Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

2013/07/31
XML
カテゴリ: カクテルブック
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

6.ギムレット(Gimlet)

 ギムレットと言えば、チャンドラーの小説「長いお別れ」に登場することでも有名で、現代のバーでも不動の人気を誇るカクテルです。「飲む人の体を突き刺すような鋭い味わいが、工具の錐(きり)=ギムレット(Gimlet)(コルクスクリューのような形をしている)を連想させた」ことから、その名が付いたとも言われています(出典:Wikipedia英語版ほか多数)。

 現代の標準的なレシピは、 ジン4分の3、生ライム・ジュース4分の1、シュガー・シロップ0.5~1tsp (お好みで)(シェイク)というところでしょうか。

 誕生の正確な経緯は伝わっていませんが、発祥は19世紀末と言われています。ブログでの連載「カクテル――その誕生にまつわる逸話」でも紹介しましたが、 誕生当初のレシピは、プリマス・ジン(Plymouth Gin)とローズ(Rose)社のコーディアルライム・ジュース(甘口系)が半量ずつ というレシピ(ステア)でした。現代とは違って、かなり甘口だったことが分かります。

 ハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)の 「ABC Of Mixing Cocktails」(1919年初版刊)も、この誕生当初のレシピに従っています。 従って、このレシピの「ギムレット」というカクテルは1910年代のロンドンやパリではすでに登場していたことは間違いありません(マッケルホーンは現行版の「Harry’s ABC …」でもこのレシピを採用していて、違いはステアがシェイクに換わったくらいです)。s-Gimlet.jpg

 ギムレットに関しては、 「1890年頃、英海軍いた軍医トーマス・D・ギムレット卿(Sir Thomas D. Gimlette 1857~1943)が、酒の飲み方を知らない新人将校の飲みすぎを防ぐために、ジンにライムを混ぜて飲むことを提唱したことから、彼の名がカクテル名で定着した」 という有名な逸話が伝わっています。ギムレット卿は実在の人物ですが、こうした逸話を裏付ける資料・データは見つかっていません( 写真 = Gimlet @ Bar Papa Hemingway)。

 なお、「カクテル ホントのうんちく話」(2008年刊)を著した石垣憲一氏によれば、「 現存する一次資料に登場する最古のギムレット (またはそれに類した名前のついたカクテル)は、1917年にトム・ブロック氏が著書で紹介した 「ジレット・カクテル(Gillette Cocktail) シカゴ・スタイル」 で、そのレシピは、 「オールド・トム・ジン1.5ジガー、ライム・ジュース2分の1個分、バー・シュガー0.5tsp(ティー・スプーン)」 というものです。これが実質、ギムレットとほぼ同じカクテルであることに異論はないと思います。

 石垣氏は「ジレット(Gillette)という綴りはGimletとは違うが、考案者と伝わるギムレット卿(Gimlette)の名前とは一文字違うだけ。生のライム・ジュースを使っている点は異なるが、だからこそシカゴ・スタイルという言葉を添えたのかもしれない」と推測していますが、僕もまったく同意見です。いずれにしても 1910年代に、米国の大都市にもギムレットは伝わっていた 傍証になります。

 さて、話が少し横道にそれてしまいましたが、マッケルホーンとその子孫は、ギムレットのレシピに関しては結構頑固なようです。1986年以降の改訂版でも生のライム・ジュースは使わず、ライム・ジュース・コーディアルにこだわっています。この頑固さについては 「サヴォイ・カクテルブック」を著したハリー・クラドック(Harry Craddock)も同じで、収録されているギムレットのレシピは、オリジナルを守っています (しかし、Harry’s New York BarやSavoy HotelのAmerican Barでは、今でも本当にこのオリジナル・レシピでギムレットを出しているのでしょうか? どなたか飲まれた方はいらっしゃるでしょうか?)。

 ちなみに、1930~50年代の主なカクテルブックに登場した「ギムレット」は、どういうレシピだったのか、ひと通りみておきましょう。

・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著 1930年刊)英
   プリマス・ジン2分の1、ライム・ジュース・コーディアル2分の1(ステア)

・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年刊)米
   ジン1グラス、ライム・ジュース1個分、パウダー・シュガー1tsp、シェイクしてお好みでソーダを加える
     ※1920~40年代はギムレットにお好みで炭酸水を加えるレシピも普通にあった

・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイアー著 1934年刊)英
   ジン3分の2、ライム・ジュース・コーディアル3分の1(ステア)

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米 → 収録なし

・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英
   ジン3分の2、ライム・ジュース・コーディアル3分の1、シェイクしてお好みでソーダを加える

・「Trader Vic’s Bartender’s Guide」 (ヴィクター・バージェロン著 1946年刊)米 
   ジン5分の2、ローズ・アンスイートンド・ライム・ジュース5分の2、シュガー・シロップ5分の1、シェイクしてグラスに注ぐ
【参考】 同書には、ローズ・ライム・コーディアルを使ったギムレットも掲載されている

・「The Bartender’s Guide」 (パトリック・ギャビン・ダフィー著 1948年刊)米 
   ジン2分の1、ローズ・ライム・コーディアル2分の1、ステアしてグラスに注ぐ
【参考】 同書には「Gimblet」というカクテルも掲載されている。レシピは、ジン4分の3、ライム・ジュース4分の1、ステアしてグラスに注ぎ、ソーダを加える


 なお、日本にはおそらくは戦前に伝わっていたかと想像しますが、文献に登場するのは、意外と遅く、調べた限りでは 1955年(昭和30年)刊の「壽屋カクテルブック」が最初 です。ただし、生ライムがとても貴重で高価だった日本では、70年代末までは、オーセンティック・バーでも合成ライム・ジュースを使うところが一般的でした。生ライム・ジュースに換わるのは、80年代以降です。




・こちらもクリックして見てねー! 【人気ブログランキング】






PR

Profile

うらんかんろ

うらんかんろ

Comments

汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

Free Space

▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

神戸の残り香 [ 成田一徹 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2021/5/29時点)


▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。 ▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。

Favorite Blog

「続^9・炸醤麺」 はなだんなさん

LADY BIRD の こんな… Lady Birdさん
きのこ徒然日誌  … aracashiさん
きんちゃんの部屋へ… きんちゃん1690さん
猫じゃらしの猫まんま 武則天さん
久里風のホームページ 久里風さん
閑話休題 ~今日を… 汪(ワン)さん
BARで描く絵日記 パブデ・ピカソさん
ブログ版 南堀江法… やまうち27さん
イタリアワインと音… yoda3さん

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: