海洋冒険小説の家

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(3)南海屋での合議



 さっそくその夜、南海屋で、堺の宿老のお歴々、打毬の仲間、南海丸の主だったものが集まった。広い板張りの広間は、ぎっしり人を呑み込んで、緊張した雰囲気が流れていた。
 大砲組頭の六角坊玄海がさっそく発言した。
 「これが信長の命ならば、わしはこのまま帰るが、堺の町を救うためであるならば、南海丸でみんなと戦う。比叡山の僧、女、子供を皆殺しにした信長への恨みは決して消えることはないからな」
 睨み付けるように言った、元比叡山の僧であった六角坊の言にみんな頷いた。
 「わしは、船には乗れないが、人や物の補給で力になれる」
 明石屋秀五郎が言った。
 堺五ヶ庄の代官でもある今井宗久は、
 「秀五郎殿の言われるとおり、わしら会合衆・納屋衆も全面的に援助いたす。これは堺の町の生死がかかっておる戦じゃ」
 魚屋(ととや)の千宗易も、
 「宗久殿と同じく堺の命運がかかっておるほどの大事じゃ。わしの力の及ぶ限り物心両面で支援いたす。助左衛門殿、何でもゆうてくだされ」
 しばらく、声が途絶えた。この緊張感のなかで、もうこれ以上何を言うことがあろうか、という状況だった。
 助左衛門が口を開いた。
 「それでは、もうご意見もないようでございますので、みなさんのご支援を期待して、後ほど、火薬や鉄砲の弾などの補給について、書状にてお願いにあがりますので、これでお帰りになってくだされ。堺の町はわれわれで守ってお眼にかけますほどに、ご心配のなきよう町の衆にお伝えくだされたくお願いもうします」
 そういいながら、助左衛門はもう、頭の中は、戦の段取りやら、作戦などがぐるぐる回っていた。

 「南海丸のものはここに集まってくだされい」
 みんなはさっと、助左衛門の前に集まった。
 「この戦は、六条の院も死に物狂いでかかってくるであろうから、こちらもかなり痛手をこうむるであろう。そのことは覚悟しておいてくれ。海龍丸は南海丸とほぼ同じ大きさであると聞き及んでいる。大砲も24挺を載せている。このような同じ条件で勝ちを収められるかどうかは、すべて、計略とそれを支える乗り組みのものの、動きの早さ次第だ。配下のものをしっかり掌握して、自由に思い通りに動かしてくれ。この戦に勝ち、ともに勝鬨をあげようではないか。おのおのがた、よろしくたのむ」
 「あい分かった。みんなやろうぜ」
 六兵衛が珍しく声をあげた。
 全員、六兵衛にひきずられるように、
 「やろうぜ!」
 と叫んだ。
                   (続く)




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