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2013/08/26
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カテゴリ: カクテルブック
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◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

9.ジャパニーズ・カクテル/ミカド(Japanese Cocktail/Mikado)

 先般、連載「カクテル――その誕生にまつわる逸話」の中で、私はこのカクテルを取り上げ、その中で以下のように記しました。

 「“カクテルの父”とも言われる、 かのジェリー・トーマスが1860年頃に考案し、世界初の体系的カクテルブック『How To Mix Drinks』(1862年初版刊)にも登場する。 国の名前がついたカクテルの中でも、最も歴史が古いと言われる。1860年と言えば、日本はまだ開国まもない混乱期で、攘夷の嵐が吹き荒れていた時代。そんな頃に、なぜ米国で「日本の」という名が付いたカクテルが誕生したのか--。

 トーマスは当時、ニューヨークの「パレス・バー」でチーフ・バーテンダーとして働いていた。カクテル名の由来には、なんと 徳川幕府が1860年(安政7年)に派遣した訪米使節団が、そして味わいについては、材料の一つ「オルゲート・シロップ」 【注1】 に使われている杏(あんず)の核(杏仁)の香りが深く関わっている という。近年まで「謎」に包まれていたこのカクテル誕生の背景については、洋酒研究家・石倉一雄氏による渾身の論考「日本人の知らないジャパニーズ・カクテル/ミカド」(Webサイト「Food Watch Japan」= http://www.foodwatch.jp/column/ =で連載)に詳しい。
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 さて、ジャパニーズ・カクテルの標準的なレシピは、 ブランデー(またはコニャック)6分の4、ライム・ジュース6分の1、オルゲート(「オルジェート」と表記する場合も)・シロップ6分の1、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモン・ツイスト というところでしょうか(※ライム・ジュースを入れないレシピもあります)。

 ハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)は、その著書「ABC Of Mixing Cocktails」(1919年初版刊)で、どういうレシピで紹介しているかと言えば、 「ブランデー1グラス、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、オルゲート・シロップ1tsp(ティー・スプーン)、シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾る」 です。

 ジェリー・トーマスが19世紀半ばに考案したということもあって、この「ジャパニーズ・カクテル/ミカド」は、19世紀末から20世紀初頭のカクテルブックにはたびたび登場します。主な掲載例は以下の通りです( 写真左 = Japanese Cocktail @ Little Bar )。

・「Bartender’s Manual」 (ハリー・ジョンソン著、1882年初版、1934年再版、2008年復刻版刊)米 ブランデー1グラス、ボウカーズ・ビター 【注2】 2~3dash、オルゲート・シロップ2~3dash、マラスキーノ2dash、レモン・ピール

・「American Bartender」 (ウィリアム・T・ブースビー著、1891年初版、2009年復刻再刊)米 コニャック1グラス、アンゴスチュラ・ビターズ3dash、オルゲート・シロップ4分の1tsp、レモン・ピール

・「Modern American Drinks」 (ジョージ・J ・カペラー著、1895年初版、2008年復刻版刊)米 ※Japanese Cocktailの名での収録はないが、Japanese Punch(ブランデー2分の1、アラック 【注3】 2分の1、ライム・ジュース半個分、シュガー1tsp、紅茶適量)、Mikado Punch(セント・クロワ・ラム 【注4】 2分の1、ブランデー2分の1、レモン・ジュース半個分、シュガー1tsp)という2種類が掲載されている。

・「World Drinks and How To Mix Them」 (ウィリアム・T・ブースビー著 1908年刊行、1934年再版)米(ジャパニーズ・カクテル、ミカドの双方が登場)
★ジャパニーズ・カクテル  → ブランデー1ジガー、オレンジ・ビターズ2dash、オルゲート・シロップ1tsp、(アンゴスチュラ?・)ビターズ2drops、レモン・ピール(同書では、ジン・ベース=3分の2ジガー=に替えた「ジャパニーズNo.2」というカクテルも収録されている)
★ミカド  → ブランデー3分の2ジガー、キュラソー2dash、オルゲート・シロップ2dash、クレーム・ド・ノワヨー 【注5】 2dash、ビターズ2drops、レモン・ピール

・「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」 (ウェーマン・ブラザーズ編、1912年初版、2008年復刻版刊)米 &  ・「173 Pre-Prohibition Cocktails」  & 「The Ideal Bartender」 (トム・ブロック著、1917年刊、2001年&2006年再刊)米 → 収録なし

・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著 1930年刊)英 Mikado(ミカド)の名で登場 → ブランデー2分の1グラス、キュラソー2dash、オルゲート・シロップ2dash、クレーム・ド・ノワヨー2dash、アンゴスチュラ・ビターズ2dash

・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年刊)米 Mikado(ミカド)の名で登場 → ブランデー2オンス、クレーム・ド・カカオ2分の1tsp、キュラソー2分の1tsp、アンゴスチュラ・ビターズ2dash  
 ※「ジャパニーズ・フィズの名で以下のレシピのカクテルも登場 → ライ・ウイスキーまたはバーボン・ウイスキー1.5オンス、ポート・ワイン2分の1オンス、レモン・ジュース半個分、パウダー・シュガー1tsp、卵白1個分、ソーダ適量

・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイアー著 1934年刊)仏  → 収録なし

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米
ブランデー1ジガー、オルゲート・シロップ2dash、ボウカーズ・ビターズ1dash、レモン・ピール

・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英
ブランデー4分の3、オルゲート・シロップ4分の1、ボウカーズ・ビターズ2dash、レモン・ピール

・「Trader Vic’s Bartender’s Guide」 (ビクター・バージェロン著 1947年刊)米  → 収録なし


 なお、先般の連載内容と若干重複しますが、米国で生まれたジャパニーズ・カクテルはその後欧州へも伝わりました。そして 1885年、日本を舞台にした「ミカド(Mikado)」というオペレッタが、ロンドンの「サヴォイ・シアター」で上演され大ヒットすると、「ジャパニーズ=ミカド」という連想から、いつしか「ミカド・カクテル」と呼ばれることが多くなった とのことです。

 オペレッタ「ミカド」はその後、米国でも上演されるなど欧米でロングランの大ヒット。カクテル「ミカド」も「サヴォイ・カクテルブック」(1930年刊)や、禁酒法明けに出版された「ミスターボストン・バーテンダーズ・ガイド」(1935年刊)でも紹介されています=上記。

 日本には、 少なくとも1920年代前半までには伝わり、20~30年代に出版された幾つかのカクテルブック=例えば、「カクテル(混合酒調合法)」(秋山徳蔵著、1924年刊)、「コクテール」(前田米吉著、1924年刊)=に登場します。  ※同時期に出版された両著ですが、レシピはかなり異なっています。秋山氏のレシピはトーマスの本にルーツを持ち、前田氏のレシピは、サヴォイ・カクテルブックとほぼ同じです。

 現代の日本のカクテルブックにおいてはなお、「ジャパニーズ・カクテル」「ミカド」の両方が混在し、さまざまなバーテンダーによって、多くのバリエーションが生み出されてきました。 「JBAカクテルブック」 (1963年刊)と 「すてきな夜にはカクテル」 (木村与三男著、1983年刊)にはジン・ベースの、 「世界コクテール飲物辞典」 (佐藤紅霞著、1954年刊)にはウイスキー・ベースの「ジャパニーズ・カクテル」がそれぞれ収録されていますが、そのルーツはよく分かっていません。


【注1】 「オルゲート(Orgeat)・シロップ」(オルジェート・シロップとも呼ばれる)とは、ナッツの香りが特徴のビター・アーモンド・シロップのこと。19世紀後半から20世紀初頭の欧米のカクテルにはしばしば使用された。Orgeatとは仏語で「アーモンド」の意だが、元来、Orgeatは普通のアーモンドではなく、杏仁(杏の核)のことを指すという。現在でも「MONIN(モナン)」社のシロップ・シリーズで入手可能だが、材料に杏仁が使われているかどうかは不明。

【注2】 「ボウカーズ・ビター(Boker's Bitter)」は、1828年にドイツ系米国人のジョン(ヨハン)・ボウカーが製造・販売を始めたビターの銘柄。かのジェリー・トーマスもいくつかのカクテルで使用している。1920年代に一時製造中止となったが、近年、その味わいを再現した製品が再発売されている。

【注3】 アラック(Arrack)とは、中近東からアジアにかけて、現在でも幅広く造られている蒸留酒。原料は米やサトウキビ、ナツメヤシ、ジャガイモ、ヤシの花穂など。

【注4】 カリブ海の米領ヴァージン諸島の「セント・クロワ(St.Croix)島」産のラムのこと。

【注5】 「クレーム・ド・ノワヨー(Crème de Noyaux)」=ノワイヨーとも表記される=は、桃や杏の核を主成分とするリキュール。アーモンドの風味を持つ。




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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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