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著者・編者 | 飯田泰之=著 |
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出版情報 | 光文社 |
出版年月 | 2011年9月発行 |
東日本大震災を契機に、科学への疑問・疑念が頭をもたげてきた。本書は、2007 年(平成 19 年)に立ち上がったシノドスセミナーで 5 人の専門家が取り上げた「科学とはなにか/科学と科学でないものの間は/科学不信はなぜ生まれるのか/科学を報じるメディアの問題とは/科学を上手に使うには」といった、学校が教えてくれないテーマを解説する。
冒頭で、菊池さんはテレビ保有台数と平均寿命の間にきれいな相関関係があることをあげ、グラフだけでは相関関係の有無は分かっても因果関係の有無は分からないことを指摘する。
菊池さんは「科学的な説明では、他の知識との整合性が一番重要」(57 ページ)と説く。これはニセ科学を判定するリトマス試験紙として使えそうだ。水の伝言や EM菌は、もし存在すると仮定すると、物理学・化学・生物学の多くの法則を書き換えることになる。そのためには、われわれは科学の法則の一部を暗記しておく必要がある。ニセ科学に惑わされないためには、まずは学校の理科のテストで良い成績を残そう。「水からの伝言」について、菊池さんは「道徳を決めるのは物質の性質じゃなくて、歴史や文化」(51 ページ)であり、これは科学に対する誤解であり、科学は万能ではないのだから期待しすぎだという立場だ。
菊池さんは、科学は理屈を説明できるが、その結果、不安を払拭できるわけではないと説く。科学は万能ではないから、宗教との共存も可能である。
伊勢田さんは、世界の探求をする従来科学はモード1であり、現在のように問題解決を主目的にする科学をモード2と呼ぶ。そして、モード2科学と疑似科学の間には境界領域が存在すると指摘する。たとえば、ゲーム脳や代替医療は境界領域にあり、本来はモード2科学を目指したが、疑似科学へ傾いてしまった事例だという。伊勢田さんは、科学を「もっとも信頼できる手法を用いて情報を生産するような集団的知的営み」(97 ページ)と定義する。これに当てはまらない領域は疑似科学である。
松永さんは、エコナ問題を取り上げ、食や農業を科学的に報道するのは難しいと指摘する。そして「メディアを信じるな、わかりやすい話を信じるな」(148 ページ)と言う。いまのメディアでは、専門記者を育てる余裕がないからだ。
さらに、「日本では、農業にかんする知識が一般市民にほとんどない。それも、遺伝子組換えに対する誤解を増やしている」(137 ページ)という。松永さんは、メディアが警鐘を鳴らす行為は、記者個人の正義感を満足させるだろうが、「大きなデメリットを社会にもたらす」(144 ページ)と指摘する。事例として、環境ホルモン騒動では多額の研究費を投入したものの成果が無かったこと、遺伝子組み換えについては反対運動で多くの研究がストップしていることをあげている。
漫画『美味しんぼ』が遺伝子組み換え食品の危険を主張していた回に対しては、問題はあるとしながらも、「マンガが出て問題ある、と思えたら、やっぱり同じように言論で『あのマンガには問題、がある』と主張することで対抗すべきだったのではないか?」(144 ページ)と疑問を呈する。
平川さんは、1990 年代にイギリスで起きた BSE 問題を取り上げ、「政治と科学に対する二重の不信の広がりこそが、『信頼の危機』」(159 ページ)と指摘する。同時期に、日本でも阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件という危機が起きたが、日本では一般市民か参加する公共的関与より、科学教育を強化する方向へ進んだ。松永さんは、これを「生ぬるい」と断じる。そして、トライサイエンス(科学に問うことはできるが、科学では答えを出せない問題群)という用語を紹介し、福島第一原発事故がトライサイエンス的であると述べる。科学が万能でないことは菊池さんも述べているが、リスク評価などでは多元的な解釈が成り立つという。
片瀬さんは、福島第一原発事故をめぐるデマのパターンとして、情報・知識の根拠や元の情報を示さない、できるだけショッキングな話にする、疫学の誤解と不安の誇張、数字のごまかし、事実の誤認を、実際のデマ情報を紹介しながら説明する。
また、不安に付け込む人たちとして、「自らを“正義の味方”として、大衆を騙す悪い奴らを設定し、対決姿勢を打ち出す」煽りジャーナリズムや、あやしい商売をあげる。
そして、情報源の曖昧なものは、噂話として伝えたりリツイートせず、一旦保留にしておいたほうがいいとアドバイスする。これは大切なことだ。
阪神大震災から東日本大震災に至る 20 年間、科学に対する不信感が増してくる一方、科学教育が注目されたのは良かったと思う。他人を信じていけないというわけではないが、頼りになるのは自分の目であり耳であり、自分の脳みそなのだ。生涯勉強を欠かさないようにしたいものである。そして、本書で紹介されているエセ科学やデマ情報を否定するのではなく、「トンデモ」として楽しんでいくのが、真のインテリではないだと考える。
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