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著者・編者 | タミム・アンサーリー=著 |
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出版情報 | 紀伊国屋書店 |
出版年月 | 2011年09月発行 |
外国のことを知るには、まずその国の歴史を知ることが必要だと思う。その意味では、われわれはイスラームの歴史を知らなさすぎる。学生時代に世界史を学んだといっても、それは欧米から見た歴史観であり、イスラムのことはマホメット(正しくはムハンマド)の誕生とイスラム教を国教としているということぐらいしか学ばない。
世界史で厄介だったのは、本書で「ミドルワールド」と紹介されるアラブ地域における王朝の交替だ。
ウマイヤ朝、アッバース朝、セルジューク朝とイスラーム王朝が交替し、モンゴル帝国の侵攻やティムール帝国の成立など、順序を覚えるだけの単調な記憶作業が待っている。だが、日本史や西欧史と同じで、王朝が交替するにはそれなりのイベントがある。各々の王朝にも特徴がある。そういったことを知らずに、年号だけを覚えようとするからいけない。たとえば、オスマン帝国、ササン朝ペルシア、ムガール帝国を別々に覚えるのではなく、イスラームの三大帝国として、その関係を覚えておくとよい。そして、三大帝国を中心に十字軍や大航海時代を見れば、ヨーロッパとイスラームの関係がよく分かる。イスラームにとって、十字軍やレパントの海戦は歴史上、大した出来事では無かったのだ。
シーア派とスンナ派が、いつ、どういう理由で袂を分かったのか、ササン朝ペルシアの中にはシーア派が中心になってアラブ化に抵抗していたイランという存在があったことなど、あらたに知ったことも多い。
近代に入ると、「信じがたいことだが、ヨーロッパがこれほど発展していたことにイスラーム世界はほとんど気づいていなかった」(403 ページ)という。やがてヨーロッパ列強はオスマン帝国を侵食してゆき、国際連盟が「実際にはサイクス・ピコ協定を施行して、当該地域を『委任統治領』として分割し、英仏の支配下に置いてしまったのだ」(563 ページ)。アラブの欧米に対する憎悪が、ここに始まる。現代に至り、著者は「6 日間戦争は世界平和を決定的に後退させ、イスラーム世界に壊滅的なダメージを与え、イスラエルに対してさえあまりよい結果をもたらさなかった」(602 ページ)と記している。
著者は冒頭で「現在、イスラーム社会はムスリム共同体の理想から遠くかけ離れた停滞した状態に置かれている」(18 ページ)と記しているが、本書を読むと、イスラーム世界の悪戦苦闘ぶりがよく分かる。それは現在も続いている。歴史的に見ればイスラームが目指している目的地は、欧米の歴史の到達点とは異なる。西欧化してしまった日本から見れば歯がゆいところもあるが、自分たちの歴史・文化を大切にしていることには敬意を払わなければならない。
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