ち寄り、次郎丸を引き取って来た。次郎丸は、不思議なからくり仕掛けの鳥や犬などを、すっかり気に入ってしまい、家に帰る決心がつかない程だった。次郎丸には良い経験になったことだろう。
 京に出かけるときに、南海屋で預かった槍や弓矢を、それぞれに返した。そして、みんなは家に帰った。
 「ほんに、ご苦労様でした」
 瀧が声をかけてくれて、なんだか落ち着いた気分になった。
 「風呂にでもはいるか」
 「ええ、いつでもどうぞ、湯はわいています」
 助左衛門は風呂の湯船にゆったりとつかっているのが大好きで、南海丸にも風呂桶を積んでいるほどである。じっと、湯につかっていると、このひと月余り、なんと忙しい日々だったことか。色々のことが思い出された。しかし、なんとか今日まで無事に過ごせたのは、運の強さもあるが、やはり、人と人との信頼による結びつきだ、と思う。
 困った時には助けてくれる仲間がいる。それは、身分など越えたものだ。そして、この仲間の信頼関係はどんな状況になったとしても、守りとおさねばならぬ、と改めて決意を固くした。ふと、瀧のことを思った。この前のように、風呂に入ってくるかな、と思ったが、すぐ、その考えを打ち消した。まだ、宵の口である。人の眼がある。助左衛門は風呂から上がった。
 夜になって雨になった。夕食は二人でとった。瀧が、
 「打毬の館に飾る絵が出来ました、ゆうてアントニオ・コレッリはんが、絵を持ってきました。向こうの座敷に置いてあります」
 「どんな、絵やった?」
                  (続く)



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