海洋冒険小説の家

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(4)黒旗の海賊衆に天神丸襲われる



 六月二十二日、やっと大砲の弾や火薬、鉄砲の弾薬、食料がそろった。乗り組み員はほとんど南海丸のメンバーだった。今回は戦が目的の航海なので少年水夫は乗せなかった。全て助左衛門との息のあったものばかりで、船の操作は万全だ。よく志願して乗ってくれた、と心から感謝した。
 翌二十三日の寅の刻(午前四時)、まだ暗い船の上では水夫たちが活動を始めていた。出航に備えて帆をすぐ張れるようにしなければならない。
 もうじき、空が白みはじめるだろう。そうなれば、陸風に乗って船を沖に出せる。
 突然、見張り台から大声が飛んだ。
 「岸から伝馬船がくるぞ~」
 助左衛門は岸の方を見ると、なにやら小さな黒い塊が近づいて来る。船尾に白い旗がはためいている。警備の足軽たちが鉄砲の照準を合わせた。どうも、堺奉行の舟らしい。こんな時刻になんだろう。六兵衛も訝しげな顔をして助左衛門と顔を見合わせた。
 舟はすぐ着いて、下ろされた縄ばしごを登って、堺奉行の松井友閑が上がってきた。
 「おお、助左衛門殿、先刻、紀州より早馬で堺の交易船・天神丸が淡路島沖で、黒旗の海賊に襲われ、船ごと奪われたと言う報せが入った。二日前のことらしい。水夫で海に飛び込んで逃げたものが、紀州の漁船に助けられ、それで分かったのじゃ」
 助左衛門は襲われた場所が大体推測できた。淡路島と紀州との間の海峡は狭いので、海峡の入り口で風待ちをし、順風になるのを待って、海峡に乗り入れる。そのときに、不意を突かれて襲われたのであろう。天神丸は琉球との交易を主にしている比較的小さなジャンクで、大砲などは載せてない。海賊たちにとっては、赤子の手をひねるくらいの仕事だったろう。しかし、黒旗の海賊衆は、続々と播磨に手勢を集めているみたいだ。奪われた毛利の瀬戸内での制海権を奪い返すつもりだろうか。
 いずれにしても、きゃつらが集まる前に六条の院と海龍丸は海の藻屑になってもらわないとこまる。
 「必ず勝ってくだされ、出航前に一度お眼にかかりたかった。では、勝利を祈っておりますぞ」
 松井友閑が心をこめて言ったあと、引き上げていった。
                (続く)




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