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著者・編者 | 岩倉信弥=著 |
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出版情報 | ソフトバンククリエイティブ |
出版年月 | 2013年06月発行 |
著者は、1964 年に本田技研工業株式会社に入社、創業者・本田宗一郎の薫陶を受け、一担当デザイナーから経営的立場まで、幅広いデザイン活動や商品開発に携わった岩倉信弥さん。
冒頭で本田の考え方として、「言葉や文章には嘘があっても、製品には嘘がない」(16 ページ)という言葉を紹介する。
自動車と IT という違いはあるものの、技術者として同感である。
ただ、今時の年長者として「言葉や文章による嘘」をつく必要があるのも、悲しい事実ではある。
本田が、便所に捨てられてしまった外国人バイヤーの入れ歯を、自ら“くそ壺”に入って回収するというエピソードが凄い。本田は言う。「「臭くて汚いくそ壷に喜んで入ってくれる人間などいるわけがない。かといって金で面をはたくような真似もしたくない。俺だってイヤだがここは俺の出番だ」(28 ページ)。年長者はこうでなくては。こういう行動をとる経営者が、「課長、部長、社長も、包丁、盲揚、脱腸も同じだ。要するに符丁なんだ。命令系統をはっきりさせるために符丁があるんで、人間の価値とは全く関係ない。人の偉さというのは、いかに世の中に奉仕したかということだ」(57 ページ)と言うと、言葉に凄みが増す。
本田が「科学技術に優先するものは人間の正しい思想だ」(61 ページ)という言葉を残している。IT の最先端に身を置く者としては、この言葉には重みを感じる。もしも強力なハッキング技術を開発できたとしたら、その技術を公開するか、ビジネスマンとして商品化するか、ここで人間としてのモラルが問われる。
本田は言う。「私たちがやる仕事はそこに需要があるかつくり出したらつくるのではない。私たちが需要をつくり出したのである。これが企業というものでなくてはならんと思っている」(70 ページ)。いまの閉塞した国内経済を見たら、本田は何と言うだろうか。本田は、「独創的な新製品をつくるヒントを得ようとしたら、市場調査の効力はゼ口となる」(64 ページ)とも言う。「本田は大衆とは『批評家』であり、『作家』ではないと考えていた。作家であるべき企業家が、大衆に『何が欲しい?』と聞くようでは、作家ではないと断じている」という。
本田は知識を詰め込むことは愚かだとし、聞くことや教わることが恥では無いと考えていた。「社会に出れば、カンニングは自由なんだ。知らないことを人から教えてもらう。謙虚に聞く。そういう姿勢のほうが大切だと思う」(123 ページ)と言っている。面白い考え方だ。
戦後、何も無いところから創業した本田は、「ソニーとかわれわれとかは戦後 1 年も 2 年もたつてから、無一物で仕事を始めたんだ。無から有をつくるには、アイデアしかなかったな」(131 ページ)と語る。これは今の日本企業だけではなく、われわれのライフスタイルに欠けているところではないか。裸一貫で社会に出たとして、われわれはサバイバルしていけるだろうか。
アメリカにおける自動車の排出ガス規制であるマスキー法に対し、ビッグ 3 が政治力で規制を骨抜きにしようとしたが、本田は技術力で見事にクリアした。本田は、「政治的に解決しなければならないことと、技術的に解決しなければならないこととを混同してはいけない」(163 ページ)と言う。技術者として言ってみたい言葉だ。本田はまた、「真のエキスパートは、不可能の壁を打ち破るところに、無上の喜びを持つものだ」(165 ページ)とも言う。名言である。
本田は最後にこの言葉を遺している。「私は交通業者だ。死んだからといって大勢集めて、人さまの交通の邪魔をするな」(181 ページ)。死の淵にあって、なお相手のことを配慮する技術者であった。
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