Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2005/08/10
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カテゴリ: BAR
 社会人になって最初に赴任した土地は、北陸の金沢だった。かつての加賀百万石の城下町にして、加賀友禅、金沢金箔、九谷焼など伝統工芸に彩られた文化の香り漂う都市。初めて暮らす雪国に、僕はロマンチックな期待に胸を膨らませて、大阪から特急「雷鳥」に乗った。

 金沢は北陸地方の拠点都市。空襲を受けなかったおかげで、藩政時代の古い街割りが今もかなり残る。大きなデパートも2軒あり、心配していた映画館も少ないながらも何軒かある。食通を唸らせる海・山の幸にも不自由はない。人口は約40万人(当時)。街の規模としては、人間的な暮らしができる適正な大きさだった。倫敦屋

 それから5度の冬を、金沢で過ごした。自然は時に厳しい顔を見せる。2年目の冬は、ひどい豪雪の年となった。国道(北陸自動車道はまだなかった)は閉鎖され、北陸線は1週間も運休する前代未聞の事態になった。新聞も届かない中、僕は毎朝、雪に埋もれた車を掘り出して、出社した( 写真左 =倫敦屋の最近の外観。昔とはだいぶん変わったような気もする)。

 冬の北陸は、暮らしたことのある方ならお分かりだろうが、11月から2月までの4カ月間は、暗い鉛色の雲が低くたれ込めて、晴れ間が覗くことがほとんどない。雪国が好きになって、最初の頃は雪が、冬が嬉しくて仕方がなかった僕でさえも、時折、気が滅入るほどの陰鬱な季節…。

 そんな僕が、お酒を覚えたのもこの金沢だった。仕事がうまくいかなかったり、上司に怒られたりして、落ち込んだとき。1人暮らしの僕は、心の癒しを求めて、酒場で時間を過ごすことが多くなった。飲むときは、同僚や、付き合いのあった同業他社の友人と一緒ということが多かった。倫敦屋・店内

 今の僕を知る人は信じられないだろうが、社会人になりたての頃の僕は、ビール、コップ1~2杯が限界だった。それが夜の付き合いで鍛えられていくうち、もう少し飲めるようにはなってきた。

 ウイスキーというものを、本格的に飲み始めたのもこの金沢だ(ただし金沢にいた間は、水割りばかりだったが…)。なかでも、会社から歩いてそう遠くない、 「倫敦屋」 というBARにはよく通った( 写真右

 北陸の拠点都市と言っても、70年代後半の頃、金沢にオーセンティックBARなど数えるほどしかなかった。倫敦屋は1969年の創業。数少ない金沢の本格BARのなかでも、最も落ち着いた雰囲気の、こだわりのある上質の空間だった。1人で行っても、グループで行っても心地よく飲める酒場だった。倫敦屋のコースター

 倫敦屋の「こだわり」は、酒の品揃えにも現れていた。いま振り返れば、バック・バーにはシングル・モルトもたくさんあった。樽詰めのウイスキーも飲めたように記憶している。当時としては、地方ではきわめて珍しいBARだったろう(しかし、残念ながら僕はその頃、モルトにまったく興味はなかった)。

 また、僕はお会いしたことはなかったが、作家の山口瞳氏(故人)もお気に入りで、金沢を訪れると、必ず立ち寄ったという。その縁なのだろう。倫敦屋のコースター( 写真左 )は、山口氏の友人のイラストレーター・柳原良平氏が描く、あの「アンクル・トリス」が描かれている。

 聞けば、現在の倫敦屋は当時のマスターの息子さん・Tさんが継いでいて、店も従来の倫敦屋のほか、「アイリッシュパブ倫敦屋」、イタリアン居酒屋の「ペッシュ倫敦屋」という2軒を併設するなど発展しているという。

 Tさんは、金沢ではちょっと知られた名物バーテンダーとか。「心の名医」と自称して、ローカル月刊誌上で、人生や男と女の珍問・奇問に軽妙洒脱に答える連載を持ち、連載は「世紀の二枚舌」というタイトルで本にまでなっているという。

 金沢を離れて、もう随分時間が経つ。近いうちに、久しぶりに「倫敦屋」を再訪し、昔、同僚や友人らと議論をたたかわせた、あのカウンターにたたずんでみたい。

【倫敦屋】 金沢市片町1-12-8 電話076-232-2671 JR金沢駅からタクシーで約7分、片町交差点下車すぐ。不定休(日曜、祝日でも営業していることが多いので一度電話を)。





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Last updated  2005/08/10 07:50:54 PM
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うらんかんろ

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Comments

汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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