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このような情報の自由流通の世界に知的所有権、著作権という意識を強く持ちこみ過度に適用すると、せっかく新しい世界が開けてゆこうとしているのに、ブレーキをかけることになってしまう。
本書は、国立国会図書館長による電子書籍に関する解説書である。
内容は図書館の立場から書かれているが、驚くべきなのが 1994 年に出版されていることだ。今回、新装版にあたり前文が書き加えられている程度にとどまっているほど、その内容は斬新であり、各界で話題を呼んでいるのも頷ける。
だが、解説に「ここで著者である長尾氏の慧眼を褒めたたえることに終始するべきではない」(124 ページ)とコメントされているように、われわれは驚いているだけではいけない。
電子書籍の時代になると、出版工程が無くなる代わりに、読者自身も密に書籍の流通過程に組み込まれていくし、検索という図書館の役割を我々自身が担うことになる。
そして、著者が「電子図書館の場合には、貸し出すということは記憶装置の中の情報のコピーを作って送ることであり、同時に何人にでも貸出しが可能である。そして原本は記憶装置の中にずっと存在しているのであるから、返却ということをしてもらう必要がない」(108 ページ)と指摘しているように、従来の著作権法の独占権は消滅せざるを得ない。
著者はさらに言う――「新しい知的情報を創造している人たちは金銭的なことよりも、むしろ新しい情報を自分が創り出したということをできるだけ多くの人たちに知ってもらうという、いわば名誉の方を大切にするのである」(113 ページ)。これが事実なら、知的所有権を独占権と称している企業・団体の立場が危うくなる。
解説は、こうもコメントしている――「慧眼には驚嘆しつつも、ひるがえってわれわれは大きな悔恨を味わうべきだろう。本書が登場した 1994 年の時点で、本書の指摘が真正面から正確に受け止められていたならば、この 15 年ほどの歴史はまったく変わっていたのではないだろうか」(124 ページ)。
電子書籍の時代になってなお、知的所有権を盾に甘い蜜をすする企業が、しかも海外にあることを、我々は改めて認識しなければならない。
■メーカーサイト⇒ 長尾真=著/岩波書店/2010年03月発行 電子図書館 新装版
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