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著者・編者 | 佐々木俊尚=著 |
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出版情報 | NHK出版 |
出版年月 | 2013年06月発行 |
著者は、IT と社会の変化を追っているジャーナリストの佐々木俊尚さん。本書の考え方の最も大きな土台になっているのは『〈帝国〉――グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』(アン卜ニオ・ネグり、マイケル・ハート=著、水嶋一憲=他訳。以文社、2003 年)という。佐々木さんは、国民国家という「古いシステムは、22 世紀を迎えることはできないでしょう。たぶんこれからの数十年間で滅んでいきます」(173 ページ)との予見する。
まず、国民国家の成立を振り返る。
「複数の民族やエリアをひとつに治めている国が帝国」(68 ページ)と定義したうえで、古代の終わりから中世にかけては帝国による平和の時代だったと述べている。そして、帝国の間には緩やかな交易ネットワークがあった。その後、ヨーロッパが強い軍事力を背景に世界支配に成功したのは、「国民が団結できたから」(101 ページ)と指摘する。
だが、団結した結果、国家間の戦争が頻発した。「国民国家は『国民』がひとつであるということを維持するために、ソトに敵をつくりたがります」(122 ページ)ということもある。現代アメリカの外交を見ればうなずける。
現代になり、国民国家に代わるのが、インターネットが提供する〈場〉だという。
「インターネットはウチソトの壁を壊し、ただひとつの〈場〉のようなものをつくり、その〈場〉はインターネットに接続している限りすべての人びとに開放されていて、無限に広がっていきます」(174 ページ)というものだ。
「国民国家のなかで全員が同じ好みを共有するという文化がほとんどなくなって」(183 ページ)きているため、製造業も大量生産ではなく、中世の家内制手工業へ逆戻りするだろうと予見する。
インターネットという〈場〉では、さまざまな物事がレイヤーにスライスされていくという。
たとえば
インターネットというインフラのレイヤー。
楽曲や番組、本などが販売されるストアのレイヤー。
どんな音楽や番組が面白いのかという情報が流れる、メディアのレイヤー。
購入した楽曲や番組を、テレビや音楽プレーヤーやスマートフォンやパソコンで楽しむ
という機器のレイヤー。
そして楽曲や番組そのものというコンテンツのレイヤー。
(207 ページ)といった感じで、各々のレイヤーが横方向に繋がりをもつという。
レイヤーは、いままでの人間関係や、仕事のやり方、価値観を覆す。いままでマイノリティだった人々は、レイヤーを乗り換えることによってマジョリティに変わる可能性があるという。
そして〈場〉は国民国家に税金を払わないため、莫大な税金を必要とする国家の軍事力は衰退していくという。いままで国家間に存在していた賃金格差も徐々に消滅していく。
しかし、〈場〉はバラ色の未来を約束するものではない。
佐々木さんは、〈場〉は「目的がはっきりしないから、失敗することのほうが成功することよりも多い」(194 ページ)という。もしそうなら、わが国は失敗を許容する教育・社会にあらためていく必要がある。
国家間の戦争はなくなるとしても、レイヤー間の紛争は止まないだろう。テロもあるかもしれない。そうしたとき、私たちを守ってくれるのは一体誰なのだろう。
プライバシーが、国家から個人を守るために発達してきた概念なら、〈場〉ではプライバシーは無くなるだろう。ビッグデータからプライバシーを守ろうとする抵抗は無意味かもしれない。
ネット上で愛国心をアピールするネトウヨの存在も、じつは旧時代人の最後の抵抗なのかもしれない。
本書を読んでひとつ確かに言えることは、私たちは中世帝国の歴史を学び直すことで、不安な未来を少しでも予測可能な未来に変えることができるということだ。
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