Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2015/07/12
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カテゴリ: カクテルブック
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 ◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

  13.ミリオネア(Millionaire)


 カクテル名は直訳すれば、「百万長者」というめでたい名前ですが、考案された時期や経緯、作者等についてはよく分かっていません。現在、ベースのお酒が違う、以下の3種類のミリオネアが伝わっています(スタイルはいずれもシェイクです)。

【ウイスキー・ベース】 ライ(またはバーボン)・ウイスキー(60)、オレンジ(またはホワイト)・キュラソー2dash、グレナディン・シロップ4dash、卵白(1個分)
【ジン・ベース】 ジン(40)、アブサン(20)、アニゼット1dash、卵白(1個分)
【ラム・ベース】 ラム(15)、スロージン(15)、アプリコット・ブランデー(15)、ライム・ジュース(15)、グレナディン・シロップ1dash

「ミリオネア」が一番早く登場したのは、現時点では、ハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)のカクテルブック「Harry's ABC of Mixing Cocktails」(1919年刊)で、ウイスキー・ベースのミリオネアでした。 マッケルホーン自身は、このカクテルについて、著書で「(自分のオリジナルではなく)ロンドンのリッツ・ホテルのBarで飲まれていたレシピから収録した」と記していますが、考案者や命名の由来についてはいっさい触れていません。

 マッケルホーンの本が取り上げている以上、おそらくは1910年代にはロンドンやパリのバーで飲まれていたことは十分想像されます。ちなみに、マッケルホーンのレシピは、 ライ・ウイスキー3分の2、グレナディン・シロップ1tsp(ティー・スプーン)、オレンジ・キュラソー2dash、卵白1個分(シェイク) です。
sa-Millionaire.jpg
1930年代以前に誕生したカクテルには、卵白を使うレシピものが散見されます。 あの有名なカクテル「ホワイトレディ」も、元々は卵白を使うのが標準レシピでした。実用製氷機はすでに登場しているとは言え、バーの現場では、氷はまだまだ高価な貴重品でした。

 このため、シェイクする場合でもそうふんだんには氷は使えず、カクテルをまろやかにして(アルコール度数を下げて)飲みやすくするために卵白を加えるという発想が生まれたと伝えられています。

 さて、ウイスキー・ベースに続いて誕生したのは、ジン・ベースのもので1920年代です。最後に登場したのは、ラム・ベースのもので、1930年代に考案されたと言われています。 世界的&歴史的には、ウイスキー・ベースのものが一番普及してきており、現在「ミリオネア」と言えば、通常ウイスキー・ベースのものを指します。

 ただし、最新のNBAオフィシャル・カクテルブックでは、ラム・ベースをメインに紹介し、ウイスキー・ベースのものは「主に米国で飲まれている」との但し書きを添えて触れている程度です。この背景には、おそらく、長く業界の教科書的な位置付けだった「The Savoy Cocktail Book」(1930年刊)がラム・ベースをメインにしていることと関係があるのでしょう。

 では、1930~1960年代の主なカクテルブック(「Harry's ABC Of …」以外)は「ミリオネア」をどう取り扱っていたのか、どういうレシピだったのか、ひと通りみておきましょう(※1920年代以前に欧米で発刊されたカクテルブックには収録例はありません)。

・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著、1930年刊)英 
ラム・スタイル =ジャマイカ・ラム3分の1、アプリコット・ブランデー3分の1、スロー・ジン3分の1、グレナディン・シロップ1dash、ライム・ジュース1個分(シェイク)
ジン・スタイル =ドライ・ジン3分の2、アブサン3分の1、卵白1個分、アニゼット1dash(シェイク)

・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」 (1930年初版刊、2008年復刻版刊)米 ライ・ウイスキー3分の2、グレナディン・シロップ3分の1、キュラソー2dash、卵白1個分

・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイアー著 1934年刊)仏 米 ライ・ウイスキーGlass2分の1、グレナディン・シロップ1dash、ペルノー1dash、卵白半個分(シェイク)

・「World Drinks and How To Mix Them」 (ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米 
ウイスキー・スタイル =ウイスキー2分の1、グレナディン・シロップ4分の1、キュラソー2dash、卵白半個分(シェイク)
ジン・スタイル =ジン2分の1、アブサン4分の1、アニゼット1dash、卵白半個分(シェイクして、カクテルグラスに注いだ後、ナツメグ・パウダーを振る)
ラム・スタイル =ラム4分の1、アプリコット・ブランデー4分の1、スロー・ジン4分の1、グレナディン・シロップ1dash、レモン・ジュース1tsp(シェイク)。
 ※別途。 「ミリオネア・ロイヤル(Millionaire Royal)」 というカクテルも掲載=ウイスキー2分の1、グレナディン・シロップ4分の1、アブサン2dash、キュラソー1dash、卵白半個分(シェイク)

・「The Official Mixer's Manual」 (パトリック・ギャヴィン・ダフィー著、1934年刊)米 
ウイスキー・スタイル =バーボン・ウイスキー1jigger、キュラソー3分の1jigger、グレナディン・シロップ1dash、卵白1個分(シェイク)
ジン・スタイル =ジン3分の2、ペルノー3分の1、卵白1個分、アニゼット1dash(シェイク)
ラム・スタイル =ジャマイカ・ラム3分の1、アプリコット・ブランデー3分の1、スロー・ジン3分の1、グレナディン・シロップ1dash、ライム・ジュース1個分(シェイク)。

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米 ジン3分の2、ドライ・ベルモット3分の1、グレナディン・シロップ少々(ステア)  ※マティーニのバリエーション的な捉え方です。

・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年初版刊)米 ライ(またはバーボン)・ウイスキー45ml、キュラソー23ml、グレナディン・シロップ4分の1tsp、卵白1個分(シェイク)

・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英 ジャマイカ・ラム3分の1、アプリコット・ブランデー3分の1、スロー・ジン3分の1、グレナディン・シロップ1dash、ライム・ジュース1個分(シェイク)  ※「サヴォイ…」のラム・スタイルとまったく同じ。

・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」 (ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 
ミリオネア1 =バーボン・ウイスキー4分の3、グレナディン・シロップ4分の1、キュラソー2dash、卵白1個分(シェイク)
ミリオネア2 =バーボン・ウイスキー3分の2、ペルノー6分の1、グレナディン・シロップ6分の1、キュラソー1dash、卵白1個分(シェイク)
ミリオネア3 =ジン3分の2、ペルノー3分の1、アニゼット1dash、卵白1個分(シェイク)
ミリオネア4 =プリマス・ジン3分の2、スイート・ベルモット3分の1、グレナディン・シロップ1tsp、パイナップル・ジュース少々、卵白1個分(シェイク)
ミリオネア5 =ジャマイカ・ラム3分の1、アプリコット・ブランデー3分の1、スロー・ジン3分の1、グレナディン・シロップ1dash、ライム・ジュース1個分(シェイク)
ミリオネア6 =スロー・ジン5分の3、ジャマイカ・ラム5分の1、アプリコット・ブランデー5分の1、グレナディン・シロップ1dash(シェイク)

・「Esquire Drink Book」 (フレデリック・バーミンガム著、1956年刊)米 ウイスキー1.5onz、キュラソー0.5ONZ、グレナディン・シロップ1dash、卵白1個分(シェイク)、

・「Booth's Handbook of Cocktails & Mixed Drinks」 (ジョン・ドゥザット著、1966年刊)英 バーボン・ウイスキー4分の3、コアントロー4分の1、グレナディン・シロップ1dash、卵白1個分(シェイク)、


 ミリオネアも比較的早い時期に日本に伝わりました。 文献で初めてミリオネアが確認できるのは、前田米吉著の「コクテール」(1924年刊) です。レシピはウイスキー・ベースで、 「ウイスキー3分の2、グレナディン・シロップ3分1、キュラソー1dash、ガム・シロップ2dash、卵白1個分、シェイクしてアブサン少量を加える」 、となっています。日本ではその後、ジン・ベースやラム・ベースのものも紹介されていますが、現在でも一番知られているのは、ウイスキー・ベースのミリオネアです。

 氷やさまざまな副材料がふんだんに使える現代、バーテンダーがカクテルで卵白を使うという発想はほとんどありません。しかし、卵白が意外とカクテルに相性が良く、より優しい、まろやかな味わいにしてくれる利点があります。「卵白カクテル」を知らないままなのは、カクテルの愉しみを自ら失っているようなものです。皆さんもどうか、オーセンティック・バーのカウンターでぜひ一度、「卵白を使ったカクテルを何かお願いします」と注文してみてください。




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うらんかんろ

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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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