水彩画紀行  スペイン巡礼路 ポルトガル 上海、蘇州   カスピ海沿岸からアンデスの国々まで

水彩画紀行 スペイン巡礼路 ポルトガル 上海、蘇州   カスピ海沿岸からアンデスの国々まで

シルクロード紀行


1月8日、安全でサービスの良いルフトハンザ機はシベリア上空を越えて行く。

これから行くカスピ海沿岸のコーカサス地方の多くの国々は、

スターリンによってこの雪原の不毛の地に多数強制移住させられた。

カスピ海の西側、黒海に挟まれたところがコーカサス。

アゼルバイジャン、アルメニア、グルジアをコーカサス3国と言うが、

その上方にも、ソ連に編入された小国がいくつか。

シベリアの冬季の気温は、マイナス50℃を下る厳寒の地。

野生の大地で、奔放に育ったこのコーカサス出身の人は、

スターリンも含めて、良きも悪しも強烈な個性を持っている。

この疑心難儀の小心な独裁者に苦しめられたこの地方の小国。


多くの民族の中には、ソ連崩壊後、子孫は故郷に戻ったが、

自民族の言語を話せないほど長い年月が経っていた民族もいる。


人跡は ひとすじの道 いや雪の河

Alt Stadt=アルトシュタット=旧市街

途中、フランクフルトに一泊。

ドイツへいくと、まず街の人に聞くことは、 Where is “Alt stadt” ?

どの街にもたいてい、このおとぎ話のような美しい家並みがあり、

そこに美味しいレストランがある。

さて、話は、カスピ海を越えた東側、中央アジアのカザフスタン周辺へ。

昔、サマルカンドの近くに,性格の悪いならずものの若者がいた。

シルクロードの隊商を襲っては、戦利品を気前良く部下に分け与える。

35人だった部下はいつしか数千人に、ある都市が警護を頼むほど大きくなる。

当時の中央アジアの国々は、ジンギスカンの子孫が骨肉の抗争に明け暮れていた。

それに乗じて、多くの都市を襲い、敵王の妃を奪って妻とし大帝国の主となる。

刃向かう都市は根こそぎ破壊して砂漠に戻した。

男は殺害、女子供は容赦なく奴隷にした。

2万人の敵の生首を取ってくるよう部下に命じたり、

城攻めの土塁に、敵の捕虜数千人を生き埋めにしたりした極悪非道な王。

その名はチムール。

チムール帝国の大王。

このアゼルバイジャンの首都バクーもそういう戦いの嵐に巻き込まれていた。

チムールは、宗教が違うから許せないと、この国を襲って征服した。

今も敵を防ぐ名残りの城壁が街のぐるりを囲っている。

紀元前の頃には、ペルシャ帝国の王を追い詰めてアレクサンダー大王も訪れた。

若い野心的なアレクサンダー大王は、彫像で見るかぎり

たくましい肢体をもったアポロのような美青年。

しかし、一旦戦いとなると、性格は一変する。

巨大な投石器を作って、城壁を破壊し、 

降参しない城に対しては容赦ない攻撃を加えた。

この城壁はいつ何の為に建てられたのか定かではない。

しかし、この塔の名は乙女の塔。

敵方の若者に恋した乙女の名にちなんでいる。

コーカサスのジュリエットは、

不運を嘆いて、ここから身を投じた。

悲恋の塔。

城壁


カスピ海のそばの国、アゼルバイジャンは、スターリンによって

分断されるまでは、トルコと陸続きで同じ民族だった。

しかし、移住してきた7%のロシア人他、多くの民族との混血と、

厳しい歴史の試練を経て、トルコとは全く異なる性質の民族となった。

忍耐強く、剛直、勤勉、コーカサスの歴史の嵐に耐えてきた風貌がある。

ここは、先ほど、ジュリエットが身を投げた乙女の塔の頂上。

入り組んだ路地は、昔、シルクロードの隊商が通った道。

塔の下には、隊商たちが食事したキャラバンサラという六角の穴倉のようなレストランあり。

今は、七面鳥のシシカバブが美味しいアゼルバイジャン料理の店。


ここ、カスピ海に面するアジェルバイジャンの首都バクーは、

ソ連、トルコ、イランと言う3大国のはざまにあって、

あるときは襲撃され、占拠され、あるときは駆遂し、

去来するさまざまな人種が混血していった。

そんな風貌を少し垣間見れる人々にであった。

まず、バクーの城壁の中の城であった不思議な風貌の少女。


少女

首都バクーにはカフェと称する居酒屋やレストランが至るところにある。

そんなカフェに一人で下りていったら、若者たちに質問攻めにあった。

どこから来た? なにをしている?

そんな若者の中の少女。東洋とも西洋ともちがう風貌。

紙がなかったので、もらったダンボールをちぎった台紙に描いた。

描きながら、こちらも質問。

モスクワは物騒だけど行ったことある?

将来どこの国に住みたい?


城壁に囲まれた旧市街は、冬枯れの木立に、白い色の少ない家々が

並んでいる。

しかし、子供達は、絵を描いていると寄ってきて、東洋の異人の

顔をものめずらしげに眺めて、にっこり語りかけてきた。


コケットリーな女性

久米正雄の「学生時代」という小説がある。

主人公はある時紹介されて、「コケットリーな」女性にであう。

その媚態にあふれた仕草に魅了されるが、その媚態が

友人にもむけられているのを見て愕然とする。

まだ幼かったので、この言葉の意味がわからないでいた。

媚態とか嬌態とかいうのはどういう意味なんだろうと。

それに気づいたのは、大分経ってから。

雪の降りそうな夜に、ひとりで食事にでかけたジャズクラブで、

思いがけず、この言葉にぴったりの女性に出会った。

歌いながら、眼を伏せたり、踊るように歩き回る仕草が

この媚態の連続シーンのような女人だった。

ジャズを聴きにきたほとんどの男性は、

歌より、この「媚態」に眼を奪われていた。


そう言えば、この国は貧しいのに、

街行く女性はみな、厚い毛皮を身にまとい

さっそうと「媚態」をふりまいていく。

色彩のすくない、貧しいこの街に彩りを添え、

ソ連から独立したがゆえに、産業が崩壊し、

給料が半年も払われていない企業が多いこの国の再建に

男性をふるいたたせているのは、これらの女性軍。


逆に官僚に好きなように国家資産を食いつぶされて

年金もなくなり、1人700万円も税金を使い込まれて

何も反論しないおとなしい日本の男性たち。

日本の男性が、なさけなくなったのは、

家庭に入った女性軍が媚態を忘れたからではないのか。

女は、家庭をもっても、映画女優のように颯爽として

男は、あくまでも男らしく信念と闘う。

そんな男女は日本では見かけなくなってきた。

国内でも海外でも、信念のない企業戦士が、いたるところで

莫大な国家予算を無駄と知りつつ食い物にしている。

悪代官と商人が、ワインを飲みながら語り合っている情景が眼にうかぶ。

「越後屋 お前も、悪(わる)よのう。」



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