Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2015/06/20
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カテゴリ: カクテルブック
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 【連載再開にあたってのご挨拶】

 私はかねてから、19世紀~20世紀半ばまでに誕生したクラシック・カクテル(スタンダード・カクテル)についての研究を、ライフワークの一つにしてきました。そして、その誕生の歴史(経緯)や発展の経過、レシピの変遷等を、可能な限り一次史料・文献(カクテルブック等)にあたりながら調べてきました。

 その過程で、2013年6月、親しいバーテンダーの友人が、カクテルブックの歴史的名著とも言われる「Harry's ABC of Mixing Cocktails」(Harry MacElhone著)の初版本(1919年刊)を手に入れたことから、そこに紹介されている代表的なカクテルについて、当時のレシピがどうなっていたか、同時代の英米のカクテルブックと比べてどう違うのか等について、2013年の夏、この日記上で 9回に渡って連載 をしました(取り上げたカクテルは、アドニス、アレキザンダー、バンブー、ダイキリ、ディアブロ、ギムレット、ジャックローズ、ジョン・コリンズ&トム・コリンズ、ジャパニーズ・カクテル/ミカドです)。
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 連載は20回の予定でしたが、9回終了後に私的な事情で多忙を極めることになったため、中断を余儀なくさせられました。しかし、未完了のまま中断した連載に心残りは大きくなるばかりでした。

 そこで今回、長く間はあきましたが、連載を再開し、残りの11回分を完結させるべく頑張ることを決めました。一応週1回のペースでの掲載を考えていますが、場合によっては2週に一度となるかもしれません。何卒ご容赦ください。

 なお、残り11回の連載で取り上げる予定のカクテルは、ニッカー・ボッカー、マンハッタン、マティーニ、ミリオネア、ミント・ジュレップ、ロブロイ、サゼラック、スコッチ・ハイボール、サイドカー、ホワイトレディ、ヨコハマです。何卒よろしくお願いいたします( 写真 =Knicker-bocker byMr Shuichi Tanaka of Tom & Jerry Bar)。


 ◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

  10.ニッカー・ボッカー(Knicker-bocker)


 19世紀半ばに誕生し、かの ジェリー・トーマスのカクテルブック「How To Mix Drinks」(1862年刊)にも登場する最初期の古典的カクテルの一つ ですが、残念ながら現代日本のBarでの知名度はそう高いとは言えません。うらんかんろ自身も、Barで頼んでいる人やお客様に勧めているマスターを見たことはほとんどありません。

 しかし、「ニッカー・ボッカー(Knicker-bocker)」は欧米では現在でもそれなりに名の知られたカクテルで、クラシック・カクテルが再評価されている昨今、ロンドン等では人気もあるとのことです。カクテル名は、ニューヨークに数多くやって来たオランダ系移民が愛用していた「短ズボン」に由来し、転じて「ニューヨーク市民」のことを指す俗語としても知られています。

 現代の標準的なレシピでは、 ラム4分の3、オレンジ・キュラソー(またはコアントロー、トリプルセック)4分の1、ラズベリー・シロップ1~2tsp(ティー・スプーン)、レモン・ジュース1tsp、オレンジ・ジュース1tsp、クラッシュド・アイス (ロング・スタイルの時)というところでしょうか。

 ハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)の「ABC Of Mixing Cockatils」(1919年刊)のレシピは、 ラム3分の2、ラズベリー・シロップ1tsp、レモン・ジュース1tsp、オレンジ・ジュース1tsp、キュラソー2dash、パイナップル1切れ(飾り) となっています。  ※分量は原著表記のままです。ラム「3分の2」とありますが、残りの「3分の1」についてマッケルホーンは触れていません。ラム以外の材料で「3分の1」ということなのでしょうか)。

 一方、 サヴォイ・カクテルブック(1930年刊)では、「ニッカー・ボッカー」はマティーニのバリエーションとして紹介され、「ニッカー・ボッカー・スペシャル」という名のカクテルが標準的なニッカー・ボッカーと同じレシピ となっています。欧米のカクテルブックでは他にも、このようなケースが少なくありません。また、なぜかブランデー・ベースの同名カクテルも、1930年代の著名なカクテルブックに登場しています。

 なぜ、マティーニのバリエーション的な「ニッカー・ボッカー」というカクテルが生まれたのか、本来の「ニッカー・ボッカー」がなぜ「ニッカー・ボッカー・スペシャル」とその名が変わってしまったのか、一方で、ラム・ベースの「ニッカー・ボッカー」も生き残っていて、現場に混乱はなかったのか、この辺りは今後解明すべき課題です。

 ちなみに、1860~1940年代の主なカクテルブック(「ABC Of …」以外)は「ニッカー・ボッカー」をどう取り扱っていたのか、どういうレシピだったのか、ひと通りみておきましょう。

・「How to Mix Drinks or The Bon-Vivant’s Companion」 (ジェリー・トーマス著、1862年初版、1999年再版)米 ラム1Glass、キュラソー2分の1tsp、ラズベリー・シロップ2tsp、ライム(またはレモン)ジュース2分の1個分(シェイク・スタイル)

・「Bartender’s Manual」 (ハリー・ジョンソン著、1882年初版、1934年再版、2008年復刻版刊)米 ラム1Glass、キュラソー2分の1Glass、ラズベリー・シロップ2tsp、レモン・ジュース2dash、飾り=パイナップル・スライス、オレンジ・スライス(ステアまたはシェイク・スタイル)

・「American Bartender」 (ウィリアム・T・ブースビー著、1891年初版、2009年復刻再刊)米 掲載なし

・「Modern American Drinks」 (ジョージ・J ・カペラー著、1895年初版、2008年復刻版刊)米 ラム1jigger(約45ml)、キュラソー2分の1pony(約15ml)、Glass、ラズベリー・シロップ1pony(約30ml)、レモン・ジュース2分の1個分、飾り=パイナップル、オレンジ、レモンのスライス(ビルド・スタイル)

・「Dary's Bartenders' Encyclopedia」 (ティム・ダリー著、1903年初版刊、2010年復刻版刊)米 掲載なし

・「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」 (ウェーマン・ブラザース編、1912年初版、2008年復刻版刊)米 ラム1Grass、キュラソー3dash、ラズベリー・シロップ3tsp、レモン・ジュース2分の1個分(ビルド・スタイル)

・「173 Pre-Prohibition Cocktails)」 & 「The Ideal Bartender」 (トム・ブロック著、1917年刊、2001年&2006年再刊)米 掲載なし

・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著、1930年刊)英 ラム3分の2、キュラソー2dash、ラズベリー・シロップ、レモン・ジュース、オレンジ・ジュース各1tsp、飾り=パイナップル・スライス)※ただし、Knicker-bocker Specialとの名で掲載。
※Knicker-bockerというカクテルも収録されているが、ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、スイート・ベルモット1dash、レモン・ピール(シェイク・スタイル)と、明らかにマティーニのバリエーション。

・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」 (1930年初版刊、2008年復刻版刊)米 ラム4分の3、オレンジ&レモン・ジュース4分の1、キュラソー2dash、飾り=パイナップル・スライス(スタイル不明)

・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイアー著 1934年刊)仏 ラム1Grass、ラズベリー・シロップ1tsp、レモン・ジュース&オレンジ・ジュース各1tsp、飾り=パイナップル・スライス(シェイク・スタイル)

・「The Official Mixer's Manual」 (パトリック・ギャヴィン・ダフィー著 1934年刊)米 ラム3分の2、キュラソー3分の1、ラズベリー・シロップ、レモン・ジュース、オレンジ・ジュース各1tsp、パイナップル・スライス=クラッシュド(シェイク・スタイル)

・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年刊)米 ラム60ml、キュラソー2分の1tsp、ラズベリー・シロップ1tsp、レモン・ジュース1tsp、オレンジ・ジュース1tsp、飾り=パイナップル・スライス(シェイク・スタイル)

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米 ブランデー45ml、レモン・ジュース2分の1個分、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、角砂糖1個、レモンピール   ※「Knicker-bocker」を名乗っているが、ベースの酒もレシピもまったく異なる。

・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英 ラム45ml、キュラソー2dash、分の1tsp、ラズベリー・シロップ、レモン・ジュース、オレンジ・ジュース各3dash、飾り=パイナップル・スライス(シェイク・スタイル)

・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」 (ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 

※サヴォイ・カクテルブックと同様、Knicker-bockerというカクテルも「マティーニのバリエーション」として併せて紹介されている。

【注】 レシピに登場するラムですが、サンタ・クルーズ(Santa Cruz)、セント・クロワ(St.
Croix)と記されている(指定?)ケースが多く、ジャマイカ(Jamaica)、プエルトリカン(Puerto Rican)と記されている例もありました。

 なお、確認できる日本での初出資料は、安土禮夫著の『カックテール』(1929年刊)で、日本国内にも1920年代には伝わっていたことが分かります。


 ※ちなみに、うらんかんろがこれまでに味わった「ニッカー・ボッカー」で一番美味しかったのは、 ロンドンにあるカクテル・バー、Montgomery Place(MP) で提供されているKnicker-bockerです。

 MPで修業し、現在は大阪で開業するバーテンダーにつくってもらいましたが、 MPのレシピは、ラム(Appleton V/X →なければMount Gay Rumで代用)(45ml)、オレンジ・キュラソー(Tanaka氏はグランマルニエを使用)(15ml)、レモン・ジュース(15ml)、生ラズベリー(7~8個)=シェイカーの中で潰す、シュガー・シロップ1tspで 、すべての材料をシェイクし、クラッシュド・アイスを詰めたグラスへ漉して注ぐ。飾りにはオレンジ・スライスと生ラズベリー(少々)をというもの。あぶないくらい美味しい味わいに仕上がりでした。

 ニッカー・ボッカーはラムと甘味と酸味のバランスが絶妙な、とても美味しいカクテルです。どうして現代のバーテンダーがもっとお客様に勧めないのか、僕は不思議で仕方がありません。どうかこの一文を読まれた皆さま、ぜひバーでこのカクテルを頼んでみてくださいませ。



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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
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